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日本人ノーベル賞受賞から見える日本の科学と世界経済の接点

世界中の製薬企業までも巻き込んでしまった免疫チェックポイント阻害剤のインパクトと、日本での評価のズレを考える

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アスキーエキスパート

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嘆くべきはアカデミア研究成果の受け皿を持たない環境にある

 筆者がこれまでに小欄で書いてきた(「Biotechに見るシリコンバレーモデル 米国で生まれる新潮流」)ように、米国ではアカデミア発の研究成果を実用化するためにスタートアップという枠組みを使い、インキュベーション施設やアクセラレーションプログラムを通じて安価にかつ多数のプロジェクトを走らせる仕組みが構築されている。

 オプジーポのケースを見ても、本庶氏の技術はいきなり大企業が提携していないことがわかる。これは仮定でしかないが、もし2000年台前半に京都大学周辺にスタートアップ企業を簡単に創業でき、そこで活躍する経営者と優秀な人材がいれば、ひょっとすると京都大学周辺と国内製薬企業だけで免疫チェックポイント阻害剤の開発が行われていたかもしれない。

 嘆くべきは最終製品を得る営業組織としての製薬企業の目利き力ではなく、アカデミアの研究成果の受け皿を持たない日本の環境なのではないだろうか。

 たとえばノーベル賞が話題になる半年ほど前の4月2日、「国立大VC、資金使い切れず 達成率26%にとどまる」(日経新聞電子版)と題した記事が掲載され、いわゆる官民イノベーションファンド(東北、東京、京都、大阪の4大学に設置された、国費を投入してベンチャーキャピタルを運営する事業)の非効率性に疑問が呈された。

 大学発ベンチャーは半数程度がライフサイエンス関連であり、創薬関連事業が占める割合は大きい。現在の抗がん剤を始めとする新薬の開発には統計によっては約2800億円という巨費が必要となることがわかっている。

 オプジーポを国内企業だけで開発しようとすると、シリーズAやBの初期投資だけでも1社あたり10億円程度になるが、イグジット(株式上場や大手企業による買収を経て、投資を現金化して回収すること)までにはさらに数倍の投資資金が残っていなければ、追加投資ができない。

 「そこから先は民間資本で……」というロジックかもしれないが、民間企業も当初から投資している官民ファンドのデューデリジェンスに乗るからこそ確実な投資ができると期待しているし、逆に官民ファンドが見放した(ような形になる)スタートアップへの投資は、通常のベンチャー投資のスキームではリスクが大きいととらえられている。

 大きく成功するにはそれなりの投資が必要なのだが、国を挙げての政策にもかかわらず、しかも日本最大の経済紙がこの程度の理解であるということは、日本でバイオ系のベンチャー企業のエコシステムが育ちにくい遠因になっている可能性もあるのではないだろうか。

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