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ゲノム編集という新産業を開拓 高効率かつ安価な産業動物領域の生産プラットフォーム構築を目指すスタートアップ

株式会社セツロテック 代表取締役社長 竹澤 慎一郎氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンクhttps://ipbase.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。


 株式会社セツロテックは、ゲノム編集の受託サービスを提供する徳島大学発バイオスタートアップ。ゲノム編集という新たな産業を開拓するため、知財とビジネス戦略のセカンドオピニオンを求めて、特許庁による2019年度の第1期知財アクセラレーションプログラム「IPAS」に応募。同社が手掛けるゲノム編集サービスの現在と、知財支援プログラムで得たことについて、セツロテック代表取締役社長 竹澤 慎一郎氏に伺った。

株式会社セツロテック 代表取締役社長 竹澤 慎一郎氏
東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。独立行政法人科学技術振興機構、株式会社インスパイアを経て、2006年に株式会社バイオインパクト、2007年にゼネラルヘルスケア株式会社(現GH株式会社)を設立。2017年、竹本龍也氏らと共に株式会社セツロテックを創業。

独自のゲノム編集技術で産業動物の商品開発を支援

 株式会社セツロテックは、徳島大学教授の竹本 龍也氏が2015年に開発した、ゲノム編集マウスを高効率に作製できる「受精卵エレクトロポレーション法」(GEEP法)と、同大学准教授の沢津 橋俊氏の開発した培養細胞で高効率ゲノム編集を実現する「VIKING法」の事業化を目指して2017年2月に設立。現在は徳島大学内に本社と研究所を置き、約30名のメンバーで研究開発に取り組んでいる。

 セツロテックの強みは、高効率かつ安価にゲノム編集マウスを作製できる点にある。従来の1つ1つの受精卵にゲノム編集ツールを導入していたマイクロインジェクション法と違い、同社のGEEP法では、同時に複数個の受精卵に導入できる。また、ゲノム編集ツールとして米国に知財があるCRISPR/Cas9を現在利用しているが、特許紛争もありリスクがある。同社はCas9を使わないツールの開発も進めており、将来的にはライセンス問題に抵触しないビジネス展開を狙う。

 ゲノム編集マウスで確立した技術をほかの動物にも適用し、実験用動物だけでなく、畜産物のブランド品種や機能性食品の開発といった他産業へ応用することが同社の目標だ。

 例えば、動物のミオスタチン遺伝子を欠損させると筋肉が増量し、レプチン受容体を欠損させると脂肪が増やせることがわかっている。創業直後はNEDOからの補助を受けて豚のゲノム編集の研究を開始。2020年の資金調達後からは、同様にタンパク質を向上させた鶏の開発にも取り組んでいる。

 現在展開する主な事業は、製薬会社や大学の研究室にゲノム編集マウスや培養細胞を受託製作する「研究支援事業」と、農業畜産分野での新品種を開発する「プラットフォーム事業」の2つ。

 ゲノム編集ビジネス自体が新しいため、興味・関心があってもその参入へのハードルは高い。生殖工学×ゲノム編集として手掛けなければならない分野は幅広く、種ごとの生殖もまちまちで、同じ種であっても系統によってもまた異なってくる。複雑な生殖をコントロールし、個体レベルでの編集までが求められる事業となっている。

 このようなゲノム編集ビジネスは現時点で国内にまだ存在しないため、プラットフォーム事業では、参入企業向けのコンサルティングから同社では提供している。

 具体的なサービス内容としては、共同実施先のニーズを聞いて、どういうことができるのか、ソリューションの提案や予算・体制・ビジネスモデルなどのレポートも含めたコンサルティング実施などを進めている。

 従来の交配による育種法では親世代がもっていない性質は作れないが、ゲノム編集では、足りない形式を補うだけでなく、同種にはなかった形質を取り込むことも可能だ。すでに農業法人向けには、従来の地域の特産物に高付加価値を付けた新品種の開発を支援している。また情報通信会社との提携では、タンパク質を強化した動物の開発、商社には高付加価値のニワトリを使った食品の開発など、複数の案件を手掛けている。

 自社開発としては、ブタとニワトリの研究にも取り組んでいる。ブタのプロジェクトでは、ブタの未授精卵を利用して肉量の多いブタを作出。ニワトリのプロジェクトは、抗体など医薬品の原料となる機能性タンパク質を鶏卵中に生成するニワトリ系統を作出。製薬企業や化学品原料メーカーと提携し、ゲノム編集ニワトリ系統の受託開発を2024年から開始する予定だ。自社で進めるニワトリであれば養鶏農家と提携し、鶏卵を製薬メーカーなどに販売する事業へと展開していく計画だという。

 将来的なゲノム編集プラットフォームサービスの構築として、条件検討の先では、ゲノム編集を行なった最初のF0世代の作出から、安全性・栄養学的な評価など変異体の形成の検証、F1世代の作出へと進む。通常の開発支援であればこれで終了だが、さらに、農水省・厚生省など関係省庁のガイドラインに従った手続き、量産までをサポートする想定だ。

IPASではプラットフォーム事業の契約書のひな形を作成

 知財面では、コア技術のGEEP法とVIKING法の2つは徳島大学の特許で、ゲノム編集では、ブロード研究所及びERSのCRISPR/Cas9の知財と徳島大学の知財をライセンス契約している(GEEP法については、セツロテックも一部権利を共有)。自社知財としては、Cas9フリーの技術を出願予定だ。

 ゲノム編集と直接は無関係でも、生殖工学など他領域の知財が絡む可能性があるため常に調査は欠かせないという。専任の知財担当者は設置しておらず、プロジェクトごとの責任者が顧問弁理士と相談しながらプロジェクトを進めている。テーマによっては別の弁理士に相談することもあるそうだ。

 特許庁の知財アクセラレーションプログラムであるIPASへの応募理由は、知財戦略やビジネスの方向性についてセカンドオピニオンを求めてだった。

「一人の弁理士に頼りすぎると間違いが起こるかもしれないので、ほかの専門家の意見も聞いてみたい、というのが理由のひとつです。もうひとつは、ビジネス面。プラットフォーム事業を進めるにあたり、将来的にはライセンス費用が得られるビジネスモデルに適合した契約書を準備したい、というニーズがありました」(竹澤氏)

 メンタリングでは、ゲノム編集に関する知財や既存のライセンス契約に問題がないかの確認、プラットフォーム事業の契約書のひな型の作成、ビジネスメンターからはビジネスモデルについてのアドバイスを受けた。

「ゲノム編集は、ハーバード大学とカリフォルニア大学のチームがあり、どちらとライセンス契約したらいいかわからない、といった不安がありました。セカンドオピニオンで問題なしと言われたので、自信が持てたのがよかったです。契約書のひな型はさっそく大型契約で使いました。

 新品種を管理する条項など、自社のビジネスに沿った内容がいくつも盛り込まれているのですごく使いやすいものが得られました。また、たまたま知財の買い取りを検討していた時期で、その交渉についてもアドバイスしてもらえたのはありがたかったですね」

 直近の目標は、早くプロダクトを出すこと。ニワトリの品種改良は3年のうちに商品化される見込みだ。研究支援事業は、世界展開も目指している。

「Cas9は国ごとのライセンス契約が必要なので、海外のパートナーを見つけて確実に世界を取っていきたいです。ゲノム編集は米国も進んでいますがまだまだ高コスト。効率的なゲノム編集技術は世界一だと自負しているので、将来は安く提供できるのではないかと考えています。異業種、農業畜産分野に進出を検討している会社、異分野にチャレンジしたい会社には、ゲノム編集の活用を検討してもらえるとうれしいですね。既存の事業に活かす方法でも新規事業としても展開の可能性はあると思います」

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