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古田雄介の“顔の見えるインターネット”第54回

愛の源は緊張感! 「水門」鑑賞家の佐藤淳一氏に聞く

2009年08月10日 16時00分更新

文● 古田雄介

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鉄ちゃんの小学生時代を経由して、ドボク愛に目覚める

―― Floodgatesをスタートしたいきさつを教えてください。

佐藤淳一氏。写真家としてだけでなく、武蔵野美術大学 デザイン情報学科 教授としての顔も持つ。同氏の研究室でインタビューさせてもらった

佐藤 ホームページ自体は1995年の夏から「microtopographic web」というのをやって、後に「jsato.org」と名前を変えましたが、そこで紹介していたファインアート志向の写真ではなく、写真に興味がない人でも「なんか面白いもの載ってるじゃん」みたいに楽しめるものを作ろうと思ったんですね。そこで1998年に昔から興味を持っていた水門を紹介するサイト「Floodgates」を作ったという流れです。

 ちょうどその頃、100万画素のデジカメが登場したというのも大きいですね。それまでのデジカメは30万画素などで少し実用には厳しかったんですが、これならサイト掲載用にも十分だろうと思い、「撮ったその日に載せる」というコンセプトで始めたわけです。今では当たり前のことですけど、フイルムカメラが主流だった当時は、デジタルで即写真ができるデジカメというのはすごく画期的だったんですよ。

―― 水門に興味を持ったのは何がきっかけだったんですか?

佐藤 1993年くらいに、いくつかの出来事が重なってハマったんですよね。荒川の下流で河川敷の写真を撮っていたときに、たまたま真っ赤な水門を見かけて、それが綺麗だったというのがひとつ。その少し前に、水上バスでビールを飲んでいるときに、窓から水面ギリギリで光っているランプが見えたんです。

 後から調べたら、船の通行用に水門に付けられている信号機と分かって、すごく面白く感じたのがひとつ。そして、これは建造物マニアの人達と共通していると思いますが、ベッヒャー夫妻※1の建造物写真の影響を受けていたのがひとつ。まだ世界的にみても水門を専門に撮っている人はいなかったので、「ここは俺が水門担当になろう」と、訳の分からない使命感を持ったんですね(笑)。

※1ベッヒャー夫妻:1960年代を中心に活躍したドイツの写真家夫婦で、給水塔や溶鉱炉、車庫などの建造物を、撮影者の主観を省いた無機質な構図の写真に淡々と残していくスタイルで名を馳せた。当連載でも、「住宅都市整理公団」の大山氏が影響を受けたと語っている

―― では、数ある建造物のなかで、あまり手垢が付いていないから水門に目を付けたという感じですか?

佐藤 それはありますね。もともと私は「人が作ったものが好き」というのがあって、小学生の頃は鉄道を撮っていたんですよ。ホラ、男の子のだいたい8割は、鉄ちゃんとして生まれてくるじゃないですか(笑)。そこから興味の変遷があって、最後は土木建造物に惹かれるようになりました。ただ「土木」といっても橋なんかは結構脚光を浴びている。でも、自分的には好きな水門は誰も何も言わない。なら俺が……というのはありますね。

 とはいえ、単に手薄だから選んだわけではありません。水門って人間の深層心理の中にガツンと深いくさびを打ち付けるんですよ。2~3日前にも「私も水門好きです」という方から(mixiで)マイミク申請をもらったんですが、その人は「友達が家出するときは、必ず水門を経由して出て行く」んだって(笑)。何人かの友達が「私、家出するんだ」と打ち明ける場所が水門の前だったりして、その方も友達の家出の話より水門が気になって仕方なかったとか。そういうふうに、人を引きつける何かがあると思うんです。

佐藤氏のネット活動の原点となった本サイトの「jsato.org」。現在は「ちょっと放置している感があります。活動履歴などは更新していますが、積極的な活動はもうしていないですね」という

―― なんでしょう。圧倒的な大きさで、しかも住居の近くにあるという、身近な威圧感みたいなものですかね。

佐藤 おっしゃるとおり、平野に住んでいるとだいたい生活圏に水門がありますよね。もともと日本の平野は、暴れ川と湿地帯が入り組んでいるところだったのを治水で開いていったという経緯があります。治水には川の氾濫を防ぐ水門は欠かせません。だから、多くの日本人はどこかで水門を見ているはずです。どこで見たかは覚えていなくても、あの重厚で巨大な存在は無意識下にも根を張るんです。そしてその存在感は、日本だけで多用されている、(水を)せき止めるために鉄板を吊し上げる「ローラーゲート方式」だからこそと思います。

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