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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第47回

5年間で激変したメジャーとネット――FLEETの場合

2011年02月12日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 ニコニコ動画(動画サイト)界隈には、今やプロがゴロゴロいると言われている。確かにこの界隈をテレビに代わる新しい芸能界、メジャーに代わる新しい市場として見なすことも可能だし、実際にそうしたプロもいるのかもしれない。

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TRANSIT

 そこに正面切って現われた正真正銘のプロが、FLEETの佐藤純一さんだ。バンドのデビューは2006年。2007年にヤマハミュージックコミュニケーションズから「pre view」「review」と2枚のアルバムを出し、ポストロックグループとして活動していた。

 そのFLEETの三年ぶりのアルバム「TRANSIT」のリリースを控えた1月15日に、彼は初音ミクを使った曲「Cipher」をニコニコ動画で公開。翌日にはそのCDを持って音楽フリマ(THE VOC@LOiD M@STER)に参加している。そのタイミングからアルバムのプロモーションかと思いきや、実はまったくそうではない。

 彼の初音ミクへのアプローチは、プロとしても相当にユニークだ。彼がこの界隈に興味を持ったのは、メジャーに代わる新しい市場としてではなく、その周辺の文脈を支える文化そのものらしい。それが形作るであろう新しい状況にこそ興味があるのだという。

 では初音ミク、引いてはインターネットが生み出したものは何なのか。メジャーシーンとネットカルチャーの境界にいる立場から、それがどんな風に見えるのかを聞いていこう。


ネットがきっかけでデビューしたのに

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「イノセント・ヴィーナス」主題歌 Brand new reason

―― まずデビューの話から始めましょうか。

佐藤 音楽は子供の頃からやっていたんです。漫画を描くのも好きだったので、普通の大学へ行くよりも面白そうということで、美術大学に入ったんです。大学じゃ勉強はせずバンドとかばっかりやってましたけど(笑)、結果的にはデザインの仕事をするようになりました。その後、ランティスからCDを出さないかという話が来て、デビューということになったんですね。

―― それはどんな経緯で話が来たんですか?

佐藤 自分のWebサイトに曲をフルでアップして、何曲か聴ける状態にしておいたら、色んな人が聴いてくれたみたいで、イベンターやレコード会社の人から反応が来たんです。その流れでCD出しませんか、という話になったんですね。今なら曲を作ってニコ動にアップしてということは普通にやりますけど、2000年代中盤の当時はライブハウスでお客さんを集めるしかなかったんで。

佐藤純一さん

―― 最初のCDは2006年発売ですけど、確かにYouTubeがメジャーになる一歩手前の時期ですね。

佐藤 何かが変わり始めるかな、くらいの時期でしたね。2007年には2枚のアルバムをヤマハから出したんですけど、PVをYouTubeに上げようとすると「それは止めてください」みたいな話になる。FLEETはネットがきっかけでデビューしたのに。その後も次のアルバムを作ろうという話が出るんですが、レコード会社も不況でなかなか予算が出せないという状況で。2007年はニコ動と初音ミクが登場した年でもあったので、そこからの3年間にいろんなことが変わってきたときだったんですけど。

―― じゃあデビューしてからの3年間は、このネットの状況を指をくわえて見ているしかなかった?

佐藤 そうですね……。面白いな、と思いながら。予算が出るはずのものが出ないとか、そういうものに翻弄されながら、あっという間に時間が経ってしまった感じですね。

―― 何か契約上の縛りがあったとか?

佐藤 それはなかったんですけど。

―― だったらやれば良かったのに。

佐藤 むろんそれはそうなんですが、途中まで進行していた話(CDの企画)が頓挫して……みたいなことが続いたんで。それなら自主レーベルで出そうということでデモを作っていたんです。僕はアニメの仕事もやってたので、そのつながりでポニーキャニオンから「一緒にやろうよ」という話があって、その線で今回のアルバムを進めていたら、そこからまた色々とありで……。

―― なんだか音楽不況の影響を一身に受けちゃった感じですね。

佐藤 今回のアルバムも、去年の春の段階でほとんど完成していて、いつでも出せる状態だったんですけどね。

―― じゃあもうすぐに次を出したいでしょう?

佐藤 出したいですねー。


(次のページに続きます)


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