ある日、我々はTwitter上でこんな発言を捕捉した。
「ふとアスキーの過去のボカロ記事をいろいろ見てたら、キャプミラさんのときにちっちゃくオレの名前が出てたことに今気付いた件。コラ!アスキー!勝手に人の名前を!お詫びにウチに取材来てください。http://bit.ly/GTMEu」
(2009年11月1日の投稿より)
声の主は「あなたがいるから-Monitor of Love-」や「Next Stage」などを手がけたボーカロイドPとしてニコニコ動画で有名なそそそP(@sososo291)さん。津久井箇人(つくいかずひと)名義では愛内里菜、北原愛子といったメジャーシーンで活躍する歌手に楽曲を提供するバリバリの現役プロ作家だ。デビューは2004年、1982年生まれの27歳とまだ若い。
「プロとアマの境界線が曖昧である」こと。これがボーカロイドシーンの面白さのひとつでもあるのだが、津久井さんははっきりプロとしての立場を明確にしている。そのボーカロイドシーンへの意識的な発言に、実は我々も以前から注目していた。だから「取材に来て下さい」と言われ、行かない理由は何もないのだった。
100曲以上作っても、指で数えられる程度しか世には出ない
津久井 あけましておめでとうございます!
―― お、おめでとうございます! と、掲載時期の関係でそういう挨拶ですが、年末の忙しい時期に申し訳ありません。勝手に名前を出したお詫びかたがた、取材に参りました。
津久井 いや、ちょっと釣りも入っていたんですけど。
―― 我々も釣られたふりをして、実は前からお話を伺ってみたいと思っていたんです。本題へ行く前に、津久井さんのプロフィールを聞かせてください。音楽を作り始めた動機あたりから。
津久井 きっかけはアスキーさんですよ。
―― えっ、また誰か何か粗相を?
津久井 いやいや。「音楽ツクールかなでーる」ですね。中学生くらいで、まだ楽器も何も弾けない頃の話です。それでゲームのBGMみたいなものを作っていました。
―― ゲーム音楽を仕事にしたことはあるんですか?
津久井 コンペに参加して、キャラクターソングを作ったりという経験はあります。
―― ゲーム音楽志向ということではなかった?
津久井 ゲームでも良かったんですが、やっぱり歌モノが作りたかったんです。クラシックの知識があるわけでもないし、インストゥルメンタルで技巧的な演奏ができるわけでもない。当時は小室哲哉さんが活躍されていて、一人でプロデュースする形式が示されていた時期だったと思うんです。
―― なるほど、世代的にはそうでしょうね。
津久井 高校のときはバンドもやったんですけど、その時は歌ってました。「かなでーる」で打ち込み部分を作って、ドラムにクリックを聞かせて同期してライブをやったり。
―― 楽器は何が一番得意ですか?
津久井 コードを押さえられるくらいのキーボードと、8ビートが叩けるくらいのドラムです。ボーカルはやっていましたが、客観的に考えて、自分の声で売れるわけはない。バンドもやってみて、難しいことを知りました。それで一人で完成させる方向を目指して、音楽の専門学校に進んだんです。
―― 学校では何を?
津久井 作曲やアレンジですね。学校は施設が充実していたんですよ。それを使って勝手にやれというスタンスで、自分で動かないと何も始まらない。だから学生の時点で、音楽業界的によくあるコンペやオーディションに出したりしていました。
―― 今でもコンペに出したりしているわけですか?
津久井 はい。ただ、今まで100曲以上作って、指で数えられる程度しか世には出ていない。これをボーカロイド曲にしたら、もっと伸びるんじゃないかとは思うんですが。ただ緩い縛りがあって、外に出すことはできないんですね。それはギブアンドテイクの関係なので当たり前だと思うのですが。
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