“自動運転車は過疎地域で走るもの”というイメージを打破した札幌の実証実験
群馬県内で自動運転バスサービスが11月より開始
北海道・札幌で行なわれる注目の一大コンベンション「No Maps 2018」が、いよいよ10月10日から開催する。今回は、「No Maps 2017」で、札幌中心市街での自動運転走行実験を手がけた群馬大学に、今後の取り組みなどについてお話を伺った。
NTTデータと群馬大学は、完全自動運転社会の実現へ向けて共同研究と実証実験を進めている。昨年の「No Maps 2017」では、NTT、NTTデータ、群馬大学との連携により札幌中心市街での自動走行パフォーマンスが実施された(関連記事:札幌中心市街で車の自動運転を実施)。
群馬大学では2016年10月から群馬県桐生市などで実証実験を実施していたが、都心での走行は、No Maps 2017のパフォーマンスが初の試みだったという。札幌での実証実験によって得たこと、現在の取り組み、今後の実用化に向けた計画について、群馬大学の研究・産学連携推進機構「次世代モビリティ社会実装研究センター」の副センター長 小木津 武樹氏に聞いた。
郊外の実証実験では気付けなかった都心ならではの課題をNo Mapsで発見
2016年12月に開設された「次世代モビリティ社会実装研究センター」は、自動運転をはじめとする新しい移動手段の研究・開発から社会実装までの検証を行なっている機関だ。自動運転の公道走行の知見を蓄積するため、No Maps 2017の札幌市街のほか、兵庫県神戸市や群馬県桐生市などの都市で並列して実証実験を実施している。
実証実験は、それぞれの地域による環境の違いや社会実装に向けた課題を見つけ、解決するのが目的だ。たとえば桐生市は、典型的な昔からの地方市街。高齢化が進み、公共交通機関も衰えつつある。神戸市は、オールドニュータウンと呼ばれる住宅街。坂道が多く、生活の足は自家用車が中心だが、公共交通機関がもともと育っておらず、団塊の世代が高齢化したことでラストワンマイルの問題が発生している。
一方、札幌市の場合は、都心での公共交通機関の強化を目指すものだ。都市型のバスは鉄道に比べて本数が少なく、輸送能力が低い。バスの本数が増やせない理由は、運転手の人材不足が根底にあるという。無人で動く自動運転が実現すれば、本数を増やし、より公共交通機関が便利になる。
自動運転システムを実用レベルに育てるには、地形や街並みなど環境の異なる各地で実証実験を積み重ねていくことが重要だ。No Maps 2017の実証実験では、都心部ならではの技術的な難しさが見つかったという。
自動運転では、「GPS」と「マップマッチング」の2つの手段を組み合わせて自車の位置を把握するが、この両方が使えないシチュエーションが発生するのだ。高層ビルの立ち並ぶ場所では、衛星の信号が遮られてGPSに届かない。こうした場合、レーザーセンサーを使って周りの景色から自分の位置を把握する「マップマッチング」を使うが、大型ビルは特徴が少なく、当時のシステムでは識別できない状況に陥ってしまった。
この結果を受け、なぜ景色を見誤ったのか分析し、景色を見分ける仕組みを改良。2018年9月には、NTTデータとの連携で、豊洲の公道で自動運転によるオンデマンド移動サービスの実証実験を行なった。
「札幌で得られた知見をフルに活用し、GPSやレーザーセンサーが苦手な地域でも自動運転を継続できる技術を作り込めたからこそ、豊洲での実証実験が実現できました。“自動運転車は過疎地域で走るもの”、というイメージを打破する、インパクトのある実証実験だったと感じています」と小木津氏。
自動運転を“サービス”として提供するための周辺技術を開発
その後も、富岡市、前橋市、四日市市、福山市、福岡市、千葉市、さいたま市など、全国12の地域で実証実験を重ね、現在は、商用化を見据えたサービス実証の段階に入っている。
自動運転の実用化に向けた取り組みとして、無人走行以外の周辺サービスの開発や研究も進めているそうだ。
「バスの自動運転サービスを実現するには、お客さんのピックアップ、料金の支払い、車内の安全確保などの技術が伴わなくては、サービスとして成り立たちません。こういった分野の作り込みを、さまざまな会社と連携しているところです。2020年までには周辺の分野も含めた自動運転サービスとして提供できる形にしていきたい」(小木津氏)
また、2018年11月を目標に、JR前橋駅から上毛電鉄の中央前橋駅までの約1キロ区間で、路線バスとして自動運転車両を導入する社会実験を実施予定だ。2020年には、さらにいくつかの箇所で無人走行バスを導入する計画とのこと。
インタビュー後、センター施設内の自動運転コースで自動運転車両を試乗させてもらった。ルーフにレーザーセンサーとGPSアンテナが搭載され、運転席にパソコンとタッチパネルのディスプレーが設置されている以外は、一般の乗用車と変わらない。聞くと、車種などは問わず、あらゆる車両に自動運転システムを搭載できるそうだ。
ドライバーはハンドルを離した状態で自動走行し、システムに判断を求められたときのみ「確認」ボタンをタッチする程度。乗り心地は、人が運転しているのとほとんど区別がつかず、加速減速も静かで快適だった。
自動運転コースでの走行
本記事で紹介した群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターの小木津武樹副センター長がMITテクノロジーレビュー主催のカンファレンスイベント「Future of Society Conference 2018 」(11月30日開催)に登壇します。詳しくはイベント公式サイトから。