量子コンピューティングの元祖をうたうNECが目指す超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発
量子技術の研究開発の歩みを進めるNEC
先に触れたように、NECは、超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発に取り組んでおり、2023年までに実用化を目指している。ここでは、量子重ね合わせ状態が持続する時間の長さを示す量子コヒーレンス時間を、従来の研究成果に比べて、100倍にすることを目指しているという。
また、量子暗号通信技術では、2つの技術に取り組んでいる。
重要基幹システム向けの長距離伝送技術に位置づけられるBB84方式は、約20年間に渡って研究を進めてきたもので、現在、プロトタイプを開発し、2022年度中の製品化を目指している。同方式では、鍵配送専用ファイバーが必要になるが、光通信装置などで培ったNEC独自の技術を応用することで、環境条件が厳しい既設の光ファイバーでも安定動作を可能にしている。都市間基幹網での安全性を確保し、重要情報の早期保護を実現するという。
もうひとつのCV-QKD方式は、2024年の商用化を目指しており、研究開発を加速しているところだ。課題となっていた安全性が保証され、安価な汎用部品の活用が可能であるほか、光通信装置などで培ったデジタル技術の応用により、装置の小型化や低コスト化が可能であり、既存の通信用光ファイバーとのデータ通信の共用も可能になっている。オフィスビルや店舗など、あらゆる拠点での保護が実現できるのが特徴で、量子暗号技術の導入障壁を解消できるとする。
BB88方式とCV-QKD方式の両方の技術に取り組んでいるのは、日本の企業ではNECが唯一。これにより、量子暗号技術の導入を促進し、安心、安全なデータ流通基盤を整備する考えだ。
さらに、NECでは、量子ゲート型量子コンピュータ領域においても、研究開発を進めているという。
NECでは、科学技術振興機構(JST)による研究開発プロジェクト「超伝導量子回路の集積化技術の開発」に参加し、超伝導量子回路の集積化技術の開発に取り組んでおり、この技術を活用することで、超伝導量子ビットの大規模化や高集積化が可能になると見込まれている。長期的な取り組みにはなるが、2050年には、大規模な超伝導量子コンピュータの実現を目指しているという。
「量子コンピューティングの元祖」を自負するNECは、将来に向けて、量子技術の研究開発の歩みを着実に進めている。