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台湾テック系VCのパイオニア・Darwinに聞く、テクノロジー×グローバル投資の現在

Darwin Venture Management 代表パートナー ケイ・リン氏 インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 台北に本社を置き、新竹、米国のパロアルトと東京にオフィスがあるベンチャー投資会社の「Darwin Venture Management(ダーウィン ベンチャー マネジメント)(以下、ダーウィン)」は2009年に設立され、テック系を中心とするグローバル投資を次々と成功させている。米国以外の地域や日本のファンドともつながりを持ち、台湾の優れたアカデミア発のスタートアップを支援するエバーグリーン・エンジェル・ファンド(以下、エンジェル・ファンド)でも注目されるダーウィンのこれまでの活動や、知的財産に関する戦略などについて、代表パートナーを務めるケイ・リン(Kay Lin)氏に話を伺った。

Darwin Ventures Managing Partner ケイ・リン(Kay Lin)氏
2002年にIBMに入社し、ソフトウェアエンジニアとしてデザイン・開発業務に従事。その後、HTCにて技術管理、新製品開発を手掛け、日本初のWindowsMobileスマホ「hTc Z」、Androidスマホ「HT-03A」の販売を実現した。2009年より 株式会社ユビタス に入社、クラウドゲームソリューションを開発し、台湾、日本、韓国、米国、ドイツ、中国の大手事業者に採用された。設計、開発、製品化、顧客サービスからアントレプレナーシップに至るまで、ソフトウェアビジネスにおいて豊富な経験と実績を有する。

イグジットから逆算してビジネスを考え、ストーリーを再提示する

 台湾をベースにするダーウィンは、スタンフォード大学の博士課程で知り合った、Simon Fang氏と Yaoting Wang氏によって創設されたテクノロジー関連に強みを持つVCである。創業者はともに半導体分野のエンジニアであり、エンジェル投資家として共同で、20社以上の支援と複数のエグジットを成功させている。

 シリーズA、B、レイトステージなどを中心に9つのファンドを運営しており、当初は半導体業界への投資が多かったが、2014年からは軸足を変えてソフトウェアやインターネット分野に投資し、ポートフォリオの半分を占めるまでになっている。残り半分はディープテック分野で、多くは大学から技術をスピンオフしたものを対象としている。

 米国以外の地域や日本のファンドともつながりを持ち、2015年から16年にかけて大きく成長し、中規模ながら台湾におけるソフトウェア投資のパイオニア的存在として知られるようになった。また、ダーウィンのもとには、テクノロジー系のバックボーンを持つパートナーが次々参加し、リン氏も含めてほとんどがエンジニアかつ技術全般に詳しいサイエンティストという、ユニークな構成になっている。

「ダーウィンでは企業評価を独自のプロセスで行っており、さまざまなポイントを考慮しますが、決定にはパートナー全員の一致した投票が必要になります」とリン氏は説明する。

「VCが最終的に求めるのは、IPOかM&Aなどによるイグジットなので、その点を最も真剣に考えています。アジアのスタートアップではイグジットの概念があまり成熟しておらず、起業家は2、3年でどうやってビジネスを発展させ、お金を稼ぐかを考えがちです。しかしそれだけでは十分ではなく、イグジットから逆算してビジネスを考え、投資家の視点からストーリーを再提示することで受け入れられ、新たなパートナーシップの可能性が高まるのです」

 主な投資では、企業や政府とLP(リミテッド・パートナーシップ)を組むのに対し、2022年には、有望ながら初期段階にある台湾の優れたアカデミア発の研究機関やチームを支援するエバーグリーン・エンジェル・ファンドを立ち上げている。大学の先行的な技術開発などに対し、小規模で迅速に投資先を決定することで、早くから投資に参加する機会につなげている。

「創業者やチームは気に入ったけれど、メインファンドから投資するには少し早すぎるという場合、プロセスは長くなりますが、競争力のあるスタートアップへいち早く投資するためにエンジェル・ファンドを利用します。投資家のほとんどが個人であるため投資の柔軟性が高いのが特長で、すでに7、8件のポートフォリオがあります。案件で重視するのは創業者の資質です。

 アカデミア発のスタートアップは、初期段階でピボットして事業要素を変更したり、根幹に関わるような変更をしたりしなければならない場合もあるため、柔軟であり、外部からの提案を真摯に検討できるといった、創業者の資質を深く見るようにしています。また、教授だけでなく、学生をサポートするため、スタートアップで働く30歳以下の若い才能のために、特別なプログラムやツールをたくさん用意しています」(リン氏)

知財で大切なのは特許の数よりもその戦略である

 ダーウィンでは知財をテック系スタートアップにとって必要不可欠なものであり、会社の根幹を成すものだと見ている。ただし、単に10件の特許を持っているというところではなく、どのような知的財産戦略を持っているかをチェックし、創業者と話し合いながら正しい道を進んでいるかを確認することで、知財を侵害したりされないようにしているという。

「最近スピンオフしたある大学発スタートアップでの例ですが、彼らはより高いレベルをカバーする基本的な知財を持っており、日本の大企業と連携するにあたりその下にある補足的な知財を共同開発し、共同で所有することにしました。こうした戦略を立てることで、基本的な技術を守ると同時に、大企業とのさまざまな成長機会を得ることができました。大企業側は当然ながら知財全体を所有したいので、最終的には合併の機会につながるかもしれません」

 ただし、知財ポートフォリオは重要だが、必ずしも投資の入口になるわけではないようだ。

「知財が非常に重要で、それがなければ会社の価値がゼロになってしまうような場合は別ですが、多くの場合は出発点にすぎません。適切な知財が保護されることは全ての始まりでもあり、そこから議論を始めますが、もし、チームが全体的な競争力を持っているかが疑わしい場合は、おそらく投資を見送るでしょう。いずれにしても自分のビジネスはどういうもので、どう成長させたいかが大切だと言えます」

 グローバルでの展開を得意とするダーウィンでは、米国での知財展開はやっておくべきものだと考えているが、時間がかかるため、まず台湾の知財を出願し、その過程で知財の使い方や知財の作り方について知識を蓄えてから、米国の知財を出願するケースもあるという。

「知財のライセンス料で収益を上げられるのは、DNAシーケンシング技術やGoogleのページインデックス技術で、トップ5が収益の大部分を生み出しています。スタンフォード大学では、キャンパスからのスピンオフだけでも毎年何百も起業されますが、その中でも大成功を収めたり、ユニコーンレベルのイグジットを達成できる企業はほんの一握りです。起業とは、本質的に非常に選別的で困難なものなのです。

 ただし、Googleのように成功した企業が1社あれば業界全体を支配できますし、政策的な観点、あるいは長期的な投資の観点からは、将来は未知数なのですから、投資して待つだけでなく、可能な限りイノベーションを奨励し、将来に向けた後押しをする必要があると考えています」

グローバルに強い台湾の背景と今後の日本との関係

 長年台湾のスタートアップ市場を見続けてきたダーウィンによると、台湾政府は長年にわたって次世代産業を育成する方針を掲げ、スタートアップのさまざまな段階に資金を提供するための複数のプログラムを立ち上げているとのこと。政府系ファンドのNDF(国家開発基金)が投資した企業の一つに、熊本進出で日本でもその存在感を増すTSMCがあり、その後も常に新しい次の産業を見つけ、サポートする努力を続けている。

「初期段階から資本市場への参入、合併の推進、さらに事業の終了や撤退に至るまでサポートがあります。また、政府がエンジェルとマッチングするファンドを持っており、シリーズAでは、台湾経済省の中小企業部門が別の資金調達を行い、その後に戦略的投資プログラムを行っています。いずれにしても、今は大きな投資をしているように見えても、将来的な影響という点から見ればまだ小さく、私たち自身も、本当に限界まで自分たちを追い込まなければ、成功を手に入れられる可能性はほとんどないと考えています」

 強い意思でテクノロジー分野への投資に力を入れるダーウィンでは、地域に特化したビジネスを展開しているが、ポートフォリオの多くが日本で事業展開をしているという。

「グローバルとは、米国や中国を指すとこれまで考えていたので少し驚きましたが、日本にはあらゆる種類の優れたテック系スタートアップがあるので、当然の流れなのかもしれません。

 今後は地域の投資家たちとパートナーシップを組み、国境を越えた協力や事業拡大の機会があるかもしれないと考えており、親睦を深めるためにも昨年から毎月さまざまなチームメンバーが来日しています。案件目標も当初の年に3件から、5〜7件に引き上げ、現在すでに2件に投資していますし、3〜4年後には最多で20件まで積み上げようとしています」

 リン氏は、今後パートナー関係を結ぶ機会が増えるであろう日本のスタートアップに対し、大事なことはオープンマインドを持つことだとアドバイスする。

「台湾の人口は2300万人と日本の7分の1なので、スタートアップの多くは最初から海外進出を考えますが、日本は全ての起業家が海外進出を考えているわけではありません。しかし、グローバルな考えを持つことで、製品やチームのレベルは違うものになります。

 新しいツールやテクノロジーで社会の全てが変化していますが、私はある意味、その動きの一部でありたいと思っています。それには自身がオープンであり、新しいことや変化を受け入れ、挑戦することで進化できると考えています。

 私たちは台湾に必要なコネクションを全て持っており、投資で適切な窓口を紹介できますし、投資家としての価値も結果によって証明されています。日本市場への参入は本当に難しいので、少し長い時間がかかりそうですが、そのための方法として、現地の実績のあるチームと提携するか、私たちのチームを日本に連れてくるか、いろいろ方法を考えているところです」

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