ビデオカード事業に進出
SCSIやLANなどあらゆるパーツにチップを供給
チップセットに続き同社が手がけたのがビデオカードである。今でこそビデオカードはワンチップで構成されているが、IBMのEGAカードはこんな感じであった。
画像の出典は、“IBM 51xx PC Family Computers”
これもチップセット同様に複数のチップをまとめることで、大幅に低コスト化や省サイズ化が期待できる。1987年に出荷されたEGA CHIPSetはこの膨大な数のEGA用の部品を4チップに集約し、これも好評を得る。
IBMがPS/2向けにVGAをリリースすると、すぐにVGA互換のチップセット(これはI/FはMCA)を作り、さらにXT/ATバス上でVGAを利用できる互換チップとして82C411をリリースする。さらにこれを拡張したSuperVGAチップとして82C451をリリース、これはベストセラーとなる。
実際初期のPC市場では、この82C451がある種の標準になっており、例えばWindows 3.0のGDIエンジンの内部では、Cirrus Logic GD542xとS3 911、それにこの82C451用向けに専用のBitMap操作用アクセラレーターが標準で搭載されていた。
このあたりは連載137回でも触れたが、ATIの最初期の製品であるVIP VGAは、82C441のOEM供給を受けて名前だけ変えたものである。
他にもStarLANと呼ばれる、ツイストペアケーブルを利用したEthernet(*1)のチップセットを1986年に出荷したり、SCSIコントローラーや3270通信コントローラー、IDE/SCSIのディスクコントローラーと、初期にはPCに関わるものすべてに製品を出していた感がある。
(*1):IEEE 802.3eに準拠し、1BASE-5などとも呼ばれる。1Mbpsで最大500mまでの配線が可能だった。
さらには自社内でLSIを設計するためのCAE(Computer Aided Engineering)システムを開発し、これを利用してのICの設計サービスなども始めている。
これは今で言えばデザインハウスに相当するもので、顧客の要望を聞いたうえで、それにあわせてLSIの論理設計と物理設計を行ない、外部のファブで製造して納品するというものだ。
半導体業界はちょうどこの頃からいわゆるファウンダリービジネスが成長を始めており、これにあわせて、例えばパッケージだけを行なうベンダーや、テストのみを請け負うベンダーなど、LSI製造に必要なさまざまなサービスが立ち上がっていたため、C&TはLSI製造に関わるすべてを自社で抱え込まずに、設計のみに特化する形でビジネス行なうことが可能になった。
ライバルの出現で
売上に陰りが見え始める
こうしたさまざまなビジネスを一挙に展開したことで、同社のビジネスは1980年代に急速に伸びたが、1990年に入ると環境は次第に厳しくなってきた。理由は簡単で競合の出現である。
1987年には台湾のVIA TechnologyやSiS(Silicon Integrated Systems)が創業し、それぞれPC向けチップセットビジネスに乗り出す(製品が出てくるのは1990年代前半の遅い時期である)。
米国でもOPTiやAMi(American Megatrend Inc.)、ETEQ Microsystemsなどがやはりチップセットを自身で製造し始めていた(AMiは自社製品向けのみで外販はほとんどなかったようだが)。
もっと厳しいのがビデオカード向けであり、例えば1990年にはS3 86C911が出荷されている。これに先立ち1987年にはCirrus Logicも製品を投入している。あとは細かいところでOAK TechnologiesやTrident Microsystemsなども安価な製品を投入し始めていた。
競争が激化すると、しばしば価格競争に陥るというのはよくある話である。C&Tの1986~1992年の売上と営業利益を見てみよう。
| C&Tの売上と営業利益 | |||
|---|---|---|---|
| 年号 | 売上 | 営業利益 | |
| 1986年 | 6750万ドル | 150万ドル | |
| 1987年 | 8020万ドル | 1290万ドル | |
| 1988年 | 1億4150万ドル | 2210万ドル | |
| 1989年 | 2億1760万ドル | 3300万ドル | |
| 1990年 | 2億9340万ドル | 2930万ドル | |
| 1991年 | 2億2510万ドル | -960万ドル | |
| 1992年 | 1億4110万ドル | ? | |
1992年の営業損益は数字不明なのだが、1991年における粗利は36.7%の8250万ドルだったのに対し、1992年には12%の1700万ドル、という数字があるので、おそらく相当赤字だったと思われる。

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