ニコニコ動画で安定した人気を集めつづける、初音ミクなどの歌声ソフトを使ったボーカロイドソング。当然のように作曲家が花形の「職人」として注目を浴びている側面が大きいが、裏方からその人気に華を添えている職人としてPV作家の存在があった。
初音ミクの発売間もないころはパッケージのイラストを背景にひたすら曲をかけるだけという動画も多かったが、イラストレーター、そしてPV作家の出現とともにそのカリスマ的な人気はエスカレートし、「初音ミク」という大きなファンコミュニティーを作るに至っている。
そんなPV作家のひとりとして注目を集めているのが「三重の人」さんだ。人を食ったような作家名だが、彼が手がける「紅一葉」「ワンダーラスト」などのPVは10万再生を超えて「VOCALOID-PV殿堂入り」とタグが付けられる折り紙つきの人気を誇る。
デビュー作「the end」以来、鬼のようにPVを作りつづけた彼の年間発表作は50本を超える。そのすさまじい生産性と、プロ並みのクオリティーはどこでつちかわれたものなのか? そこまで映像を作りつづける理由は何なのか? というかその前にどうして「三重の人」なのか? 取材した記者に明かしてくれたのは、波乱万丈の生き様だった。
高校時代に貯めた200万円で映像資材を購入
―― のっけから何ですが、若いですよね。
三重 いや若くないですよ。今26歳です。去年、コミケのあたりで誕生日を迎えました。
―― 今、仕事は何を?
三重 去年の11月に前の仕事を辞めて、今はフリーです。テレビ用にボーカロイド系の映像を作ってくださいという仕事が入って、そこからEXIT TUNESさんの仕事、ラマーズPさんの映像を作る仕事……と、年末にかたまって映像の仕事が入ってきた感じです。
―― なるほど。映像作りに興味を持ったのはいつごろからなんですか?
三重 不純な理由なんですが、18禁のゲームで……。
―― となると、興味を持ったのは18歳から?
三重 それまでもドリームキャストで「君が望む永遠」とか、ゲームはやっていたんですけど。19歳のころにパソコンを買って、ゲームのオープニングムービーを見たとき「これは面白そうだ」と思ったのが最初です。
―― それまでに動画や映像を作っていたことはあったんですか? まったく初めて?
三重 まったく。高校を出てフリーターをやっていて、面白そうだなと思ったので動画を始めてみたという。
―― で、初めからいきなりAfter Effectsを買っちゃうと。
三重 そうですね。詳しい人とチャットで知り合って「何を使えば作れるの?」と聞いたんですよ。そこで「After Effectsだ!」と教えてもらったのがきっかけになりました。同じ人から「プラグインも!」と言われて、今使ってるプラグインすべてを買って。
―― とアッサリ言ってくれますけど、ものすごい額になりますよね。
三重 そうですね、たしか150万円とか200万円くらいにはなったと思います。とりあえず買うんだったら全部そろえちゃおう、使い方は分からないけど、ということで。
―― 高校卒業しただけで200万円も持ってるものなんですか。
三重 高校生のときにやることがなかったんですよ。でもバイトはしていたからお金は貯まる一方で。部活は野球部だったんですが、途中で辞めてしまったので使い道がなくて。で、その貯金が残念な方向に向かっていってしまったという。
―― 動画はネットにアップしたりしてたんですか?
三重 まだ親や友人に見せていたくらいでした。使っていた画像がゲームから吸い出したものだったこともあって……。
―― またもアッサリ言ってくれますけど、編集ソフトの使い方ってすぐに分かるものなんですか?
三重 いや、全然分からないですよ。タイムラインって何? レイヤーって何? という状態です。本とか解説サイトを見ても言葉の意味がまったく分からなかったので、動画を見て「どうやって作ってるんだ?」と思ったら、同じような画面を作って、同じように動かしてみる。それで「あ、こうするんだ!」っておぼえていったんです。
