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オープンイノベーションと情報収集:ルーティンとして押さえておきたいノウハウを解説

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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オープンイノベーションに関する情報②:
セミナー/カンフェレンス・論文/書籍

 仲介業者や他の企業のオープンイノベーションチームのような人を介したものだけでなく、セミナーの聴講やカンフェレンスへの参加という手段でもオープンイノベーションに関する情報を収集できる。前者に関しては新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック以後にウェビナー形式での開催が増えてきた。無料のものも多く、有償でも高くない費用を支払えば容易に参加できる。

 さまざまな仲介業者が見込み顧客を集めるためのセミナーを頻繁に開催しており、自社サービスの活用実績がある企業の担当者が活動を紹介する形式が多い。とはいえ多くは長い自社紹介から始まり、新規に立ち上げた取り組みを紹介するに留まって、実務的なノウハウの説明はそれほど多くない。その意味ではあまり得るものはないかもしれないが、経験がない初期の段階では、雰囲気をつかむためにも参加してみるとよいだろう。

 一方で海外に目を向けてみると、米国のInnovation Research Interchange(IRI, 以前の名称はIndustrial Research Institute)という全米研究評議会によって設立された団体がイノベーションに関する各種ワークショップを開催している。WFGMモデルの開発に関して深い関わりがあったり、また参加している企業の間で仲介業者についての情報交換が行われたりしているようである。オンライン参加できるものもある。

 オープンイノベーション活動に役立つ情報を得るという意味では、国内では目ぼしいカンフェレンスは多くない。海外ならWorld Open Innovation Conference (WOIC)がおすすめである。本会はオープンイノベーションに関する最新の学術研究を企業でオープンイノベーション活動を推進する実務家が直面する課題と組み合わせ、さらに政策立案者を巻き込んだ議論も行う場と位置付けられている。

 元々2014年にChesbroughが立ち上げた団体で、毎年カンフェレンスを開催している。アカデミアの研究だけでなく、企業の実務家も多数発表しており、オープンイノベーションに関するグローバルトレンドがよくわかる場となっている。こちらもCOVID-19のパンデミックに合わせて直近のものはオンライン参加が可能であった。ちなみに筆者は過去3回に参加したが、日本人の参加者は各回数人程度しか確認できなかった。

 セミナーやカンフェレンスに参加すると、その際に登録したメールアドレス宛に各種の案内が送られてくるようになる。多過ぎると処理が大変になるが、目を通しておくだけでも情報が収集できる。またJOICに加入するとメールマガジンで経済産業省/NEDOのイノベーションに関する各種情報を受け取れる。無料であるし、まずは登録しておけばよいのではないだろうか。

 最後に論文や書籍を通じた情報収集を紹介したい。あまり取り組んでいる人は多くないようであるが、大きな費用も掛からず、モチベーションと時間さえあればすぐに始められるのでおすすめしたい。多数の学術雑誌があるため各々好きなものを読めばよいが、個人的には、Research Policy・R&D Management・Technovationあたりに掲載されているものが参考になっている。

 論文の中には特定の企業の事例を扱った研究があり、プレスリリースやセミナーよりも深い知見が得られる。類似の取り組みを行う際の参考になるし、目指すべき方向性を考えるときにも役に立つ。また社内でオープンイノベーションについて質問された際に説得力のある返答ができるメリットもある。最後に相手が求める情報を提供できれば、社外のネットワークの構築にも有用である。

 書籍に関しては日本語に訳されないことも多いため、英語で書かれたものも積極的に読んでいきたい。例えば以下のものがおすすめできる。

*Slowinski, Gene [2004], Reinventing Corporate Growth, Alliance Management Group Inc.; Gladstone.
第3回以降で繰り返し言及している、Slowinskiによる書籍である。WFGMモデルが開発された経緯やノウハウがまとめられている

*Lindegaard, Stefan [2010], The Open Innovation Revolution: Essentials, Roadblocks, and Leadership Skills, CreateSpace Independent Publishing Platform.
第9回で紹介したイノベーションコンサルタントのLindegaadによる書籍である。リーダーシップなど、オープンイノベーションの人的側面に焦点を当てた記載が多い

*Lindegaard, Stefan [2011], Making Open Innovation Work, CreateSpace Independent Publishing Platform.
同じくLindegaadによる書籍である。重複する内容も多いが、幅広くイノベーションを扱った前著と比べて、よりオープンイノベーションに焦点を当てている

*Mention, Anne-Laure, Arie P. Nagel, Joachim Hafkesbrink and Justyna Dabrowska (eds) [2016], Innovation Education Reloaded, Open Innovation Network.
第8回で紹介したOI-Netによる書籍で、500頁以上にわたってオープンイノベーションの幅広いトピックを扱っている。引用文献が豊富で、辞書的に活用できる。PDF版が無料で配布されている

 最後に重要な点を強調したい。情報収集には即効性はないものの、長い目で見ると活動の生産性に大きく影響する。継続には習慣化が有効であるが、そのためには好きになれないと難しい。これは特定分野のシーズとオープンイノベーションの両方に共通している点である。よって業務として割り当てるのではなく、オープンイノベーションチームの中でも向いた人が自主的に行うことが望ましいと考える。

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。NEDO SSAフェロー。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

※次回は9月11日掲載予定です

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