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「2~3年でエンドユーザーの通信環境は激変する」――IIJ深瀬会長

2001年05月02日 03時27分更新

文● 編集部 佐々木千之/中西祥智

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[編集部] FTTHが実現したときに、バックボーン・帯域幅は十分対応できるのか?
[深瀬氏] バックボーンは、今は余っていて使い切れていない。余っている部分をどうやって使おうかという状況だ。
[編集部] それはIIJに限らず全体的な状況なのか?
[深瀬氏] IIJに限らず、だ。実際に設備は設置してあるが、それをアクティベイト、運用していないという状況だ。ここ2~3年、技術革新によって、光ファイバーのキャパシティーが1桁ずつ増える、ということが起きている。具体的には、WDMやDWDMといった技術によって、光ファイバー1本の容量が2.4Gbpsだったのが、ある日突然40倍になったり、100倍、400倍になったりということが起きている。中を流れるデータ量が、毎年1桁ずつ増えるということは今までもなかったので、帯域不足に関しては心配していない。
IIJ取締役会長 深瀬弘恭氏「バックボーンは、今は余っていて使い切れていない。帯域不足に関しては心配していない」
[編集部] では、エンド・ツー・エンドの高速サービスが開始されたときに、その間の部分は日本でも十二分に整備されているということか?
[深瀬氏] 日本は均一に光ファイバーを敷設しているわけではない。1番密度を濃く敷設しているのは、東京・名古屋・大阪になる。3都市では、すべてのキャリアーで合わせて数百本の光ファイバーが走っている。たとえば2.4Gbps×その本数×100波のキャパシティーがあれば、普通では使い切れない。
[編集部] インターネットエクスチェンジ(IX)(※7)のキャパシティーはどうか?
※7 ISPのネットワークを相互に接続して中継する場所、またはその機能のこと。

[深瀬氏] それも技術革新で克服されるだろう。また、アメリカのように、サービスプロバイダー同士がIXを経由せずに直接接続するなど、いくらでも対応策はある。
[編集部] ブロードバンド化の進行に伴なう、急激なトラフィック(※8)の増加については?
※8 通信回線を流れるデータの量、通信回線の混み具合。

[深瀬氏] トラフィックというものは、じりじりと増えていく。特定のサイトが局所的に跳ね上がることはあっても、しばらくすればなだらかなトラフィックカーブに戻る。その局所的なトラフィックの増大のために設備投資を行なうというのは、ユーザーに高い負担を強いるわけで、やるべきではない。もっとも、その局所的な増加というのも、いずれ埋もれてしまうだろう。“通信回線をザブザブ使うんだ”ということになり、“たった100MB”という状況になるだろう。
[編集部] しかし、今後の帯域幅は今までとは比較にならない増え方をするのではないか?
[深瀬氏] 増えることは増えるが、すでに設置してある光ファイバーのキャパシティーで、十分に対応可能だ。どうやって回線を売ろうか、ということのほうが問題なくらいで、設備投資を回収するために回線をダンピングして提供し、通信料金が急激に下がるに一因にもなっている。国際回線にしてもそうだ。

通信回線は生鮮食品

[編集部] 日米間の光ファイバー回線が余っているのは容易に想像できるが、それは全世界的な話なのか?
[深瀬氏] アジアでも、新しい海底ケーブルの運用が始まれば、途端に余るだろう。大西洋でも状況は同じだ。中近東やロシア経由などには、余裕がない回線もある。
[編集部] 今後の、そういった国際レベルでの通信業界は?
[深瀬氏] 米AT&T社や英ブリティッシュ・テレコム(BT)社のように、コンシューマー向けのビジネスもしている企業もあるが、最近登場してきた企業は、光ファイバーを基幹ネットワークとして通信事業者に卸すだけで、エンドユーザーを対象としたビジネスはしていない。国際通信の分野は問屋のようなもので、そういうところでは小さな組織で、意思決定も早く、負債もないという形でスタートしている企業が強い。AT&TやBTというのは、昔からのしがらみを抱えており、新興企業と競争するにはビジネススピードが足りない。相当なスピードで価格競争をされたらついていけない。
[編集部] 新興企業とは、レベル3やグローバル・クロッシング を指しているのか?
[深瀬氏] それと同じような構造の企業は、同じように価格を下げている。しかし、旧来の電話会社には、それはできない。むしろ、AT&TもBTも自社で国際回線を維持するよりも、そういった企業から買ったほうが安くつく、という構造になっている。企業戦略ではなく経済原則からいえば、どちらがコストが下がるかと考えると、そうした安い回線を使うことに抵抗できない。通信回線も生鮮食品と同じで、早く売ったほうが勝ちになる。
[編集部] 生鮮食品とはどういうことか?
[深瀬氏] 早く売れば、いい値段で売れる。半年でも1年でも先になれば、生鮮食品と同じように、値段が下がってしまう。そして、技術革新が起きて、別のステージのサービスに通信のキャパシティー自体が移ってしまうと、古い回線は売れなくなってしまう。

編集部では、エンドユーザーのブロードバンド化が急速に進行しているので、小回りの効かないバックボーンでは帯域不足に陥るのでは、と予想していたが、現状では逆に余っているという。エンドユーザーまでの“ラストワンマイル”さえFTTHもしくはほかの手段で整備されれば、高速な通信環境が早期に実現しそうだ。

その一方、深瀬氏も認めたように、旧来の電話会社がこれまでのように回線を提供するだけでなく、その上のサービスに本腰を入れて参入し始めており、先行している各社との競争は、ますます激しくなる。今後2~3年で、インターネット・通信業界において、体力のない企業は淘汰されるだろう。

エンドユーザーにとって、企業間競争は価格の低下、サービスの向上につながる。しかし、企業が淘汰されすぎた結果、旧来型の電話会社が再び市場を独占する可能性も少なくない。独占状態になれば、価格・サービスは独占企業の意思に委ねられることになる。そうならないためにも、旧来型の電話会社には、公正な競争ルールを守ることを、そして、先行する新興企業には、さらなる企業努力を求めたい。

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