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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第232回

日本に半導体トップ集まる 台湾の緊張高まる中で

2023年05月22日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 G7広島サミットの開催に合わせ、半導体をめぐる動きが激しい。

 2023年5月19日から始まるサミットを前に、岸田文雄首相は18日、米国、ベルギー、韓国、台湾の半導体に関連の大手企業7社のトップらと面会した。

 そのうちの1社、マイクロン・テクノロジーは今後数年間で、広島県にある工場などに最大5000億円を投資する計画を明らかにしている。

 韓国のサムスン電子も、横浜市に開発拠点を新設する方向で検討しているという。

 各社の動きは、いずれも日本政府による資金面の支援が前提となる。

 背景には、累計2兆円の予算で、日本政府が半導体分野での巻き返しを図るため、外国企業を誘致している流れがある。

 また、半導体の製造に関する施設は台湾が世界最大の集積地だが、中国と台湾の緊張が高まる中で、主要国の政府や半導体関連企業が、製造拠点の分散化を進める動きを加速している。

日本投資強める各社

 18日に開かれた日本の首相との会合には、以下のメンバーが出席した。

  • TSMC・会長=台湾
  • インテル・CEO=米国
  • マイクロン・CEO=米国
  • サムスン電子・CEO=韓国
  • アプライドマテリアルズ・プレジデント=米国
  • IBM・シニアバイスプレジデント=米国
  • IMEC・エグゼクティブバイスプレジデント=ベルギー

 各社は、おおむね日本への投資を拡大する意向がある点で共通する。

 台湾の半導体メーカーTSMCは、熊本に大規模な工場を建設中だ。

 インテルは18日に、量子コンピューターの研究開発で、理化学研究所と提携する方針を明らかにしている。

 日経新聞によれば、アプライドマテリアルズは、日本での採用を拡大するという。

 ベルギーの研究機関IMECも、日本に拠点を設ける準備を進めている。

「異例」の会合

 7社の幹部が顔をそろえる公式の会合について、日経新聞は「世界の半導体大手の幹部が一堂に集まるのは異例」と報じている。

 「異例」の会合が実現した要因として、おおむね以下の2点が挙げられるのではないか。

 まず、2年ほどの日本政府の動きがある。

 経済産業省は2021年6月に「半導体戦略」を発表し、海外の有力な半導体関連企業の誘致を進めてきた。

 18日の会合でも、岸田首相が「政府を挙げて、対日直接投資のさらなる拡大、半導体産業への支援に取り組んでいきたい」と述べている。

 各社のトップやそれに次ぐ立場の幹部が出席を決めたのは、資金面で政府からの手厚い支援が期待できる状況の中、各社と日本政府の利害が一致したというところではないか。

 2点目としては、世界的な半導体サプライチェーンの多様化の流れが挙げられる。

 2020年秋ごろ、世界的に半導体の供給が不足した。

 米国と中国の緊張が高まり、米政府が禁輸措置の対象としたことで、米国企業による中国の半導体大手からの調達が一気に減少した。多くの場合、これが世界的な半導体不足の引き金になったと分析されている。

 世界市場は半導体の供給で台湾と中国に大きく依存してきたが、特定の国や地域に依存しすぎると、大国間の関係悪化や感染症、戦争などをきっかけに、世界的に必要な半導体が確保できない事態に陥る。

 この経験から、中国と台湾に大きく依存してきた世界市場への半導体サプライチェーンの多様化が議論されるようになった。

 G7に出席する各国の政府は、半導体サプライチェーンを多様化する必要があるとの認識では大筋で一致しているのだろう。

英国との関係強化

 日本への誘致だけでなく、日本から海外への投資の動きもある。

 G7で来日した英国のスナク首相は18日、丸紅や住友商事などの日本企業が、洋上風力発電などの分野で、3兆円規模を投資することを明らかにしている。

 日英両国の首脳は同じ日の夜、両国の関係強化を明記した「広島アコード」を発表している。

 広島アコードには、次のように、半導体分野における関係強化も含まれている。

 「我々は、重要な産業部門及び世界を変えるデジタル技術にとっての半導体の重要性を認識する。我々は、この目的を達成するため、産業科学、イノベーション及び技術並びに半導体分野における新たなパートナーシップを創設する」

 日本政府の公表資料によれば、日英両国は「半導体パートナシップ」を創設し、半導体の共同研究・開発における連携を模索するという。

 ただ、首相官邸で開かれた会合に出席した7社には、英国企業は含まれていない。

 スナク首相が明らかにした3兆円の対英投資は、いまのところクリーンエネルギー分野が中心とされている。

 今後、半導体関連でも日本企業の英国拠点設置といった具体的な動きが出てくるだろうか。

 

筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。

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