BMWが日本に自動運転レベル2のハンズ・オフを実現させた理由
BMWジャパンは4月10日に「国内モデルとしては初めてハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能を搭載した車両を日本に導入する」と発表した。これは、すでに実用化されているレベル2相当(クルマのアクセル&ブレーキとステアリング制御の両方をシステムが担当する)の運転支援システムの発展形で、文字通りに「手放し(ハンズ・オフ)」を可能とするものだ。
前走車に追従しつつ、走行レーンをキープするACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)走行のときに、ドライバーの役割は監視だけとなり、ステアリングから手を放せる。驚くべきは「技術を開発した」ではなく、日本の関係各所の承諾を得て、実用品として導入されることだ。
ただし、この機能は、「いつでも」「どこでも」利用できるわけではない。いくつかの条件が揃ったときのみとなる。その条件とは「高速道路であること」「前走車を追従している」「速度が60㎞/h以下」だ。つまり、利用の目的は「渋滞している高速道路」となる。さらにドライバーの目の動きをメーター部に備えた赤外線カメラでモニタリングしており、よそ見をしていたり、目を長い時間とじているとシステムが解除される。逆に言えば、ドライバーのモニタリング機能が備わっていることで、許可がおりたと言ってもいいだろう。
こうした機能を実現するのが、新型「8シリーズ」より採用された3眼カメラと最先端の画像処理プロセッサーだ。3つのカメラはそれぞれ「長距離検知用・視野角28度・検知距離300m程度」「中距離検知用・視野角52度・検知距離120m程度」「車両周辺監視用・視野角150度・検知距離20m」という役割を担っている。その画像を、毎秒2兆5000億回の演算処理能力を持つ画像プロセッサー「EyeQ4」が処理をする。この技術はモービルアイ社のものだ。
使い方は簡単。まずは、作動条件が揃っているかどうかをシステムが確認する。OKであれば、そこで初めて操作可能になる。次に、ステアリングにあるボタンを操作して機能を作動させる。メーター内に作動中の表示が出ると共に、ステアリングのホイール部にあるインジケーターがグリーンに光る。そうなれば、手をステアリングから離すだけだ。
ここで作動条件が維持できれば、いつまでもハンズ・オフのまま走れる。しかし、道路のカーブがきつくなるなど、システムが「これ以上は無理」と判断したときは、メーター内に「機能が停止します」と表示され、ドライバーによる運転にバトンタッチとなる。一番、怖いのはハンズ・オフのまま、コーナーに入り、その途中で機能が停止することだ。そのため「3眼のカメラで状況をモニタリングしており、危ないときは、早め早めにシステムが解除するようになっています」とBMWジャパンは説明する。
きついコーナーがあれば、早めに検知し、コーナーに入る前に機能を停止させるというのだ。東京の首都高速のようにきついコーナーが連続するのに対する安全策として、日本仕様向けに特別な開発も行われているという。
この機能は、新型「3シリーズ」と「8シリーズ」、「X5シリーズ」が対象で、今年の夏以降の生産車は標準装備となる。新型車発売のタイミングではなく、少し遅れるのは、それだけ日本専用の開発に時間がかかったのだという。既に納車されている車両は、ディーラーにおいてソフトウェアのアップデートで使用可能になるそうだ。
ちなみに、ハンズ・オフ機能はコスト的に非常に高額なもので、「8シリーズ」はともかく、「3シリーズ」に標準装備になっているのは、日本だけ。それは「運転支援システムに対する期待が大きい日本のユーザーの期待に応えるため」というのが理由だ。コスト面だけでなく、追加の開発や、関係各所へのネゴシエーションなど、手間も時間相当にかかっている。そうした力作がBMWの「ハンズ・オフ」なのだ。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
この連載の記事
-
第48回
自動車
JR西日本とソフトバンク、自動運転レベル4のバスを公道で走らせる! -
第47回
自動車
話しかければAIがクルマを走らせる! チューリングによる自動運転デモを見た -
第46回
自動車
「テスラを追い抜く!」というチューリング、壮大な夢で若くて優秀なスタッフが集う -
第45回
自動車
カメラでの物体認識はAI活用が広がる! ストラドビジョンのAI認識ソフト公道デモ -
第44回
自動車
緊急回避性能を飛躍的に向上させた日産の新しい自動運転技術 -
第43回
自動車
2040年の社会とEVはどうなる? 「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」が開催 -
第42回
自動車
ほぼレベル4の自動運転! フランスのヴァレオが挑戦したライダーセンサーだけでの試み -
第41回
自動車
JR西日本とソフトバンクが目指す自動運転バスは遠くない未来に実用化される? -
第40回
自動車
ホンダが自動運転の実証実験で本気のビジネスを目指す -
第39回
自動車
日産とドコモの実証実験を体験! 夢の自動運転タクシーが、“ほぼ”現実のものに -
第38回
自動車
クアルコムが見せた最先端の自動車関連技術の実績と未来 - この連載の一覧へ