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コロナ禍が追い風、高価格商品を非対面で売るDX自動販売機「PRENO」

複数の化粧品を同時購入、商業施設でECのような体験を

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 株式会社PRENOは2019年5月に創業したハードウェアスタートアップだ。手がけるハードは「自動販売機」。大型モニターを搭載し、ユーザーの体験価値を高め、OMO(Online Merges with Offline)を実現しているのが特徴だ。

 すでにラフォーレ原宿をはじめあちこちでPOPUPを開催し、成功を収め、テレビニュースにも取り上げられるほど注目を集めている。2020年は数千万円を売り上げたが、2021年はさらに飛躍して2億円を目指すという。

 今回は、自動販売機にイノベーションを起こす「PRENO」とそのビジネス戦略について代表取締役 肥沼芳明氏にお話を伺った。

株式会社PRENO 代表取締役 肥沼芳明氏(撮影場所 RAYARD MIYASHITA PARK )

 肥沼氏はイギリスの大学の起業学部を出たあと、シンガポールのプライベートエクイティでハードウェアスタートアップに対する投資を行い、帰国後はリクルートに入社したという経歴を持っている。そのリクルートで行われた社内企業コンテストで最優秀賞を獲得し、社内起業家として美容動画サイトを立ち上げた。ハードウェアと美容、インターネット周り、オフラインのイベントに強いという武器を活かし、PRENOを起業したという。

 本格的に動き出したのは2019年11月頃で、フルタイムで働いているのは肥沼氏1人のみだが、必要に応じて、デザイナーやエンジニアなど20人のプロフェッショナルにも協力してもらっている。

 PRENOが手がけるのは新しいスタイルの自動販売機だ。自動販売機というと、既存シェアの半数以上が飲料向けで、次いで3割ほどが自動サービス機となっている。日用品の販売はわずか5.1%だという。肥沼氏はそこでの物販に目を付けた。たとえば、海外のショッピングモールは巨大だが、そのぶん余っているスペースもたくさんある。ここで商売できる日本風のアイディアを考えた時に辿り着いたのが自動販売機だった。

「帰国しても、自動販売機にはイノベーションが起きていなかった。そこで、ビジネスになりそうだと考え、起業することにした」(肥沼氏)

 資金も限られているし、自動販売機を製造した経験もないので、イチから開発することはできない。しかし、いろいろと調べると、海外には自動販売機を扱う会社が3万社もあったという。そこで、筐体を調達し、自分のアイディアで動画やカメラと組み合わせることにした。

 自販機にディスプレイやカメラを搭載すること自体に目新しさはないが、肥沼氏は、従来の自動販売機は安いものを多く販売することに特化していると分析する。PRENOの自販機は、高い商品に付加価値を付けて、ブランドのイメージを損ねない方向で作っているのでまったく別物だという。

「従来の自動販売機は指示待ち。例えば、コーラをくださいというと、コーラが出てくる。我々は今後、コーラをくださいと言う人がいたらカメラで判別し、ふくよかな人だったらダイエットコーラを勧めたり、顔色が悪ければエナジードリンクを出したりと、会話型の自動販売機を目指したいと考えている。」(肥沼氏)

世界一小さな○○屋さんとなるDX自動販売機「PRENO」

 DX自動販売機「PRENO」のサイズはW957×D920×H1900mmと、よく見る飲料用の自動販売機とほぼ同じ大きさとなっている。前面に大型のタッチディスプレイを搭載しており、利用者は画面にタッチして操作する。現金は扱わず、完全にキャッシュレス決済というのも特徴だ。主なQRコード決済やクレジットカード決済に加え、2021年からはSuicaなどの交通系決済にも対応するそう。筐体が大きいので、iPhoneの大きいサイズの箱なら約480個格納できるという。

 60wの電源と家庭用Wi-Fi環境があれば動作するのも手軽だ。冷蔵・冷凍できるので、食品の販売も可能。バレンタインデーでわざわざ上司のために並びたくない、という人向けにチョコレートの自販機も企画されているそう。

DX自動販売機「PRENO」

 魅力的な商品をラインアップしているので、複数の商品を購入するケースもある。そこで、複数の商品を選択し、1回の決済で済ませられるようにした。ECのような購入体験だ。

「顧客には世界一小さな○○屋さんとアピールしている。例えば、コスメなら世界一小さなコスメ屋さんで、自動販売機で一通りそろえる、と。ビジネス向けには、ユーザーの体験価値×OMO(Online Merges with Offline)というコンセプトを打ち出している。関連する特許も取得済み。価格は350万円で、一般的な自動販売機よりは若干高いが、すでにランコムさんにお買い上げいただいている」(肥沼氏)

 コロナ禍におけるニーズにも応えられる。この状況下で商業施設では人件費を抑えなければならなくなっている。売り場では商品に気軽に触ることもできない。そんな中、自動販売機であれば、人手をかけずに販売が可能。包装フィルムを気になるという意見が寄せられたため、富士フィルムの抗菌フィルムを採用するなど、コロナ対策も行った。

 さらに搭載されたカメラで、今後はさまざまな機能を実装していく予定だという。例えば、自動販売機に接触した人数や立ち止まった人数、通行人の数などをリアルタイムに計測し、時間ごとにレポーティングする仕組みを構築している。

 2021年6月には、利用者の年齢や性別などの属性を分析したり、洋服のトレンドデータなどを収集できるようにするという。最終的にはクラスタリングして、その人に合った商品を出し分けする予定だ。

「高価な商品を販売する際は、接客も重要になる。そこで、国内の大学と連携し、ロボットやWebアバターで接客することを考えている」(肥沼氏)

フルタイムは自分1人で超高速PDCAを回して実績を積む

 「PRENO」は新型コロナウイルスの第一波が日本に訪れた2020年4月にラフォーレ原宿でローンチした。肥沼氏はTwitterでのマーケティングにも知見があり、ユーザー同士がコミュニケーションを取れる仕組みを構築した。

「例えば、『自動販売機から商品が落ちてくると割れないの?』とツイートしたお客さまがいた時に、別のお客さまが『プチプチ巻いているから大丈夫』とリプライしていただくことによって、エンゲージメントが増幅していく。そういった仕組みは意図的に作っている」(肥沼氏)

 肥沼氏が情報収集し、商材は韓国コスメをチョイス。ラインナップはなんとローンチ5日前に決定したという。その分、リアルタイムに流行っている商品を選べたそう。結果、2週間で1100円の商品を500個販売した。自動販売機を使った利用者にヒアリングをしたところ、店頭のように声をかけられない点がいいという意見が多かったそう。彼氏や友だちといるので、他人に邪魔されたくないというニーズがあるのだ。さらに、男性の利用者も1割ほどいた。店頭で購入するのはためらうので助かったそう。

 その後、渋谷スクランブルスクエアやパルコ、TSUTAYAなどでPOPUPを開催し、こちらも好評を得た。新宿ピカデリーや関西圏の商業施設から自動販売機を常設する引合いがあり、現在20台ほどの商談が進んでいるそうだ。もちろん、ラフォーレ原宿にも設置予定だ。

 ビジネスモデルは自動販売機を設置させてもらい、物販や広告を収益源にするパターンがメインになる。とは言え、現在は自動販売機本体の販売も行っており、すでにフランスの高級化粧品ブランド「ランコム」に販売した実績がある。コロナ禍なので無料のサンプルを手渡ししにくいと言うことで自動販売機を導入したのだが、なんと通常よりかなり多くの数のサンプルがはけたという。

高級化粧品ブランド「ランコム」がPRENOを導入

 PRENOには縦型のサイネージが付いているので、広告を流せる。例えば、ランコムのイベントではLINEのアカウント登録を促進させるため、スマホのQRコードをかざすとサンプルがもらえるキャンペーンを行ったという。

 創業して1年も経たずに、ここまでの結果を出せたのは、超高速でPDCAを回しているからだという。

「自動販売機で商品が出てくる落下テストがあるが、日本の製品だと99.99%とほぼ完璧。我々は9割にも満たない段階で出した。そこを妥協すれば、海外製品の組み合わせで製造が実現できるから。実際、これまで落ちてこなかったのは数回で、そのぶんPDCAを高速で回した。すでに自動販売機のUIは10回くらい変えている」(肥沼氏)

 この高速PDCAが可能なのは、肥沼氏が中心となって事業を進め、必要なところにスキルを持ったプロフェッショナル人材に協力してもらうという業務体制を構築しているためだ。

「僕はビジネススピードを重視している。人の育成には時間がかかるので、チームを作る必要性はあまり感じていない。1on1とかやってる暇がない。足を使う営業も不要。ホームページのフォームから来る問い合わせに対してだけでビジネスをしている」(肥沼氏)

 一流のプロに5分でも10分でも手伝ってもらうだけの方が効率的なことも多いという。コロナ禍で副業が当たり前になってきており、そのような人材を確保するハードルも低くなっているのだ。

 もう一つの追い風としては、大型商業施設が増えてきていることも挙げられる。現在、2万2000施設くらいあり、仮に10台ずつでも置けたら、20万台のポテンシャルがあるというわけだ。

 最後に、今後の展望について伺った。

「今後は、BtoCのブランドとご一緒させていただいて、アクセサリーやTシャツを売る自販機も作る。コロナ禍で花が廃棄されるというロスフラワーという課題が出てきたので、花を扱う自動販売機も作りたいと考えている。今の時代だからこそ、このようなビジネスを立ち上げる意義があると思っている」と肥沼氏は締めてくれた。

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