AIスタートアップが知るべき Googleに学ぶAI特許戦略とは
「AI(人工知能)スタートアップと考える知財戦略 by IP BASE in 愛知」
特許庁ベンチャー支援班は2021年10月1日、スタートアップ向けの知財戦略オンラインセミ ナーイベント『AI(人工知能)スタートアップと考える知財戦略 by IP BASE in 愛知』を愛知県のなごのキャンパスから無料配信した。イベントでは、AIやソフトウェア分野を専門とする 河野特許事務所 所長弁理士の河野 英仁氏によるセミナー「AIスタートアップの知財戦略 ~Googleに学ぶAI特許戦略~」と、愛知県のスタートアップ2社との公開相談会を実施した。
冒頭では、愛知県経済産業局スタートアップ推進課の嵯峨﨑 隼大氏が登壇し、2024年に開設予定のスタートアップ創出拠点「STATION Ai」の前身組織である「RE-STATION Ai」の活動と、愛知県のスタートアップ支援の取り組みを紹介した。
愛知県では2018年10月にAichi-Startup戦略を策定し、スタートアップにフォーカスしたイノベーション創出に取り組んでいる。
建設予定のスタートアップの中核支援拠点「STATION Ai」は、延べ床面積約2万3千平米、スタートアップの入居スペースのほか、テックラボやカフェなどの機能も実装される。2024年のオープンまでの間は、WeWorkグローバルゲート名古屋内に「PRE-STATION Ai」を開設。2021年12月現在48社が入居し、常駐する統括マネージャーによる支援のほか、講師を招いた勉強会や定期メンタリングが実施されている。愛知県のスタートアップ支援施策について詳しくは、 愛知県スタートアップ推進課Webサイト、Aichi-Startup推進ネットワーク会議ポータルサイトを参照のこと。
特許庁が運営するスタートアップの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」では、知財アクセラレーションプログラムIPASの最新情報、先輩スタートアップのインタビュー記事、知財戦略事例集の公開、知財セミナー・勉強会情報などのコンテンツを掲載。また2021年度からはYouTubeチャネルを開設し、知財の基礎知識や支援施策を配信している。
知財アクセラレーションプログラムIPASは、創業期のスタートアップに対し、知財とビジネスの専門家からなる知財メンタリングチームを派遣して、ビジネス戦略と知財戦略の構築を支援するプログラム。過去3年間で40社を支援し、2021年度は20社が採択された。2020年度のデモデイの様子をYoutubeで公開しているので、興味のある方は視聴してみては。
そのほか、スタートアップは特許料等が3分の1になる減免制度、最短2.5カ月のスーパー早期審査、47都道府県に設置されているINPIT知財総合支援窓口について説明した。
AIスタートアップの知財戦略~Googleに学ぶAI特許戦略~
河野氏によるセミナー「AIスタートアップの知財戦略~Googleに学ぶAI特許戦略~」では、GoogleのAI特許戦略をモデルケースに、AIスタートアップが注意すべきポイントを解説。
GoogleのAI特許は、「AIアルゴリズム特許」と、既存のAI技術をヘルスケアや自動運転等に利用する「AI利用発明」の大きく2つに分けられる。
アルゴリズム特許は権利侵害の立証が困難だが、Googleは、ドロップアウト特許、バッチノーマライゼーション特許、Seq2Seq特許、Transformer特許などAI基本特許を多数取得している。権利化した技術をオープンソースで広く利用を促進し、自社クラウドサービスのシェア拡大に役立てるのがGoogleの特許戦略の特徴だ。またMicrosoftやFacebook等の競合とはクロスライセンスに活用している。
パテントトロールの対策には米国の仮出願制度を活用した高速特許戦略を採用。例えばドロップアウト特許は、2013年に出願しており、かなり早い時期に動いていることがわかる。
用途特許の例としては、医療イベント予測特許を紹介。医療イベント予測は、病院に搬送された患者の現在の病状と、過去の検査・治療履歴からAIが将来の症状を予測し、処置内容の決定を支援するシステムだ。もともとは通勤中の交通量の予測AIや、翻訳ソフトの言語予測AIの技術を臨床予測に使用できないか、というアイデアから生まれたものだそう。AIは多彩な産業分野へ活用されるため、同じ技術であっても異分野への転用で利用発明の特許が取れる可能性がある。
早い段階で出願するためのポイントとして、AIモデルの構築前でも出願できるので基本コンセプトを早期に出願し、1年以内に国内優先権を主張して内容補充すればいい、とアドバイス。注意点として、プレスリリースや顧客提案の前に出願を終えておくことを挙げた。
立命館大学情報システム学博士前期課程修了、米国フランクリンピアースローセンター知的財産権法修士修了、中国清華大学法学院知的財産夏季セミナー修了、MITコンピュータ科学・AI研究所 AIコース修了。AI、 IoT、 FinTech、ビジネスモデル特許のほか、米国・中国特許の権利化・侵害訴訟を専門としている。
スタートアップの公開知財相談会
イベント後半は「PRE-STATION Ai」に入居するスタートアップ2社からの知財に関する質問に対して河野氏が回答する公開知財相談会を実施。AIを用いたマップ・ナビシステムを開発する株式会社New Ordinaryの取締役副社長COO 和歌 汰樹氏からは、MaaS業界の出願傾向、商標出願の優先順位について質問。
MaaSは車載センサーや認識情報は日本企業が多く、AIや遠隔操作は米国が得意とするなど傾向がある。まずは自社サービスの領域にポイントを絞って特許調査するといいと回答。商標についてはプロダクト名が優先されるが、特許ほど費用はかからないので社名も早めに出願しておくことをアドバイスした。特許情報プラットフォーム J-PlatPat を使えば、特許や商法を無料で検索できるので、まずは自分で簡易検索するといいだろう。
続いて、病虫害診断AIアプリを開発する株式会社ミライ菜園の代表取締役 畠山 友史氏から、病害虫の発生予測の特許を取得したが競合へのけん制効果はどの程度あるのか、権利範囲を広くするには、といった悩みを相談。
AI特許は2015年ごろから登録されるようになったので、AI紛争はまだ事例が少なく、これから増えると考えられる。防御効果は表には見えにくいが、他社は競合の特許を回避してプロダクトを出してくるので、それなりに参入障壁としての効果はありそうだ。
強い特許にするには、内部処理の特徴よりもインプットとアウトプットの特徴やUIなど、目に見える特許として取るのがポイント。
1件の特許で競合を排除するのは難しく、ある程度の件数が必要。まずは他社の特許を調査し、専門家の力を借りながら特許戦略を立てていくといいだろう。