水素でレース! ルーキーレーシングのカローラは
今年は液体水素燃料で耐久レースに挑戦!
2月23日に富士スピードウェイで行なわれたスーパー耐久の公式テストで、豊田章男社長率いるルーキーレーシングの新たな挑戦が公開された。
昨年まで使用していた「OCR ROOKIE GR Corolla H2 concept」を、大幅に改良。と言うより、作り替えてきたと言う方が正しいだろう。と言うのも、気体水素を使用していた昨年モデルに対し、今シーズンは液体水素を使用してレースに挑むと言う。
では気体が液体に変わることがどういう事なのか、開発ドライバーの佐々木雅弘選手に聞いてみた。
「昨年、一昨年と、気体水素で走らせていたのですが、メリットとデメリットを考え液体水素での挑戦に踏み切りました。燃料を気体から液体にするにあたって、マイナス253度の液体水素をタンクに積みます。そこからエンジンの燃焼室に送るまでに、気化させなければなりません。その気化した水素を、爆発させて車を走らせるわけです。
言葉にすれば簡単なことですが、液体水素を気体化させるには工場丸々1個分くらいの施設が必要なんです。そのシステムを車に積んで走るわけですから、発想自体が不可能な話らしいです。そんな無茶な挑戦ですから最初に試作車に乗った時は、マシンに煙突がついてたんです。さすがに大丈夫かなと、不安になったくらいです。エンジンをかける時も、映画で見るロケットの打ち上げみたいに、色々なスイッチを操作してカウントダウンする感じでした。なんか、とんでもないプロジェクトに参加してる感じでしたね」
開発当初の話も交えて話してくれた。単純に考えてもマイナス253度の液体を、気化させてエンジン内で爆発させるのだからとんでもない話だ。規模感が違うと言うのも頷ける。
そもそもタンクや液体水素を汲み上げる燃料ポンプ、インジェクターの素材も特殊な物を使用しなければならない。その辺を興味津々で聞いてみると……。
「タンクに関して詳しい材質までは言えませんが、種類的には鉄を使用しています。技術的にはすでにカーボンで対応できているのですが、法律上の問題で鉄を使用せざるを得ないんです。これに関しては、技術に法律が追いついていない感じですね」
と佐々木選手。そもそも液体水素を積んでレースするなんて、考えもつかない話なのだから仕方がない。
汎用パーツが使えず試行錯誤の連続
「燃料ポンプやインジェクター的なものに関しては、試行錯誤の連続です。まず作ってみて不具合が出たら素材を変える。良いものは残し、新たに作り変えるといった作業の繰り返しです。昨年11月くらいから実走させていますが、トライアンドエラーの繰り返しですね」(佐々木)
解決しなければいけない問題は山積み
だがクルマの未来がかかっている
新しいことへの挑戦だけあって、問題は山積みだ。事実、3月18~19日に鈴鹿サーキットで開催される、スーパー耐久開幕戦を、直前のトラブルが直らずにスキップすることになった。
これまでにも数えきれないほどの試作が行なわれたうえで、テストで公開できるまでに至ったわけだ。それだけでも開発者たちは、達成感を覚えているだろう。だがレース仕様だとどうなのか聞いてみると……
「昨年まで使用していたGR Corolla H2 conceptは、気体水素を3本のタンクを積んで走らせていました。それが液体になると1個のタンクですみます。航続距離も気体水素の約2倍走る計算になります。この距離は、ガソリンエンジンでレースする車両と同等の航続距離になります。ですが、これも法律で積載容量が決められていて、現状は思うような成果は上げられていません。エンジンパワーに関しても、気体水素と比べても劣っています。加えて鉄製のタンクで車重も増えてしまっていますので、現状レースを戦えるスピードは出せていません。
ただ、それは今だからです。気体水素の時もそうでしたが、開発が進めばマシンのパフォーマンスは格段に上がりました。法律が追いついてくれば、鉄のタンクをカーボンに変えられるでしょう。それだけでも100kg超の軽量化になります。昨年までのGR Corolla H2 conceptもそうでしたが、このマシンも伸び代しかありませんから。まだまだ始まったばかりのプロジェクトです。レースを楽しみながら、車を鍛えて未来につなげていきたいです」(佐々木)
これまでROOIKE RACINGが新しいトライを始めるたびに、佐々木選手には話を聞いてきた。佐々木選手はその都度、レースで勝つことよりレースや車の未来のためにと言い続けてきた。その結果、スーパー耐久シリーズにST-Qクラスができたし、気体水素のマシンもパフォーマンスを上げてきた。ROOKIE RACINGの挑戦は、確実に車の未来を動かしている。
今回ピットに貼られた横断幕には「水素で未来を動かせ」と大きく書かれていた。この液体水素のレーシングカーは、未来を大きく動かす礎になる可能性を秘めているのかもしれない。
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