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北海道を最先端Techで開拓する「No Maps 2018」レポート第16回

No Mapsセッション「ブロックチェーンの未来を語る」

この先のブロックチェーンで変わる、人の意識、社会、価値観

2018年10月23日 07時00分更新

文● 松下典子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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 仮想通貨の投機的側面で注目を集めてきたが、社会生活での導入・活用も始まってきているブロックチェーン技術は、どのような未来が見えるのか。

 多数のカンファレンスが開催されたNo Maps 2018。10月10日のセッション「ブロックチェーンの未来を語る」では、ブロックチェーンを活用したイノベーティブな取り組みを進めるLINE、Scalar、モバイルファクトリーの3社をゲストに迎え、今後のブロックチェーン活用動向についてトークセッションが行なわれた。

 ゲストには、LINE株式会社 Developer Relationsチーム マネージャー/プラットフォームエバンジェリストの砂金信一郎氏、株式会社Scalar COO/CBOの深津 航氏、株式会社モバイルファクトリー モバイルサービス事業部 Uniqysチーム プロダクトマネージャーの髙橋秀彰氏の3名が登壇。モデレーターは、株式会社INDETAIL代表取締役の坪井大輔氏が務めた。

 セッションの前半は、LINEの砂金氏、Scalarの深津氏、モバイルファクトリーの高橋氏より、各社が現在取り組んでいる「LINEのトークンエコノミー戦略」、「契約管理を自動化するScalar DB」、「Uniqys Project」について紹介された。

コンテンツの消費者から創り出す側へ―LINKの流通がユーザーに意識改革をおこす

 ブロックチェーンや仮想通貨は、一般の人にとってわかりづらい。そこでLINEは、誰もが日常生活のなかで仮想通貨を利用できるように、独自のトークンエコノミー「LINK」を開発し、流通しやすい仕掛けをつくっている。

 具体的には、LINKを中心として、さまざまな分散アプリケーション(dApps)がつながり、サービスの利用にトークンを支払ったり、レビューなどの報酬としてトークンがもらえたりする仕組みだ。すでにリリースされているdAppsには、Q&Aサービスの「Wizball」、未来予測「4CAST」、商品レビュー「Pasha」、グルメレビュー「tapas」などがあり、今後さらに増やしていく予定だという。

 「dAppsでの活動でトークンが循環することで、ユーザーはコンテンツを消費するだけでなく、創り出す側にもなれる、という新しい意識改革が生まれるのではないか」と砂金氏。

 貯めたLINKトークンは、今のところ日本国内では換金できないが、LINEポイントに交換できる。10月16日にはLINEの仮想通貨取引所BITBOXにLINKが上場予定で、グローバルでは、現金への換金が可能になるとのこと。

 次の展開として、LINKを使った分散アプリケーション開発環境を公開し、エコシステムを構築していく計画だそう。

ブロックチェーンテクノロジーを応用したデータベースで取引の契約管理を自動化

 Scalarが取り組むのは、ブロックチェーンを活用した契約管理の自動化プラットフォームの構築だ。ネット取引によってタクシー業界など、さまざまなシェアリングサービスが生まれているが、競争で生き残るには、契約の手間やコストを減らすことが重要になる。たとえば、旅行会社のオンライン契約では、航空券、ホテル、保険など、複数の契約が発生するため、手続きに時間がかかる。

 Scalarは、こうしたサービス事業者に対して、ブロックチェーン技術を応用したデータベースを構築し、取引契約を自動・高速化するプラットフォームを提供している。このScalar DBは、10月10日より、オープンソースとして公開しているとのこと(詳細はこちら)。

dAppsの開発キットとモバイル向けブラウザーアプリを提供

 モバイルファクトリーが進めるUniqys Projectとは、分散型アプリケーション(dApps)を普及するための活動だ。開発者には、簡単にdAppsがつくれるサポートツール「Uniqys Kit」、ユーザーにはDAppsに対応したウォレット機能付きのブラウザーアプリ「Qurage」をそれぞれ提供。Uniqys Kitの開発サンプルとして、ゲームアプリ「Crypt Sushi」のソースコードを公開している。

 続いて坪井氏からは、本セミナーの主催者であるBHIP(ブロックチェーン北海道イノベーションプログラム)の紹介と、その活動のひとつである「ブロックチェーンを活用した医薬品のデッドストック販売プラットフォーム」のPoCについても報告がなされた。

 BHIPは、北海道をブロックチェーン技術の集積地にするというビジョンのもとに設立された一般社団法人。現在、調剤薬局間がブロックチェーンを使って薬を売買するサービスの実証実験を行なっている。

 No Maps 2017で発表したフェーズ1では、ブロックチェーンを使ってネット上での売買をしていたが、フェーズ2では、調剤薬局間で、実際の物流を通して薬をやり取りする検証が行なわれた。成果として、ブロックチェーンは在庫の解消、調剤薬局のような中小零細企業をつなぐネットワークとして向いており、実用化に向けて検討できるレベルにある、と報告がなされた。

ビザンチン故障、マイニングコスト、処理速度…ブロックチェーンの可能性と限界

株式会社INDETAIL代表取締役の坪井大輔氏

 後半はパネルディスカッションの形式で、ブロックチェーンの未来について議論が行なわれた。最初のテーマは、「ブロックチェーンの可能性と限界」について。

砂金氏(以下、敬称略):「手段と目的を取り違えて、単に今あるものをブロックチェーンに置き換えて、コストダウンや効率化に使おうとすると失敗するだろう。ブロックチェーンの耐改ざん性など、新しい役に立つサービスを考えることが大事。無理にブロックチェーンを使うのではなく、裏側の仕掛けづくりとして柔軟に使うといい」

深津氏(以下、敬称略):「パブリックブロックチェーン(非中央集権型)で一番大きい課題は、ビザンチン故障の問題。経済的なインセンティブの合理性から損してまでやらないだろう、という判断のもとにつくられているのが今のパブリックブロックチェーンだ。しかし、お金をかければ51%攻撃(ブロックチェーンのマイニングにおける計算能力の過半数以上を悪意のある特定のグループが保持し、不正な取引が可能となる)ができないわけではない。プライベートまたはコンソーシアムなブロックチェーン(中央集権型)は、ノード数を固定することでビザンチン故障を防げるが、信用できるいくつかの事業体をおかなくてはならない。

 どちらを使うかは信用とシステムのトレードオフになる。たとえば日本の場合、個人の存在証明にはさまざまなコストがかかっているが、病院で本人確認をすれば、保険会社や銀行でも本人確認できるようにする仕組みなどには、コンソーシアムなブロックチェーンが使える。一方、通貨のように流通性が高いものはパブリックが適している」

高橋氏(以下、敬称略):「ゲームの場合、完全なパブリックでは、マイニングコストがかかり、敷居が高くなってしまう。プライベートブロックチェーンなら、同意アルゴリズムが無料で利用できる。初期の段階で多くのユーザーを集めるには、一部中央集権の形から始めたほうがいい」

坪井氏(以下、敬称略):「分散された権利、権限、資産の集権化や分権化による、新たなエコノミー、ネットワーク、システムの創造に使うのであれば、ブロックチェーンの可能性は広がる。しかし、集権、分権化とは関係のない、システム導入のためだけに使うには限界が生じるだろう」

 ここで砂金氏は、一般的にブロックチェーンのトランザクションの処理スピードを速くするには限界があると指摘。そこをScalar DBでは、どのように回避しているのか、深津氏に話題を振った。

深津:「ブロックチェーンの定義は、ブロックを連ねるチェーン。そのブロックに入れられるトランザクション数と生成回数に限界がある。そこで分散系のDB技術でトランザクションをチェーンさせ、複数のノードに同時に書き込むことで、完全にマスターのいないDBをつくることで高速化を図っている。目的によって、いろいろなアプローチはあるだろう」

砂金:「LINEも自前の技術でトークンエコノミーをつくってはいるが、契約部分ではScalarに出資している。当面は乗り越えられるが、将来はわからない。サービスの提供者は適切なタイミングで、そのとき旬な技術を使えるような目利き力を養ってほしい」

ブロックチェーン、dAppsによって新たな価値がうまれる

LINE株式会社 Developer Relationsチーム マネージャー/プラットフォームエバンジェリストの砂金信一郎氏

 続いてのテーマは、「ブロックチェーンが創り出す新たな時代とは」。

坪井:「dApps(decentralized Applications:分散型アプリケーション)の定義は、1.DAO(自立分散型組織)と2.仮想通貨/トークンによる経済圏が成立していることが条件とされている。ややこしいのは、この定義が時代と紐づいており、今の時代にはなじみにくい発想だということ。これまでの社会は人間がコントロールするものだったが、将来はDAOが人間をコントロールするようになるのではないか。これに対して、どう向きあえばいいのか」

高橋:「現時点では、(ブロックチェーンが)利用されるまでのハードルが高い。ユーザー目線では、仮想通貨による投機のイメージが強く、自分たちが参加して動かしていくものと捉えていない。LINEのように気軽に使える仕組みがどんどんでてくれば一般化していくのでは」

株式会社モバイルファクトリー モバイルサービス事業部 Uniqysチーム プロダクトマネージャーの髙橋秀彰氏

砂金:「LINEが提供している未来予測アプリ『4CAST』では、お題をユーザーが出し合い、自律分散でコミュニケーションが生まれる。これもDAOのひとつの形。Q&Aサイトは、『Yahoo! 知恵袋』や『OKWAVE』があるのに、なぜいまさらLINEがWizballで参入するのか? と言われる。しかし今までのサービスでは、情報を提供してもらっても手軽に対価を払うことができず、多くのユーザーにとってインターネットは受け身で利用するものだった。みんなが情報の作り手側にまわり、助け合う社会をネット上に形成すれば、人の意識変化が起こせるかもしれない。大失敗するかもしれないが、リスクをとってやるだけの価値はあるのではないか。

 特に注視しているのは、GAFAではなくアリババやテンセント。中国は徹底的に中央集権で最適化され、信用経済をつくってきた。日本では僕らがチャレンジしている真っ最中だ。信用の積み重ねがリアルマネーの価値になる、という状況になれば、世の中にインパクトのあるサービスを生み出せたといえる。生活、働き方、情報との向き合い方を変えるチャンスが目の前にある。そのために僕らが何をできるのか、必死にもがいているのが現状。そういうサービスをもっとつくっていくといい」

坪井:「LINEは、中央集権と分散型の両方を利用していて、非中央集権の部分はブロックチェーンで実現させつつ、ユーザーがdAppsアプリを利用することで中央に情報が貯まる。LINEはこれをAIに活用したいのでは」

砂金:「勝ち残るには、AIの学習に使う許可付きのデータをどれだけ集められるかにかかっている。AIの学習データをうまく集めるためのエコシステムとしてもブロックチェーンは活用できる」

深津:「もう1つ違う観点で話をすると、マイクロブラッドサイエンスという採血デバイスを作っている会社が、血液を提供するとコインがもらえるサービスを始めようとしている。これは、新しい検査薬をつくるために血液を売買するマーケットがあり、製薬会社から得たお金をベースにコインを渡す仕組みからのもの。これもひとつのdApps。世界中に広がれば、認知症など新しい検査薬が生まれる可能性につながる。

 また、情報は集まると価値が生まれる傾向があり、分散すると情報の価値が下がってしまう。ブロックチェーンでは分散させつつも、データをどう集めるかがひとつのテーマでもある。我々のデータベースでも、分散させつつも情報を集約する仕組みを考えている」

砂金:「何を出せば当たるか、まだ誰もわかっていないのが楽しい。スタートアップのみなさんが、ちょっとしたアイデアで考え出したビジネスモデルが、大きな成功につながるチャンスがある」

ブロックチェーンで情報閲覧は価値になる?

株式会社Scalar COO/CBOの深津 航氏

 最後のテーマは「DAO時代におけるネットビジネスの変化は?」。ブロックチェーンにより、情報へのアクセス自体に価値が生まれ、その価値が定量化されて、評価できるようになるとどうなるか。現在は、情報=無料のビジネスモデルが主流だが、換金されるようになることで、新たな時代がくる可能性はあるのだろうか。

砂金:「閲覧することでトークンなどを稼ぎ、違うものを見るときに使えるもの。現金をチャージして、引き出すようなイメージのものにはならないだろう。稼ぐことと支払うことの境目がなくなり、有料のコンテンツを有料で買い、そのコンテンツを利用することが稼ぐチャンスにもなる、そういうコンテンツが生まれてくるのでは」

深津:「異時点間取引が1つのヒント。いま欲しいものがあるが、将来価値が変わるかもしれない。あるいは、現時点では価値が付けられず、将来価値が決まるものもある。トークンエコノミーになると、コインの価値は買い手がつくとわかる。みんなが出した情報に価値が生まれれば、みんな同じようにリターンを得られる社会になるのではないか」

高橋:「たとえばゲームでは、プレイヤーが育てたキャラクターの販売や、コミュニティーの貢献によってトークンを獲得する、といったエコシステムができるのではないか」

 ブロックチェーンは、未来の社会や価値に大きな変革をもたらす可能性を秘めているが、今はまだこれから浸透させる段階に入ったばかり。多くのスタートアップから、ブロックチェーンを活用した斬新なビジネスが生まれることに期待したい。

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