半導体をめぐって、師走に入っても目が離せないニュースが続いている。
近い将来、テクノロジー領域の出来事を振り返ると、2023年は半導体に始まり半導体に終わった年として記憶されるかもしれない。
2023年12月4〜5日には、半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、岸田文雄首相、西村康稔経済産業大臣と面会した。
NHKによれば、フアン氏は日本での研究拠点の設置を検討していることを明らかにしたという。
エヌビディアの動きは現時点では「表敬訪問」といったところだろう。より重要なのは、東芝の動きだ。
12月8日には、ロームと東芝デバイス&ストレージが、パワー半導体を共同生産すると発表した。
この共同生産プロジェクトに対して、経済産業省が最大で1294億円を助成する。
電力供給を担うパワー半導体
まず、パワー半導体という言葉が耳慣れない。
サンケン電気(埼玉県新座市)という電子部品メーカーのウェブサイトの解説が比較的、分かりやすい。
半導体と聞いたとき頭に浮かぶのは計算や記憶を担う部品だが、パワー半導体は電力の供給や変換を担う半導体だ。
ほぼすべての電子機器に使われているが、「電気自動車のモーターを制御して加速したり減速したりする半導体」と説明すると、具体的にイメージしやすいだろうか。
ロームは最近、東芝の大株主に
今回のパワー半導体の共同生産計画には、以下の4社が参加する。
●ローム
●ラピスセミコンダクタ
●東芝デバイス&ストレージ
●加賀東芝エレクトロニクス
ラピスセミコンダクタは半導体大手ロームの子会社だ。そうすると、大ざっぱにはロームと東芝の共同生産プロジェクトであると理解できる。
今回の共同生産には、前触れがあった。
ロームは7月18日、株式の非公開化を目指す東芝に対して総額3000億円を出資する方針を発表している。
ロームは東芝の大株主ということになるが、この点についてはロームと東芝が12月8日のプレスリリースで次のように説明している。
「なお、ロームは株式会社東芝の非公開化に際して出資をしたことを公表していますが、本出資により、今般の両社による製造連携に至ったものではありません。半導体産業における国際的な競争環境が激化する中、ロームと東芝デバイス&ストレージでは、かねてよりパワー半導体事業における連携を検討しており、このたびの共同申請となったものです」
わざわざ説明する意図は不明だが、ロームと東芝の説明によれば、ロームが株主になったから共同生産に至ったわけではなく、その前から協業を検討してきたということになる。
今回の共同生産プロジェクトに投じられる資金は約3883億円。そのうち最大1294億円が経済産業省からの支援という内訳になる。
ローム側は宮崎県国富町にある工場で、おもにSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)パワー半導体を生産し、東芝側は石川県能美市の工場でSi(シリコン)パワー半導体を生産する計画だ。
宮崎県の工場では2026年4月、石川県の工場では2025年3月からの供給開始を目指すという。
共同プロジェクトの背景に経済安保推進法
共同プロジェクトは政府から手厚い支援を受けることになるのだが、背景には2022年5月に成立した経済安全保障推進法の存在がある。

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