ヒトではなく細胞が生き続けている
'18年の日本人の平均寿命は、女性が87・32歳、男性が81・25歳。今から約50年前(1970年)と比べると、女性は約13歳、男性は約12歳も延びています。このままどんどん延び続けていくと、2050年には女性は90歳を超えると見られています。ちなみに、平均寿命とは、“その年に生まれた子供(0歳)が、その年の死亡率が変わらないとして平均何年生きられるか”です。その年に亡くなった方の平均年齢ではありません。ちなみに私が生まれた1980年は女性の平均寿命が80歳いくかいかないか……のようなので、あと40年は頑張って生きようと思います。お、ちょうど今年半分生きたことになります!
とはいえ、がんばって生きたとしても最終的には必ず死が訪れます。周りを見ても、「オレ実は不老不死なんだ!」という人は100%いません。目の前にいる人々は、よほどの医療技術などの発展がない限り、淋しいかな150年後には絶対にいません。数年先の未来が見えないことに不安を感じる人間ですが、全員に共通していることは、最終的には召される、ということなんですよね。うん、うちの早死にした父ちゃんも言ってた。
が、その人間としての“死”を迎えても、“細胞”として生き続ける女性がいます。彼女の名は『ヘンリエッタ・ラックス』。今から100年前の1920年に生まれ、31歳にして若くしてがんで亡くなったアメリカの女性です。彼女の細胞は、初のヒト由来の細胞株で、しかも死なない細胞『HeLa(ヒーラ)細胞』として知られています。そう、いまだ細胞として、この女性は生き続けているのです。その細胞は主に研究で用いられていますが、有名なものにこの細胞を利用した“ポリオワクチン”の開発があります。彼女の命はなくなっても、この世界の役に立ち続けているなんてちょっと胸熱ですが、実はこの細胞、元はラックスさんの知らないところで、治療の際にラックスさんのがんの部分(病変部分)から取り出されたものなのです。 数々の診断や治療もむなしく、ラックスさんは1951年に亡くなります。ですが、彼女から取り出した細胞は生き続け、しかも成長していたのです。
それまで、ヒト由来の細胞株は、人間の手で安定かつ長期間培養することができていませんでした。アメリカの生物学者であるジョージ・オットー・ゲイさんも、このヒト由来の細胞株の安定培養にチャレンジしていたひとりです。ある日ゲイさんは、ラックスさんの病変部分のかけらを入手します。そして、それを使っていろいろと実験・研究した結果、細胞の分離と細胞株の培養に成功したのです! ゲイさんは、この細胞に、ラックスさんの名前から“HeLa細胞”と名付けたのです。
とにかく、HeLa細胞の増殖力はすごく、他の細胞と比べても抜きん出ていました。しかもその細胞は死なず、細胞分裂を無制限に繰り返すことができます。しかし、なぜこのような細胞が存在するのでしょうか? これには、ある仮説があるようです。
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