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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」第164回

より真空管らしい音になるーーNutubeの特性と開発者の制御に迫る

2017年04月29日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 VOXは新型真空管「Nutube」を搭載した初の製品として、超小型ギター用ヘッドアンプ「MV50」を3月25日に発売した。

 NutubeはVFD(蛍光表示管)で有名なノリタケ伊勢電子とコルグの共同開発によるもので、従来の真空管より低電力で動き、発熱も少なく、小さな筐体に収められる。MV50はそうしたNutubeのメリットをわかりやすく形にした製品だ。

 MV50の外形寸法は標準的なストンプボックスサイズのエフェクターと大差なく、重量はわずか540gに過ぎない。ACアダプターと合わせても、ギターのギグバッグに難なく収められる。

 にも関わらず、Nutubeを使ったプリ段と、クラスDのパワー段によるハイブリッド構成で、MV50は最大50Wの出力を発揮する。一般的なギター用スピーカーキャビネットと組み合わせることで、リハーサルスタジオからライブハウスまで対応できるパワーだ。

 また、ヘッドフォン/ラインアウト端子にはキャビネットシミュレーターも搭載されており、自宅練習やDTMのような用途にも使える。こうした応用範囲の幅広さもMV50のウリのひとつ。

 MV50はサウンドキャラクター別に「ROCK」「AC」「CLEAN」の3種が用意され、店頭価格はそれぞれ2万1600円。同時に発売された小型8インチスピーカーキャビネット「BC108」は1万800円。MV50とBC108のセット販売もあり、こちらはROCK、AC、CLEANともに2万8080円。そして4月末には本格的な12インチスピーカーキャビネット「BC112」の発売も控えている。

 VOX開発チームへのインタビュー最終回は、この製品を成り立たせているNutubeという新しい素子と、実際のアンプの設計について。

(写真右)株式会社コルグ 開発2部 李 剛浩さん (写真左)株式会社コルグ 商品企画室 江戸有希さん

MV50がフルチューブではない理由

―― (前回までの試奏を終えて)いやー、これはいい。このパワーアンプがドライブしている感じは本当にいいですね。

江戸 Nutubeすごいって感じになりました?

―― もちろん! でも、なぜクラスDのハイブリッドなんだと思っている人も多いみたいです。念のため、この構成になった理由をお聞かせください。

江戸 一番はサイズです。Nutubeの省電力で小型というキャラクターを活かしたパッケージにしたいと思っていましたから。ほかのアプローチとして可能性があるとしたら、あとはトランジスタ?

 いや、トランジスタでも結構熱で捨てることになります。それはこのパッケージには合わないですね。

江戸 トランジスタを使ったクラスABのヘッドアンプでも、筐体の中はかなり空間があると思うんですが、あれは放熱があるからなんです。

MV50の天面にはアクリルの天窓があり、入力信号に応じてNutubeの中で明滅する青い光が見える。これはNutubeがVFD由来の素子であることを示す仕掛け

―― Nutubeにはパワー管がないからできないんだという人もいますが。

 パワー管はないです。なぜかというと、パワー管というのは、プリ管と比べ物にならないくらい、ものすごい量の電子を出さなければならないんです。

―― 大きくなっちゃうということですか?

 はい。Nutubeは究極なくらいエコな設計になっているんですが、パワー管となると、中の電極も細いフィラメントではなく、針金みたいに太いものが必要になってくる。するとその分の放熱をしなければならない。パワー管があれだけ大きいのも、ものすごく熱が出るからです。

―― 仮にNutubeでパワーアンプが成立しても、放熱用のスペースが必要でメリットが生かせなくなると。

 そうです。なおかつMV50は、パワーアンプがスピーカーキャビネットの影響を受けるダイナミックな特性を再現しているというところで、音の点でも(いままでのクラスDやソリッドステートのアンプとは)歴然と違うのではないかと思っています。

より真空管らしい音がする

―― 2年前のNutubeの開発発表の際には、すでに試作品も公開されていました。そこから製品化までに2年かかったのは、なにか理由はありますか?

江戸 MV50自体は短期間で開発したんですが、Nutubeを開発するチームと、製品を作るチームは別で、Nutubeの技術が完成した時点で、製品を作るチームに降りてくる。試作品はその途中で小出しにしていたんですけど、満を持して完成した技術が製品開発チームに降りてきたということです。

NAMM2015で公開されたNutubeを使ったヘッドアンプの試作品。クリーン/ブーストの2チャンネル仕様
ネプコンジャパン2016のノリタケ伊勢電子ブースで展示されたラックマウント型試作品。背面にはMIDI端子も装備されていた

 実際にこの製品に取り掛かれたのが、去年の4月くらいです。自分が知っている範囲だと、より低電圧でも安定して動作するように中の電極の構造を換えてみたりとか。そこで半年、一年くらいはかかっていましたね。

―― 素子として使いやすい、使いにくいみたいなことはありますか?

 オペアンプと同じような感覚で使えるので、そこは非常に使いやすいと思います。

―― 設計のアプローチも普通の真空管とは違いますか?

 違いますね。言い換えると、より簡単です。ハイゲインアンプだと12AX7を何本か通って、かなり電圧をかけて、ようやく出る音というものが、Nutubeは割と簡単に出せます。

―― 音に違いは?

 より真空管らしいというか。イメージ的には古いフェンダーだとかVOXだとか、強く弾くとダイナミックに歪むような、ああいうパワー管の特徴に似ていると思います。

NAMM2015で発表されたNutubeの試作品。側面にニップルが残っている

―― 個体差が少ないと聞いているんですが、実際のところは?

 従来の真空管と比べると品質の次元がかなり違うところにあって、基本的にバラツキは少ないです。

江戸 旧来の12AX7などは、用途によっては半分くらい使えないという話もあるくらいですが、それに比べたら劇的に歩留まりは高いですね。

 ですが、2つバラつくところがあって、ひとつはゲインです。ゲインを稼ぐには、正確な動作点に持っていく必要がある。そしてもうひとつはマイクロフォニック。キーンと鳴るやつ。発振ですね。  

江戸 外から振動や衝撃を加えると、自分で発振をし始めてしまう。真空管にはそういう性質があるんですが、Nutubeも真空管なので、同じ特性を持ってしまっているんですね。

 たとえば12AX7という真空管は、電子を出すために電極をヒーターで温めているんです。Nutubeはその電力がムダなので、電極がヒーターになっている。これを直熱管と言うんですけど、すると電極が少し動いただけで電極間の距離が変わる。その距離の差が電子の飛び方に影響するんですね。

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