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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第325回

トランプ政権、アメリカ永住権を7億5000万円で「販売」

2025年03月04日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 米国のトランプ大統領が2025年2月25日、永住権を500万米ドルで「販売」すると語った。

 500万ドルを3月1日のレート1ドル≒150円で日本円に換算すると、7億5000万円ほどになる。米経済メディアCNBCによれば、この永住権をトランプ大統領は「ゴールドカード」と呼び、2週間ほどで、新制度を開始するという。2月25日から数えると、3月10日の週ごろからこのゴールドカードの「販売」がはじまることになる。一定以上の金額を投資する外国人に対して在留を許可する制度は、米国を含む各国が導入しているが、500万ドルは世界でもっとも高額になるとみられている。

 ゴールドカードは、不法移民の強制送還を強化する一方で、富裕層を移民として米国に誘導する政策と言え、米国内外からの強い批判は免れないだろう。しかし、世界的な富裕層や高度人材の獲得競争の観点からは、かなりしたたかな政策に映る。テクノロジーに関連する分野でも、米国への人材の集積がさらに進む可能性がある。

日本では原則10年、最短1年の永住申請

 米国の永住制度は「グリーンカード」という名で知られている。米国人の夫や妻、子、婚約者らに対して永住を許可するほか、投資家を対象とした永住制度もありEB-5ビザと呼ばれている。米市民権・移民業務局によれば、このEB-5ビザは、原則として105万ドル(約1億5750万円)以上を米国に投資し、2年以内に10人以上の雇用を創出する投資家にグリーンカードが付与される。

 この投資家向けのグリーンカードの要件を詳しく見ると、かなりハードルが高いことが分かる。投資額が高額であることはもちろんだが、本格的に米国に進出するベンチャー起業の創業者などでないと、簡単に手を挙げられる仕組みではないだろう。

 一方、日本にはいまのところ、直接的に投資家を対象に永住を許可する制度はない。日本で永住を申請するには、原則として日本での在留を10年以上続け、年収などの面で安定した生活を続けてきたか、税金や年金をきちんと払っているかなどが審査される。

 日本人の夫や妻の場合、10年が3年に短縮される。さらに、一定の年収や職歴、学歴のある会社員や経営層、研究者といった「高度専門職」の人たちが、日本での在留1年で永住申請ができる仕組みもある。出入国在留管理庁によれば、2023年末時点で、2万3598人が高度専門職として日本に在留している。この高度専門職という制度は、アジアの高度人材を日本に誘導するうえで、一定の役割を果たしているのではないか。

まさに「金で解決」になりそう

 米国と日本の永住制度を確認してみると、米国の投資家向けグリーンカードはガチで投資をして、米国で腰を据えて事業に取り組みたい人を想定しているようにみえる。日本の永住制度は、日本との結びつきや、高度人材に該当するか否かを問わず、労働者としての日本経済への貢献が求められる。

 米国の投資家向けのグリーンカードは、資金力のある人からすれば、「めんどうな制度」ではないだろうか。1億5千万円余を投資する資金力があるとしても、米国で10人の雇用を創出するのは、事業の形態によってはリスクにもなるだろう。制度の詳細はまだ明らかにされていないが、トランプ大統領が500万ドルで「売る」と言っている以上、めんどうな雇用創出の要件などは抜きにして、犯罪歴などに関する一定の審査は残るとしても、よりシンプルに金で解決する制度になるのではないか。トランプ大統領は25日の記者会見で、ゴールドカードはEB-5ビザに置き換わるものになることを明らかにしている。

 そうなると、5倍の金額を払って、より自由なゴールドカードを手に入れたいと考える富裕層はいるはずだ。CNBCによれば、トランプ大統領は「バカ売れするだろう」と述べている。

人材獲得で優位狙う米国

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