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急変貌する“巨人”―「IBM InterConnect 2016」レポート 第5回

モバイル開発者やスタートアップとの関係構築、「InterConnect 2016」で担当幹部に聞く

「Java開発者もSwiftやブロックチェーンを学んで」IBM幹部

2016年03月08日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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「エンタープライズ企業は、スタートアップのようにありたいと考えている」

 もう1点、IBMとスタートアップとの関係についてはどう考えているのだろうか。

 IBMでは、2014年からスタートアップとIBMエキスパートとのコラボレーション施設「Bluemix Garage」を米サンフランシスコや英ロンドン、加トロントなどに設けており、各国個別のスタートアップ支援施策も実施している。日本でも支援プログラム「BlueHub」各種ハッカソンなどを展開してきた。

ちなみに今春には、読売巨人軍、サムライインキュベートと日本IBMがコラボした「ジャイアンツハッカソン」が開催される

 「エンタープライズ分野の開発者は〔世界で〕940万人、一方でスタートアップの開発者は260万人。数では劣るものの、スタートアップ開発者がほかの開発者に与える影響は大きい」。カーター氏はスタートアップの影響力をこう語る。

 IBMによると、現在Blumixを利用するスタートアップは7000以上に上り、彼らのおよそ9割は「他の開発者にもBlumixを勧めたい」と述べているという。カーター氏は、アントレプレナープログラムなどを通じてスタートアップにおけるBluemixの採用促進を図っており、Bluemixの評価がかなり上がったことを実感していると語った。

 さらに言えば、開発者だけでなくエンタープライズの企業経営者も、スタートアップから学ぼうという意識を持ち始めているという。カーター氏は、スタートアップの独創的な発想や行動力が、“デジタル変革”を迫られているエンタープライズにも大きな影響を与えるようになっていることを指摘する。

 「われわれのところにも、AT&Tやシティバンクといったエンタープライズから、ハッカソンやモバイルチャレンジをやりたいのだが、という相談が来る。スタートアップの方法論を生かして、大企業も自らを変革したいと考えているのだ」

 冒頭に紹介したとおり、カーター氏は、今年のInterConnectでは「スタートアップコミュニティの勢い」を強く感じると語った。実際、1日目の基調講演では冒頭から(IBM幹部の登壇よりも先に)、フィンテックスタートアップのAlpha Modusが登壇している。

 Alpha Modus CEOのビル・アレジ氏は「IBMは“巨人”であり、われわれは小さいスタートアップだから、お付き合いできないと思っていた」と笑いながら述べた。また、Alpha Modusと一緒に登壇した豪Westpac銀行、独Siemensは、それぞれ歴史あるエンタープライズ企業だが、モバイルやIoT、Watsonの技術を活用してビジネスを大きく変革しつつあると語った。

基調講演冒頭、IBM幹部よりも先に、米Alpha Modus、豪Westpac銀行、独Siemensの3氏が登壇した

 「昨年のInterConnectではエンタープライズばかりだったが、今年は冒頭からスタートアップ企業だった。もちろんエンタープライズをないがしろにするつもりはないが、多くのエンタープライズが『歴史は古くても、われわれもスタートアップのようにありたい』と考え始めている」

 この1年でIBM自身も変わったのか、という記者の質問に対し、カーター氏は「まったく変わった」と述べた。企業文化をアジャイルなものとし、社内人材の才能を向上させ、Bluemixなどの製品をより良いものに成長させた。「3つの側面すべてで、IBMは完全に変わったと思う」、カーター氏はそう断言する。

 クラウド市場では今日も、激しい技術変革が続いている。その変化スピードは従来のIT業界の比ではなく、少しでも乗り遅れれば敗北が待ち受けている。「歴史は古くても、われわれもスタートアップのようにありたい」――。きっと、IBM自身もそう考えているのだろう。

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