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コロナ禍で変わる社会構造を支えるフードテックサービスが集結したピッチ

TIS主催「第14回スタートアップソリューション紹介イベント」レポート

特集
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 TISインキュベーションセンターが今注目のスタートアップ企業を集めてその技術や製品・サービスを紹介する「第14回スタートアップソリューション紹介イベント」が7月28日に開催された。本イベントは3月での開催に引き続きオンラインで開催され、多くの参加者の下で成長著しいスタートアップ5社のピッチが行われた。ここではそれらの概要と、TIS株式会社による同社の5G関連ビジネスの概要について紹介する。

モバイルアプリビジネスの海図となる市場データを提供するApp Annie Japan
App Annie Japan株式会社

 App Annie Japanは、テレビでいう視聴率データ、あるいはウェブでいうところのページビューのような指標をモバイルアプリの領域でビジネスを展開している企業に提供している企業だ。全世界175ヵ国以上で100万以上のアプリのデータを取得しており、この分野では世界最大のモバイルデータベンダーということができる。

App Annie Japan シニアアカウントエグゼクティブ 江副 浩一氏

 同社が取得しているデータは、おもに5つの用途で用いられている。まずモバイル領域で事業を展開している企業の自社アプリの戦略立案・運用改善を検討する材料としての利用。続いて新規事業・サービスの企画立案・実行の基礎情報となる市場データ。そして最近になって増えてきているのが営業企画やパートナーシップ構築のための手がかりとしての利用で、これまで比較的、モバイルアプリに注力していなかった業種にも活用が広がってきている。そしてもちろん海外展開や国内導入の指標として、あるいは中期経営計画の基礎データとしても活用されている。

 日本で利用されているスマホの中には、平均して100個くらいのアプリがインストールされていると言われている。ただしスマホユーザーが使用しているのはそのうちの30%程度で、さらに日常的に使用しているものとなると10%程度になる。すなわち、少なくとも各分野においてトップ1~2位に入らないと、ユーザーの目に映らなくなってしまう。

 そのために、ユーザーの一日(ユーザージャーニー)の活動シーンにおいて、どのような競合があり、どのように使われているかを知る必要がある。そして自社アプリをどのタイミングでどう使ってもらうか、そのためにはどのような機能やインタフェースが必要なのかを戦略的に検討しなくてはならない。App Annie Japanの市場データを用いると、競合他社との比較対象から重要な機能やインタフェースへのヒントを得ることができる。

 コロナ禍により巣ごもり需要が伸びていることは周知の事実だが、一方でその関係で書籍やストリーミングなどの非ゲームアプリが急速に伸びてきており、たとえばTikTokは月間消費時間においてすでにLINEやTwitterを超えてしまっている。東京オリンピックに集うアスリートたちが投稿した動画も、YoutubeではなくTikTokに投稿されていたものを見た人も多いだろう。

 この急速に変化するモバイル市場で生き残り、さらなる成長を遂げるためのカギはデータに基づく意思決定にある。施策が失敗したとき、その原因を究明し方向修正をしようとしても、従来型の経験や勘に頼るビジネススタイルでは時間がかかりすぎる。正しいデータに基づいてプランを立てていれば、失敗した原因もデータを検証することによって解明することができる。App Annie Japanのデータは、すでにモバイルアプリ業界で事業を展開している企業にも、これから乗り出そうとする企業にとっても、進むべき道を示してくれる道標となるだろう。問い合わせはこちら

脳科学の知見を活かすAIモデルで消費財メーカーを支援するSandBox
株式会社SandBox

 近年、脳科学で得られた知見ととテクノロジーを組み合わせたブレインテックが注目を集め始めている。SandBoxは早くからこの分野に注目してきており、食品や消費財メーカー向けのサービス「ノウミーマップ」を提供している。これは人の視線や可能を推測するAIモデルで、人間が明るさや色合いを目から脳に対して認識していくメカニズムを利用して、動画や静止画から人間がそれを見た時にどういったところに注目を向けやすいのかということを予測するサービスとなっている。

SandBox 代表取締役CEO 菊地 秋人氏

 消費財市場では、消費者のデータをほとんど店頭側が握っており、メーカーにその情報がなかなか上がってこない。もしくは収集コストが非常に高い。このため新製品のコンセプトやパッケージを決めるとき、それまでの経験値や感覚などアナログ手法に頼ることがままあるのが現状だ。しかしこれでは結果が思わしくなった時の検証が難しくなったり、アンケートやインタビューなどで事前調査をするにも時間とコストがかかってしまう。

 「ノウミーマップ」は商品のパッケージ、広告チラシ、商品棚などを動画/静止画ででアップロードすると、それを人の視線・感情を推測するAIモデルに基づいて評価し、注目して欲しいところに正しく注目が集まるかどうかを判定する。メーカー側の意図が正しく要否者に伝わるかどうかが即時に一目で判定でき、商品や展示方法の改善プロセスを高速化することができる。

 たとえば化粧品のチラシの事例では、「ノウミーマップ」を利用することにより、コールセンターの工数削減に効果があった。これは「ノウミーマップ」導入前の広告チラシでは商品名が目立ってないとか、詳細な成分内容に目が行ってしまってその効果が十分伝わってなかったためだった。「ノウミーマップ」での評価を受けて改善を行い、コールセンターの負担が大きく下がるという結果が得られた。

 また、Youtubeのサムネイルに対して「ノウミーマップ」を適用し、より分かりやすい単語に注目が集まるよう修正したところ、クリック率が20%前後改善された。担当者の個人的な感覚だけに頼るのではなく、ブレインテックに基づくAIモデルを活用することが効果的であった事例の1つだ。

 「ノウミーマップ」は今のところ消費者の行動や感性の予測に適用されているが、今後は商品やサービスの需要予測へと展開していきたいとしている。さらにデザインの自動生成やフィードバック提案などへの拡張も模索していくとのこと。プレインテックのリードランナーとしてのSandBoxの今後に期待したい。

スマホ画面を見ないスマートナビゲータLOOVIC
LOOVIC株式会社

LOOVIC 代表取締役 山中 享氏

 スマホの普及を後押しした最も有力なアプリの1つに地図アプリがある。画面上にルートを表示するだけでなく、音声による案内もできるようになっており、一昔前なら地図を印刷してから出かけていたものが、もうプリントアウトを持ち歩かなくなった人も多いだろう。

 しかしそんな便利なアプリケーションも、実はすべての人にとって便利に使えるものではない。視空間認知障害と呼ばれる障害を持つ人は、視力には問題がないにもかかわらず、2/3次元空間におけるオブジェクトの認識や道具の操作などに課題があり、そのため地図を使って特定の場所に到着することが非常に困難になってしまう。

 そのような人を安心・安全に都市内を移動できるようにする支援ツールがLOOVICのスマートガイドサービス「LOOVIC」だ。ブレスレット型デバイスを地図アプリと連動させることにより、スマホの画面を見る必要なしにユーザーを目的地へと誘導する。スマホを見ながらの「ながら歩き」が多くの衝突事故の原因となっているが、周囲の景色から目を離す必要のない「LOOVIC」であればそのような事故を減らすこともできる。

 現在はブレスレット型体感誘導デバイスの試作が完了し、地図アプリと連携したナビゲーション機能の作りこみを進めている。2022年にはサービスインを行う予定だ。このサービスはSaaSとして他社サービスと連携/組み込んで利用することが想定されている。サービスイン後には他社からもブレスレット型以外のデバイスが販売されるようになるだろう。

 収益モデルはデバイスの販売だけではなく、それによってナビゲーションする3次元空間上に展開するコンテンツから得るものをメインとしている。たとえば屋内外の店舗への誘導だけでなく、災害時や観光などでの人流のコントロール、高齢者や外国人など言語によるコミュニケーションに課題を持つ人へのナビゲーションなどを想定している。

 迷う・探すを無くす「LOOVIC」は、誰もが便利に使えるITツールと見做されているスマホの落とし穴を埋めるサービスと言える。これはいつか来る「スマホの次」の端緒なのかもしれない。

店を支える、地域を支える、社会を支えるサービス「ごちめし」
Gigi株式会社

 Gigiが展開するサービス「ごちめし」は、もとは帯広の定食屋「結」がやっていたサービスが原点になっている。これは来店した客が地域の中高生のために食事代を余計に支払うことができるというもので、後から来店した若者は無料で食事をとることができる。この仕組みをITによってサービス化したのが「ごちめし」で、基本機能を使って他に「さきめし」、「びずめし」、「こども食堂」という計4つのサービスを展開している。

Gigi Chief Bizdev Officer 杉山 隆志氏

 基本的なサービス構造は「食べさせたい人」が「食べたい人」に代わって飲食代を支払うモデルとなっている。同社には「食べさせたい人」からサービス利用の手数料が入る仕組みになっており、飲食店側には手数料がかからない。特別なハードウェアもいらないので、飲食店側はほぼ負担ゼロでサービスを導入することができる。

 「ごちめし」はいわば町の飲食店のギフト券のようなもので、贈る人が飲食店で通常提供されているメニューをデジタルチケットとして購入し、それを贈りたい人に送る。贈られた人は店でデジタルチケットを見せてメニューの提供を受ける。「さきめし」はコロナ禍における飲食店支援の仕組みとして「ごちめし」の仕組みを活用した誕生したもので、自分の食事代を前もって支払っておくことにより、当座の資金繰りに困る飲食店の開店資金源となる。

 「びずめし」は飲食店を社員食堂化するサービスで、社食の設備を持たない企業でも、Gigiのサービスを導入している全国1万6000店舗をオフィス周りでもリモートワーク先のエリアでも社食として利用することができる。1ヵ月に1万円まで利用可能や、1枚1000円のチケットを10枚使用可能など、企業にあわせてさまざまな形態での利用ができるようになっている。

 「こども食堂」は「びずめし」サービスの原点ともいえるサービスで、支援者が食事代+手数料を負担し、それを財源に自治体が地域の飲食店でのこどもの食事をサポートする。少子化解消に向けた自治体からの施策の一環として運用できるサービスだ。

 「ごちめし」の核となるサービスモデルはシンプルながら、非常に幅広い利用シーンが考えられるビジネスモデルになっている。海外展開も積極的に進めていきたいとのことで、シリーズB相当の資金調達も計画されている。今後の動向から目が離せない。

音声認識技術が生み出すWeb会議のDX化ツール「ZMEETING」
Hmcomm株式会社

 Hmcommは産総研初のAIスタートアップで、音声分野に特化した事業を展開している。そのミッションとして「音声認識を民主化し、キーボードレスの新しい社会を自ら創造する」を掲げており、今回の紹介するオンライン会議の自動テキスト化ツール「ZMEETING」も議事録作成のための会議録画・録音の書き起こし作業を不要にするサービスとなっている。

Hmcomm 代表取締役CEO 三本 幸司氏

Hmcomm シニアマネージャ 川井 伸夫氏

 ZoomやTeamsなどのウェブ会議システムと同時に起動すると、会議参加者の発言がその場でテキスト化される。発言者名も付記されるため、議事録作成の効率化に非常に役に立つ。テキストデータはその場で修正・追記することもできるし、後々でのサマライズのために発言に重要フラグを添付する機能もある。

 さらに日本語以外にも英語、中国語、韓国語にも対応しており、リアルタイムで相互に翻訳することができる。議事録作成だけでなく海外拠点とのコミュニケーションを活性化するツールとしても使える。もちろん耳が不自由なユーザーとの間でもウェブ会議ができるようになる。いわばウェブ会議のDX化ツールということができるだろう。

 ZMEETINGのライセンスプランはウェブ会議の時間数によって年間120時間のSプラン、年間360時間のMプラン、年間600時間のLプランの3通りがある。多言語間の翻訳機能を利用する場合はMプランもしくはLプランにオプションとして課金することでプラン内の音声認識時間すべてで多言語翻訳が可能となる。尚、最小購入数は3ライセンス。

 コロナ禍によりリモートワークが当たり前になるにつれ、Web会議もまた避けては通れない必須ツールとなった。しかし同時に社員同士のコミュニケーション不全を引き起こすこともある。ZMEETINGのようなツールを用いて業務の効率化を実現し、そこで産まれた時間を失われたFace to Faceでのコミュニケーションを埋めるためのリソースとすることもwithコロナ社会の必須要件になるのかもしれない。

TISが推進する5Gを活用した新事業開発

 スタートアップ5社のピッチに続いて、TISが同社の推進する5Gを活かした新事業開発の概要について紹介があった。TISによる5G関連事業の柱となるのは今年4月に取得したローカル5G免許だ。豊洲にあるTISオフィス内にローカル5G基地局を設置し、最新技術の社会実装に向けた検証や事業開発の拠点とした。同様にローカル5G免許を取得した凸版印刷株式会社との技術連携も発表し、両社のローカル5G環境を相互接続することによって今後の新しいユースケースを開拓するとしている。

 7月にはTISの豊洲オフィスに5G/ローカル5GやAI、XRなどの最新技術を活用したビジネス共創を促進するための "TIS DIGITAL Innovation Center" を開設した。これはショールームとラボを併設したような設備であり、新サービスや新技術の検証・実証実験を行いたいと考える企業に広く門戸を開いている。

 7月28日時点でショールームには5G等の次世代通信が普及した未来のコンセプトモデルとして、4つのコンテンツが展示されている。1つは5GとVR技術を組み合わせることによってバーチャル空間での購買体験ができるバーチャルモール、2つ目は5Gと映像技術を組み合わせることによって360度自由視点映像空間でのEC購買体験、3つ目は5GとIoA (Internet of Abilities: 人間の能力をインターネットを介して拡張する)を掛け合わせることによって自宅に居ながらにして遠隔地に行ったかのような体験を得ることができるサービス、4つ目は5GとAIによる映像解析を組み合わせることによって人の動線解析などカメラ映像の解析結果をリアルタイムで確認できるサービスとなっている。

 "TIS DIGITAL Innovation Center"のラボでは、TISが持つローカル5G環境を用いた検証・開発環境が提供されている。同時にTISのAI、ロボティクス、XRなどの最新技術についても知見・ノウハウが利用可能となっているのに加え、ビジネスマッチングやコンサルティング、人材支援のプログラムなども提供されているので、新規事業開発で課題を抱えているスタートアップにとっては力強い支援者・相談相手となってくれるだろう。

 また、TISは東京都が推進する "5G技術活用型開発等促進事業" 通称 "Tokyo 5G Boosters Project" の開発プロモーターとなっている。この事業は、スタートアップ企業等による「新しい日常」に寄与するような5G技術を活用したイノベーションの創出や新たなビジネスの確立を促進するため、東京都が民間事業者と協働してスタートアップ企業等の開発等を支援するもので、開発プロモーターとなったTISは採択されたスタートアップに対する製品の開発やその事業化に関する資金面・技術面からのサポートを提供する。

 直近で重視しているものとして、5Gと暮らしの掛け合わせ、5Gとエンターテインメントの掛け合わせ、5Gと健康の掛け合わせの3つのテーマが挙げられている。特にこれらの領域で新しい事業の立ち上げを企画しているスタートアップは、是非TISにコンタクトを取ってみて欲しい。

 TISによる「スタートアップソリューション紹介イベント」は今後も開催していくことが予定されている。勢いのあるスタートアップを探しているVC、協業先を探している企業、新しいアイデアを探しているエンジニアなど、興味ある方は是非次回のイベントに参加して欲しい。今後の開催スケジュールはascii.jpで紹介する予定だ。

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