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技術ごとに「勝てる国」を選ぶ ディープテックの海外進出は米国一択ではない

IVS2026セッション「ディープテックの社会実装を加速させる条件とは?—万博のその先を、GSEで切り拓く—」レポート

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 2026年7月3日、IVS2026で開催されたセッション「ディープテックの社会実装を加速させる条件とは?—万博のその先を、GSEで切り拓く—」では、日本のスタートアップが世界で成長するために何が必要なのかが議論された。

 登壇したのは、株式会社日本総合研究所 プリンシパルの東博暢氏、Venture Café Tokyo代表の小村隆祐氏、一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事の藤本あゆみ氏、Beyond Next Ventures株式会社 執行役員 パートナーの有馬暁澄氏。東氏と小村氏は、2026年10月に大阪で開催されるディープテックの国際イベント「Global Startup EXPO 2026(GSE)」の統括ディレクター、プロデューサーとして議論を進行した。

日本のスタートアップは「まだ世界で通用していない」

 最初のテーマは、日本のスタートアップが世界でどこまで通用しているのか。

 海外のスタートアップ・エコシステムを継続的に見てきた藤本氏は、日本の現状について「正直なところ、通用していないと思います」と率直に語った。

 理由として挙げたのが、事業化のスピードだ。ディープテックは研究開発から社会実装まで時間がかかる。これは海外でも同じだが、藤本氏は、世界が速く動くなかで、ビジネスとして成立させるまでのスピードで日本は遅れていると話す。

 東氏も、日本ではスタートアップを増やす政策が全国各地で進められてきた一方、中小企業政策や地域振興策とスタートアップ政策が混ざりやすく、基礎研究と応用研究の支援も一体化しやすいと指摘した。

FoundersNation株式会社 藤本あゆみ氏。グーグル合同会社、Plug and Play Japan株式会社などを経て、2022年に一般社団法人スタートアップエコシステム協会を設立し、代表理事に就任。2025年にはFoundersNation株式会社を共同創業

「増やす政策」と「伸ばす政策」は分ける

 事業化のスピードを上げるには、スタートアップを支える側の政策も変える必要がある。これまで日本では、スタートアップの数を増やす政策が全国各地で進められてきた。しかし東氏は、「10年以上前の研究論文でも、スタートアップの数を増やすことと、トップティアの企業を生み出すことには相関がないとの研究結果が示されている」と語った。

 藤本氏によると、こうした議論は日本に限ったものではない。海外では、「スタートアップ政策」と「スケールアップ政策」を分ける考え方が広がっているという。

 スタートアップを生み出す政策と、すでに生まれた企業を大きく成長させる政策の両方を持ち、支援の広さや深さ、力のかけ方を変える国が増えている。藤本氏は、スケールアップの定義自体は国によって異なるものの、「伸ばす」部分では日本はスピードで遅れていると話す。

 さらに有馬氏は、投資家の立場から「マーケットをつくる」必要性を挙げた。

 有馬氏によると、モメンタムのある市場にはスタートアップが集まり、それを見てVCや事業会社も集まる。国やVCがまず一つの市場をつくり、その後に事業会社も加わっていく流れが重要だという。日本国内でもプレイヤーが個別に動くのではなく、「全員で一つのチームでやる」ことが必要だとした。

 政府の成長戦略でも、産業政策とスタートアップ政策を組み合わせ、知財、国際標準、認証などを一体で進める議論が出ているという。産業クラスターへの投資や海外との連携も含め、スタートアップを既存の産業政策の中にどう組み込むか、といったテーマへ移りつつある。

株式会社日本総合研究所 プリンシパル/J-Startup推薦委員の東博暢氏。Global Startup EXPO 2026では統括ディレクターを務める

「海外進出=米国」でいいのか

 海外展開の議論では、有馬氏は「どこの国で勝負するのか」を考える必要があると指摘した。

 日本のスタートアップは、海外展開を考えると米国を目指しがちだ。だが、すでに同様の技術やサービスを持つ企業が米国にある場合、強力なライバルと正面から競うことになる。有馬氏は、中東やアフリカ、欧州なども含め、技術ごとにどの国なら勝ちやすいのかを見極めるべきだと話した。

 「この技術は、どの国だったら勝てるのかをマッピングして、そのうえで、それぞれに政策とお金をかけていけば、勝率が上がるのではないでしょうか」と、海外展開先を一律に決めるのではなく、技術ごとに市場を選ぶ戦略を示した。

 藤本氏は、2026年5月に米国で参加した「SelectUSA」の経験から、「アメリカには50州あります。私たちは“アメリカ”とひとくくりに言いますけど、50州全部違う。法律も違うし、文化も違う」と説明する。

 工場をどこにつくるのか、誰とビジネスをするのかによって、税金や商習慣、法律も変わる。藤本氏は、進出先を国単位で捉えるだけでなく、地域ごとの比較優位や競争優位まで見極めたうえで、どの市場を狙うのかを戦略的に考える必要があるとした。

 有馬氏もこの指摘に同意し、米国のスタートアップに投資した経験から、州によって顧客のペルソナが異なり、スタートアップも地域ごとにマーケティングやプロダクトを変えている、と付け加えた。

 AIやSaaSなど国境を越えやすいビジネスと、工場や設備を伴うディープテックでは、海外展開の考え方も変える必要がありそうだ。

Beyond Next Ventures株式会社 執行役員/パートナー 有馬暁澄氏。2025年より完全招待制のディープテックカンファレンス「TECHNIUM Global Conference」を創設

日本企業の海外ネットワークをスタートアップへ

 海外展開をめぐっては、日本の事業会社が持つ海外ネットワークの活用にも議論が広がった。日本の大企業は海外で事業を展開するノウハウを持っている。

 藤本氏は、「大企業がスタートアップの海外展開を後押しするパートナーとなり、ジャパンチームで取り組む必要がある」と話した。

 小村氏は、GSEの重視するテーマの一つが既存産業や事業会社を巻き込むことであるとし、「事業会社が持っているネットワークを使えないのか。そこにスタートアップを載せることができないのか。GSEはそういったことを実現できる場にしたい」と述べた。

 京都発のフェムテックスタートアップ、Flora株式会社の事例も紹介された。同社には株式会社豊田通商が出資し、インドでの事業展開を支援している。現地マーケティングも豊田通商が担っているという。

 日本企業は、海外VCへのLP出資などを通じて、世界のメーカーや投資家とのネットワークも持っている。こうした販路や事業開発のノウハウを、国内のディープテック・スタートアップの海外展開にどう生かすかが重要になる。

Venture Café Tokyo代表/Global Startup EXPO 2026 エグゼクティブプロデューサーの小村隆祐氏

GSEは何に集中するのか

 セッション後半では、GSEそのものの設計にも議論が及んだ。会場から飛び入りで参加したスタートアップエコシステム協会 副代表理事/FoundersNation代表取締役CEOの名倉勝氏は、エコシステムをつくるには、地理的にも技術領域的にも対象を絞る必要があると指摘した。

 名倉氏は、英国のイノベーション・ディストリクトの例として、マンチェスターがグラフェンに対象を絞っているケースを紹介した。炭素材料全般を広く扱うのではなく、グラフェンという特定の材料領域に集中することで、競争優位性を高めようとしていることを例に挙げ、「GSEも絞り込んでいかないと、これまでのディープテックのカンファレンスと同じになってしまう」と話した。

 小村氏は、関西で開催する日本発のイベントとして、GSEならではの特徴を明確にする必要があると応じた。地域のスタートアップ支援についても、各地で同じ支援策を展開するのではなく、それぞれの地域でどの産業を育て、どの市場を目指すのかという仮説を持つことが重要だと話した。

 東氏も、各地域ですでに世界とつながっている産業や研究基盤を生かし、強みのある領域に集中していく考え方を示した。

 GSEは2026年10月5日から7日まで大阪で開催される。小村氏は、スタートアップ関係者だけのイベントにはせず、事業会社や投資家、行政、海外のプレイヤーも巻き込む場を目指すとした。

 藤本氏は最後に、「今は通用していないだけで、これからも通用しないとは全く思っていない」と語った。有馬氏も、海外で成長するディープテック企業は少しずつ出始めているとし、GSEをきっかけに、日本国内外からスタートアップを支える流れを広げたいと締めくくった。

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