Watson連携によるスマートコントラクト処理も、「IBM InterConnect 2017」レポート
IBMブロックチェーンはすでに「ビジネス適用可能」、活用事例を披露
2017年04月04日 07時00分更新
「ブロックチェーンには、インターネットと同じくらいのインパクトがある」。「IBM InterConnect 2017」の基調講演で、IBM 会長、社長兼CEOのジニー・ロメッティ氏はそう語った。単なるテクノロジー進化ではなく、これからの経済や社会を大きく変えるほどのインパクトがあるという意味だ。
InterConnect 2017において、IBMがコグニティブ(Watson)と並んで強調したのが、このブロックチェーン領域におけるIBMの実績だ。今回の会期中には14本のプレスリリースが発表されたが、そのうちの3本がブロックチェーン関連の発表、しかも2本は採用事例の発表だった。
前回記事で説明したとおり、IBMはハイブリッドクラウド環境を提供するとともに、その上に載せて提供する新たなテクノロジーの「バリュー」で競合優位性を獲得しようとしている。その「バリュー」こそが、現在注力しているコグニティブであり、ブロックチェーンだと言えるだろう。
過去数年間のWatsonがそうであったように、IBMではブロックチェーンもビジネス領域で早期に展開し、橋頭堡を確保していく戦略を取るように思える。本稿では、そこにおける具体的なIBMの戦略、またすでに実用段階に入っている先進的なユースケースを見ていこう。
OSSのHyperledger Fabricを採用したエンタープライズブロックチェーンを提供
IBMでは、すでに昨年2月から「IBM Bluemix」クラウド上で企業向けのブロックチェーンサービスを、さらに7月からは金融業界など向けの高セキュアなブロックチェーンサービス「IBM Blockchain on Bluemix High Security Business Network(HSBN)」も開始している(日本では今年2月提供開始)。
ここでIBMが利用しているブロックチェーン基盤(フレームワーク)が、Linux Foundationが開発を主導するオープンソースソフトウェア(OSS)の「Hyperledger Fabric」である。IBMではHyperledgerプロジェクトに参画しており、自身が開発してきたソフトウェアコード数万行をLinux Foundationに寄贈した。それをベースに開発が進められているのが、このHyperledger Fabricだ。
Hyperledger Fabricは、エンタープライズ領域における業務利用を前提としたブロックチェーン基盤であり、多様な機能がモジュールとして追加できるアーキテクチャになっている。「分散台帳(分散データベース)」機能だけでなく、取引ルールをプログラム(チェーンコード)として規定して取引処理を自動化する「スマートコントラクト」、取引を参加者間で確定する「合意形成(コンセンサス)」、取引参加者の認証や匿名化、暗号化等を行う「セキュリティ&プライバシー」といった機能も、この基盤上に統合している。
Hyperledger Fabricを使ってIBMが提供するのは、取引参加者が限定されている「コンソーシアム型ブロックチェーン」の環境である。具体的には、業界内の特定企業間の取引(銀行間での送金処理など)、ある製品のトレーサビリティ確保(サプライチェーンの履歴記録など)、医療機関どうしでの個人医療記録の共有といったユースケースが考えられる。
ビットコインなどが採用する、不特定多数が参加するパブリック型ブロックチェーンとは異なり、コンソーシアム型ブロックチェーンでは“身元のはっきりした参加者(企業、個人)どうしのネットワーク”という特徴を生かして、合意形成(取引の確定)を高速に行うことができるメリットがある。実際、IBMではHyperledger Fabricによって、大規模な参加者ネットワークでも「毎秒1000トランザクション以上」を実現するとしている。つまり、端的に言えば、IBMが目指すのは“ビジネスで使いやすい”ブロックチェーンだ。
今回のInterConnectでは、前述のHSBNにおいて、Hyperledger Fabricのバージョン1.0を採用したサービスを提供開始したことがアナウンスされた。これは、金融サービスや医療、政府機関など非常に高いセキュリティレベルが要求される領域での活用を前提としたブロックチェーンサービスであり、Linuxメインフレーム「LinuxONE」を用いたハードウェアレベルでの高いセキュリティ、コンテナ技術による内部攻撃からの防御、などの特徴があるという。
