「IBM Bluemix Challenge 2015」表彰式レポート
IBM Bluemixのアプリ開発コンテストで感じたWatson旋風
2015年09月04日 09時00分更新
日本IBMは9月2日、開発コンテスト「IBM Bluemix Challenge 2015」受賞結果を発表した。PaaS「Bluemix」で開発された多数の応募作品から、特に優れたアプリやサービスを開発した一般部門の最優秀作品や、学生部門のファイナリストが選出された。
「IBM Bluemix Challenge」は、Bluemixで開発されたアプリやサービスを募集し、優秀作品を表彰するイベント。2回目となる今回は、新しい未来を予感できるアプリやサービスを具現化する一般部門のほか、コネクテッド・カーや車載システムなどをテーマにした学生部門も新設された。
一般部門では計426組の応募の中から11件が、学生部門では121組の応募の中から4件が最終選考に残った。9月2日には「SoftLayer Bluemix Summit 2015」が開催、その中で「Bluemix Challenge 2015」の表彰式も行われ、各作品の概要も紹介された。
対話型で旅行プランを提案してくれる「またたび」
一般部門で最優秀賞に輝いたのは、チーム「CTC Cloud Club」の対話型旅行プラン提案ボット「またたび」だ。旅行に行きたい日時と予算、人数を伝えるだけで、チャットによる対話形式でシステムが旅行プランを提案してくれる。
Bluemix APIの「Watson QA(質問応答)」を採用し、「あなたを理解する機械学習エンジンにより、あなたに似た特性を持った人に好評だった観光地が提案される」という。Bluemix APIのほか、観光データなどを蓄積するオブジェクトストレージや、ジョルダンの乗り換え案内、メール配信のための「SendGrid」など、さまざまな外部サービスを利用して開発された。
今回の審査基準は「機能がユニークで社会的課題を解決するのに役に立つ」「先進性、独創性、実用性が高い」「Bluemix上のサービスや外部サービスを利用することでアプリがコンパクトに実現されている」の3点だったそうだが、「またたび」については「特にサクサク動く軽快さが印象的だった」との評だった。
「CTC Cloud Club」のチームメンバーも「またたびと会話をするチャットページの使いやすさを特に意識した」という。さらに「まずはBluemixのサービスに使えるものがないかを検討し、なければ個別実装や他社のクラウドも検討した」「PaaSで完結できないことはBluemixの中で仮想マシンを用意して対応できたため、個別要件の痒い部分まで手が届くようになってきたと感じた」とした。一方で「別業務がある中での活動だったため、応募締切が途中で2週間伸びなかったら厳しかった」などの苦労も語ってくれた。
「またたび」は学習させる内容を変えるだけで、さまざまな分野に応用できるという。しかし、観光データ、乗り換え案内APIが開発者ライセンスなため、残念ながら一般公開することができない。そのため、ともに完成させてくれる「オーナー」を募集中だそうだ。
Watsonを使ったアプリが多数
優秀賞を受賞したのは、舩木紳也氏のTwitterタイムラインの分析を利用した異常検知および自動通知サービス「Attention Informer」。米携帯会社4社を対象に、Twitterのタイムラインから異常度を検知し、さらにツイート内容から通知先を自動判別するものだ。
対象とした携帯会社に関するネガティブツイートの比率が5%を超えたら異常発生として、関係各所に自動通知する。その際、例えば携帯会社の「Sprint」を含むツイートから「sprint(全力疾走)」に関するものは同音異義語として自動で省いた上で、「電話できない」という内容だったら基地局に、「Webにアクセスできない」という内容だったらWebサーバーを監視する部署に、と通知先を自動で切り分けてくれる。
将来的には、Twitter文章をさまざまな指標に分類し、その時間推移を同業他社と比較することで、マーケティングへの活用が期待できるとのことだった。
そのほか、一人暮らしの女性が帰宅前に自宅の電気を点灯できる「ハートフルセキュリティ」も受賞した。ストーカー被害が増える中、女性は部屋の位置を悟られないよう、帰宅してもすぐには電気を点けないことがあるという。そこで、帰宅する前に点灯できれば、部屋の位置は悟られず、かつ暗闇の中でしばらくじっと我慢する必要もなくなるというわけだ。具体的で切実な問題を取り上げた例として興味深かった。
さらには、Watson APIの「Visual Recognition(画像解析)」の精度のゆらぎを逆手に取ったゲームもあった。嘉門勇輝氏が開発した「よく見てワトソン!」だ。
画像を読み込ませると高精度にその画像が何かを言い当てるWatsonだが、たまにとんちんかんな答えが返ってくるという。ならば、解析結果から「Watsonが読み込んだ画像は次の3枚のうちのどーれだ?」と推理して楽しもうというものだ。
嘉門氏は「Watsonのちょっとダメな部分を利用して作っているので、受賞したことに驚きです。あとで説教されるのではないかと、内心ドキドキしています」と、会場の笑いを誘っていた。
学生部門からは、(1)車載カメラからの情報をクラウド上に収集し、走行する車から取得する映像やデータから事故・交通状況を把握する「Senrigan」、(2)スマホをセンサーと見立てて、道路のでこぼこを検知し、リアルタイムで地図上にマッピングする「Bump Hunter」、(3)カレンダーにスケジュールを登録すると、スケジュールに合わせたルートを表示する「俺の一日~濡れない、焼けない、遅刻しない~」の3作品が入賞した。
入賞者は、副賞として米国Watson研究所ツアーに招待される。学生部門の最優秀賞は、そのツアーでのピッチコンテストによって決定されるという。彼らの夏はまだまだこれからのようだ。
審査員によれば「昨年と比べると、どのアプリもUIが洗練されていた。また、BluemixのAPIが増えたことで、実用的なもの、実用的じゃないけどちょっと笑えるものと、アプリの内容も非常に幅が広がった」という。
同時に、Watson APIを使ったものが多いようにも感じられた。「Bluemix上でWatsonを使い倒せ」というタイトルで講演を行ったTISの油谷実紀氏によると、現在、Bluemix API群としてのWatosonサービスは16種類が公開されている。「すぐに使えるもの」「独自データを投入することで使えるもの」「Watosonの部品サービス(と思われるもの)」に分類され、使い勝手もさまざまとのことだが、イベント全体を通して、開発者のWatsonに対する期待を肌で感じられた1日だった。