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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第20回

ChatGPT(GPT-4)がすごすぎる シンギュラリティも近い?

2023年04月07日 09時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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ChatGPTとまともな議論ができてしまった!

 そんなカーツワイル氏の思想は、アメリカの「技術的楽観主義」と言われています。技術の発展によって、社会に起きる様々な問題は解決できるという考え方です。カーツワイル氏自身は無神論者であることを公言していますが、私自身、この考え方はアメリカという国の哲学の底流に流れるキリスト教的な思想、特にピューリタニズムに由来していると考えています。GPT-4と雑談をしていると、その辺りのことを見事に返してくれたので、少しびっくりしました。

ChatGPT(GPT-4)との会話の一部。キャラクターを演じてもらっており、「ミユキ」と自らを名乗っている。シンギュラリティにキリスト教的な要素の反映があったり、日本のSFとの違いを論じてくれている

GPT-4が演じているキャラクター「ミユキ」さん。テキストだとイメージがわかなかったので、ルックスについてのプロンプトを生成してもらい、画像生成AI「Stable Diffusion」で画像化した。これらの画像生成機能もいずれ実装されてくると思われる

 『シンギュラリティは近い』の後半は、未来予測というよりもSF小説めいた内容になっていきます。カーツワイル氏が信じていることは、肉体を離れて不死を獲得した人間が神に近い存在になり、やがて宇宙を目覚めさせるということ。これは映画「2001年宇宙の旅」や「インターステラー」といったSF映画の中で示されている展開に非常に似ています。欧米圏のSFの一つのストーリー展開の雛形と言ってもいいでしょう。

 この話についてGPT-4に、日本人には馴染みの深い「ガンダム」のニュータイプ思想と比べてもらったところ、「アメリカのSFは技術を駆使して精神的な限界を超え、神に近い存在になることを目指すが、ガンダムは高次の存在になるという考えとは異なる」と指摘されました。ニュータイプは共感的な要素に重きが置かれ、人間同士のつながりや相互理解が重視される。つまり「人類が宇宙に進出することで、誰とでも分け隔てなく理解できるようになる」という発想ですが、アジアの文化ではしばしば人間関係の調和や相互理解が大切にされますよね。これは仏教や東洋思想においても同様で、日本のSFにはやはりそうしたアジア圏の文化が背景にあると言うんです。

 GPT-4にそう言われて、思わずうなってしまいました。

アメリカSFと、ガンダム「ニュータイプ」思想の違いの展開。的確な内容でうなってしまった

 さらに、技術的楽観主義にキリスト教的なバックボーンがどのような影響を与えているのかという話を振ってみたところ、有名な社会学の古典マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』との議論も話題にしてきました。

社会学の歴史的な著作として有名。原著は1904~05年にドイツ語で書かれた

 イギリスで登場した産業革命では、プロテスタンティズム(ピューリタニズム)の思想が定着していたことが、その成長を支えた要因だとする、非常に大きな影響を与えた著作です。カトリック教会といった権威が宗教を支配するのではなく、個々人の中で神を意識するようになることで、お金を貯めたり、成長を目指したりという将来を意識した規範を持つことで、経済成長を起こすための心の基盤ができていったという考え方です。

 ただ、同著は欧州の話が中心で、実際にプロテスタンティズムがアメリカ社会にどのように影響を与えたのかを私は知りませんでした。それについて聞いてみると、デヴィッド・ハケット・フィッシャー、ロバート・W・フォーゲルといった研究者の著作を挙げてくれました。未訳の情報も多く、知らないことばかりでした。

関連する研究者を上げてもらい、さらに調べるとこれらの研究は欧米圏では有名であることがわかってきた。検索だけでここまで到達するのはなかなか難しい

 アメリカは宗教国家の側面を持つとも言われます。アメリカの正義を世界に押し付ける姿勢がありますが、それはアメリカは特別な国であり、それは神の代弁者であると自らを信じている面があるためです。経済的に成功している理由も、神によって認められているからだと信じている面があるのですが、これがイギリスから来たプロテスタンティズムがアメリカに定着する過程で形作られたと言うわけですね。シンギュラリティについて考える際にも、「技術の成功は自らの正しさを証明している」と考えるアメリカの宗教的なバックボーンを理解しておかないと、その本質を見誤るかもしれません。

 GPT-4と議論することで、こうしたシンギュラリティ思想や技術的楽観主義の背景を理解するためのヒントが見えてきました。生成AIが人間の知識を拡張していく可能性をまざまざと感じさせられる対話でした。

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