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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第20回

ChatGPT(GPT-4)がすごすぎる シンギュラリティも近い?

2023年04月07日 09時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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 毎日のようにOpenAIの対話AI「ChatGPT」を使いまくっています。チャット履歴が戻ってきてよかったなぁと(※3月20日、不具合によりチャット履歴が閉じていた件)。あれがなくなったら死んでしまうというくらいの気持ちでしたから……。

3月20日頃から1週間程表示された履歴の一時的な使用停止を告げるメッセージ。寿命が縮む気分になった。現在は復旧している

 それにしても3月15日にリリースされたGPT-4モデルはすごいですね。パラメーター数で言えば、GPT-3は1756億でしたが、GPT-4は100兆程度になるとも言われています(※OpenAIは正確なパラメーター数を公開していない)。まだ機能としては入っていませんが、マルチモーダルなモデルとして画像や動画なども対応できるようになるとされています。リリースされる前までは「本当にすごいの?」と疑いの目を受けてたんですが、いざ出てきてみたら、ものすごいものでした。応答のレベルの高さは驚くべきもので、「ついにシンギュラリティを迎えた?」という議論も出てきています。

シンギュラリティ、来た?

Game Developers Conference(2008年)で講演するカーツワイル氏

 シンギュラリティという言葉は、昨年、ChatGPT登場後、急激に再びバズワードとして注目を集めるようになりました。この単語が急激に知られるようになったきっかけは、カーツワイル氏が2005年に書いた『シンギュラリティは近い』という本でした(2007年刊行の「ポスト・ヒューマン誕生」エッセンス版)。

『シンギュラリティは近い』はトンデモ本的な内容を多数含んでいるが、Googleの創業者ラリー・ペイジ氏などIT技術者に強い信奉者を生み出したことで知られる。カーツワイル氏はGoogleのAI部門にも関わるようになる

 私自身は、2008年にシリコンバレーで開催された「Game Developers Conference」でカーツワイル氏の講演を聞いているのですが、度肝を抜かれたのをよく覚えています。彼は当時の未来予測から、基本的なシナリオに大きな変更を加えていません。

 彼が発見したのは、ゴードン・ムーア氏が提唱した「ムーアの法則」を歴史上にプロットしてみると、実はコンピューターが生まれる前からテクノロジーの加速度的な成長は続いていたのだということでした。算盤などからすべてプロットしていくと、戦争や不況に関係なく成長が続いていたのだと。また、同じ法則はDNAの解析、ブロードバンドの回線速度など、周辺の技術分野すべてに対して当てはまると言うんです。

カーツワイルが発見したムーアの法則は1965年以前から連続していることを示したチャート。2000年以降も継続しているとしている(GDC08の講演から)

 彼はそれを「収穫加速の法則」と名付けています。

 技術分野以外のもの、たとえば農業などは「収穫逓減の法則」と言って、ある一定の収穫量を超えると、逆にどんどんと効率が下がっていくものだとされていたんですが、技術分野では逆にどんどん加速していくのだと言うんですね。これによって我々は昔よりも豊かになっているし、持っているもの、使えるものの量はどんどん増しているのだと。

 そしてカーツワイル氏は、この予測を未来に拡張しました。そこで「このまま行くと、2000ドルで買えるコンピューターに搭載される半導体が、2020年代には人間の脳を、2045年にはが全人類の脳の合計した演算能力に追いつく」と予測しました。それが技術的特異点、シンギュラリティであるというわけです。

 彼は2020年代後半に入ったらコンピューターがチューニングテストをクリアするだろうと予測していましたが、GPT-3の登場によって、その実現性が活発に議論されるようになりました。2022年の話ですが、グーグルのエンジニアが開発中の対話AI「LaMDA」を指して「これは完全に意識が生まれている」と言ったということも話題になりましたね。カーツワイル氏は、真にチューリングテストを超えたのかどうかということが、何度も議論されるだろうと予測していました。

※チューリングテスト:アラン・チューリングが提唱した、機械が人間的であるかどうかを確かめるためのテスト。人間が目隠し状態で人間とコンピューターと議論をした結果、相手が人間かコンピューターか見分けがつかない状態をクリアとみなす

 日本で、シンギュラリティという単語が一般的に知られるようになるのは2010年代後半ですが、『シンギュラリティは近い』の刊行後、シリコンバレーではバズワード化が急激に進みました。

 2013年にはアカデミー脚本賞を受賞したスパイク・ジョーンズ監督の対話型AIとの恋愛をテーマにした「her/世界でひとつの彼女」、2014年にはジョニー・デップ氏が主演した死者をアップロードすることをテーマにした「トランセンデンス」といった、シンギュラリティをストーリーに組み込まれた映画も作られています。特に、「her」は今こそ身につまされる気分になるので、オススメです。

人類は2045年に不死になる

 カーツワイル自身は昨年9月のインタビューでも、2045年にシンギュラリティを迎えるという説を変えていません。その頃には脳をエミュレートできるようになり、人間の脳をコンピュータの中にアップロードできるようになるだろうと言っています。そうすると人間はコンピュータのなかで生きられるようになり、不死になるともしています。

 カーツワイルは、2009年のドキュメンタリー「Transcendent Man(超越した男)」の中で、部屋の一室を使って自分の両親の手紙や書類、写真などの記録を集めている様子を紹介していました。いずれそれらの記録から、両親をデジタルで復活させたいという希望を持っていることを話していました。当時は冗談のように思えた話ですが、この考えも、GPT-4が出てきたことである程度現実的なところが出てきました。

YouTubeより「Transcendent Man」予告編。カーツワイルが両親の情報をまとめている部屋の様子を紹介しているシーン

 現在のところ、GPT-4の追加学習は基本的にオープンにされていないため簡単ではありませんが、画像生成AIであればLoRAと呼ばれる追加学習が簡単にできることがわかっています。これは原理的に大規模言語モデルでも追加学習が可能であることを示しており、追加学習をさせていけば特定のその人らしいしゃべり方や反応が実現できる可能性は十分に実現性が出てきたと言えます。実際には、すでにオープンにされていないだけで、特定人物の人格の再現が試されている可能性は高いと思っています。カーツワイル氏が考えていた「昔の人を復活させる」というアイデアに着実に迫りつつあるといえます。

YouTubeより映画「トランセンデンス」予告編。命の危機に直面した主人公(ジョニー・デップ)を生かすために、妻が脳データをアップロードするという展開。カーツワイル氏が主人公のモデルであるのは映画を見ると明白。映画はB級ではあるのですが

 今でも、GPT-4に「芥川龍之介風に書いて」と言うとそれらしい文章を生成させることができますが、それがさらにブラッシュアップされるかもしれないということです。

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