品種改良だけでは世界で売れない。「日本版ゼスプリ」を目指す農業モデル
キウイを世界ブランドにしたゼスプリの仕組み
ここ数年、テレビやネットでやたらと目にするようになった、ゼスプリのキウイのCM。あの妙に心にしみる歌とキャラクターのおかげで、スーパーでキウイを見かけると、つい手に取ってしまうのは私だけではないだろう。
ゼスプリは、ニュージーランド産キウイを輸出する会社だ。単に販売するだけでなく、新品種の開発から、生産者への栽培許諾、品質管理、集荷、輸出、販売、広告までを一体で運営することで、世界共通のブランド商品として売る仕組みをつくったことが強さの理由だ。生産者もゼスプリを通じて販売し、事業から得た利益の還元を受けることで、安定した収入を得やすくなる。
AIでイチゴの品種開発を10年から2年へ
このモデルを参考に、日本の果物を海外へ売ろうとしているのが、東京大学発のバイオスタートアップ、株式会社CULTAだ。同社は、気候変動や海外市場のニーズに対応した次世代品種を研究開発している。
その品種開発を支えるのが、AIを使った高速育種だ。遺伝子組換えやゲノム編集ではなく、従来の交配育種で得られる膨大なデータを解析し、交配や選抜の組み合わせを効率化する。同社によると、一般に約10年かかるイチゴの新品種開発を2年で実現し、3年半で4品種を市場に投入したという。
新品種への挑戦は、農家にとって「新規事業」
気候変動が進むなか、農業では暑さや病害に強い品種への切り替えが必要になっている。しかし、農家にとって品種変更は簡単ではない。苗や設備を入れ替え、栽培方法を学び直したうえで、本当に収量が取れるのか、売り先があるのかもわからない。企業で言うならば、本業を続けながら、成功する保証のない新規事業を始めるようなものだ。
こうした品種転換は、通常、種苗会社が農協や産地と連携しながら、地域の気候や栽培条件に合う新品種を選び、時間をかけて普及させていく。生産量や品質を安定させながら、産地全体で切り替えを進めるのが王道だ。
しかし、まだ市場が確立していない尖った新品種に、個々の農家が単独で挑戦するのは難しい。栽培方法を確立する負担に加え、収穫後の売り先まで自ら探さなければならないためだ。
収穫物を全量買い取り、自社ブランドで海外へ
そこでCULTAは、品種開発だけでなく、生産委託、全量買い取り、ブランド販売までを一体で担う。農家側から見れば、新品種に挑戦するときの「作っても売れないかもしれない」というリスクを減らせる。
ゼスプリが世界市場にキウイというブランドを定着させたように、CULTAが狙うのは、日本発の品種を海外で継続的に売る仕組みづくりだ。AIで品種開発を速めるだけでなく、農家に生産を委託し、収穫物を買い取り、自社ブランドとして販売する。
イチゴから、世界で売れる果物ブランドへ
すでに、高温下でも収量や品質を保ちやすく、完熟状態で収穫しても輸送に耐えられるイチゴの独自品種を開発し、日本全国11都道府県の16の生産者と提携。買い取ったイチゴを「SAKURA DROPS」ブランドで展開している。日本やマレーシアで生産し、シンガポール、香港、タイなどで販売中だ。
まずはイチゴから始まったが、この仕組みがほかの果物にも広がれば、日本発の新品種が世界各地のスーパーに並ぶ未来も見えてくる。ゼスプリのキウイのように、品種、生産、流通、ブランドが一体となった果物が、少しずつ海外の売り場に広がっていくかもしれない。
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