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「SAISON Technology Days 2025」で語られた“ERP移行の現実解”

そのERP移行の悩み、国産SaaSで解決できる? トップベンダー5社が推す「オフロード」という選択肢

2025年11月26日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

提供: セゾンテクノロジー

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 「SAP ERP 6.0」の標準保守の終了が2027年末に迫る中、企業のERP移行には依然として多くの課題が残されている。それに対して国産ベンダーらが提示するのが、iPaaSを中核にアドオンや周辺機能をSaaSでまかなう「オフロード」という選択肢だ。

 2025年8月、セゾンテクノロジーとウイングアーク1st、エイトレッド、サイボウズ、クレスコ・イー・ソリューションの5社は、SAPユーザーのERPモダン化支援に向けた協業を発表。セゾンテクノロジーのiPaaS「HULFT Square」を共通連携基盤として、SAPユーザーのERPモダン化を支援する(参考記事:SAP「2027年問題」に向け国産ソフトベンダーがタッグ iPaaSを中核に周辺機能をオフロード)。

 セゾンテクノロジーの年次イベント「SAISON Technology Days 2025」では、上記の国産ベンダー5社が集結。セゾンテクノロジーはiPaaS、ウイングアーク1stはデータ活用基盤、エイトレッドはワークフロー製品、サイボウズはノーコードツール、クレスコ・イー・ソリューションはERP移行支援と、各社それぞれのソリューションを手掛ける視点から、ERP移行の現実解やその後の未来について語り合った。

モデレーターを務めたのは、TECH.ASCII.jp編集長の大谷イビサだ

ERP移行における「アドオン」「周辺業務」をどうするか問題

TECH.ASCII.jp 大谷イビサ(以下、大谷):まずは「ERP移行の現状」を深掘りしていきたいです。

クレスコ・イー・ソリューション 横尾悌豪氏(以下、クレスコ 横尾氏):SAPユーザーに対するアンケートをみると、ERP移行に際して3つの懸念を抱えていることがわかっています。第一に「コスト」、第二に「アドオン」、そして、第三に「(新ERPの)メリット」です。

 ERP移行は想定以上にお金がかかります。その裏返しとして、「コストに見合うメリットが新ERPにあるのか」を、SAPユーザーは議論してきました。ただ、古いERPではAI活用が推進できないのがみえてきています。

 その結果、現場には「アドオンをどうするか」という課題が残っているのが現状です。「Fit to Standard」で標準機能を使おうという動きもある一方で、現場の効率化や固有要件のために作られたアドオンは、完全になくせないのが悩みになっています。

クレスコ・イー・ソリューション ビジネスコンサルティング事業部 ビジネスソリューション部 グループマネージャー 横尾悌豪氏

エイトレッド 青木健一氏(以下、エイトレッド 青木氏):ワークフローの観点では、「日本の独自文化」にどう対応するかという課題が存在します。例えば、ある商品において、製品開発部と営業部の双方での決裁が求められる場合、ローカライズされた海外製ERPでは対応できないです。

大谷:ERPとは独立して、ワークフローを動かす必要があるということですね。

エイトレッド 執行役員 マーケティング部長 青木健一氏

ウイングアーク1st 佐土原光氏(以下、ウイングアーク 佐土原氏):ERP移行にも、データのサイロ化問題が影響をおよぼします。ERPの歴史を振り返ると、1960年頃からメインフレームが利用され、1990年頃にSAPが上陸するとERP導入が進み、2010年には国産やクラウドのERPが選択肢に加わりました。

 メインフレームの初期に個別最適化が推進されましたが、その弊害として横断的なデータ利活用を阻むサイロ化が発生しました。そこから、ERPによる全体最適化が図られましたが、他システムとの機能のアンマッチなどで、結局は馴染んでいません。M&Aなどの組織的な変化やシャドーITなどもあって、結局はサイロ化をなくせていないのが現状です。

ウイングアーク1st BDE-SBU 事業戦略本部 DE事業戦略部 佐土原光氏

サイボウズ 百目鬼唯子氏(以下、サイボウズ 百目鬼氏):ERPは堅牢性が必要な基幹業務のために設計されたシステムです。一方で、実際の業務体系は、周辺業務も含めて構成されています。Fit to Standardの考え方では、こうした周辺業務が置き去りにされる可能性があります。これまでExcelやメールで回していた周辺業務を、我々のノーコードツールで何とかしたいという相談も多くなっています。

サイボウズ エンタープライズプロモーション部 百目鬼唯子氏

セゾンテクノロジー 松ヶ谷圭佑氏(以下、セゾンテクノロジー 松ヶ谷氏):iPaaSを提供する我々には、ERP移行におけるアドオンや周辺業務の悩みから、システムをつなげられないかという相談を受けることが多いです。「HULFT Square」では、接続先に応じて複数のつなぎ方を用意していますが、個々のシステムをつなぐのではなく、iPaaSをハブに様々なシステムをつなぐという手法が主流になっています。

セゾンテクノロジー データインテグレーション コンサルティング副部長 松ヶ谷圭佑氏

日本固有の商習慣・処理にも対応できる「国産SaaS」の選択肢

大谷:続いては、こうしたERP移行の悩みを「国産SaaSで解決できるか」です。現実的な手ごたえとしてどうでしょうか。

クレスコ 横尾氏:未来の話ではなく、今現在、国産SaaSで解消できるという状態です。わかりやすいのは、エイトレッドさんが手掛けるワークフローの領域。既に各社、ワークフローのシステムを利用しているか、自前で仕組みを構築しており、それを使い続けるか、SaaSにするかを選択することになります。しかも、既存システムもSaaSに対応する流れも生まれていますし、最近はAPIに代表される共通プロトコルでSaaSをつなぐ土壌が整っているのも大きいです。

エイトレッド 青木氏:まさに、ワークフローシステムはFit to Standardに合わないので、ERPから切り出す案件が多いです。加えて、3つ、4つあるワークフローシステムを統合する動きも増えてきています。勤怠は勤怠システムで承認、受注はERPで承認するといった手間をSaaSに統合することで解決するイメージです。

大谷:現場にとってもですが、管理する情シスにとってもメリットは大きいですね。

ウイングアーク 佐土原氏:データのサイロ化の悩みも、国産SaaSで解消できると思っています。サイロ化はなくせないので、その被害を最小限に抑えるのがポイントです。我々は、2つのステップを用意していて、まずは基幹システムや手元で保持するExcelやCSVを、データ分析基盤の「Dr.Sum」に統合します。情シスはERP移行における影響範囲が明確となり、現場側もDr.Sumを経由してこれまでと同じインターフェイスを継続できます。

 次のステップは、BIツールの「MotionBoard」で、Dr.Sumに統合したデータを現場で利活用することです。直感的で使いやすく、現場からデータ入力してシステム側に書き戻すといった業務アプリのような使い方もできます。

ウイングアーク1stが用意するERPのデータ活用におけるステップ

サイボウズ 百目鬼氏:アドオンの悩みは、日本の業務にフィットしたアプリケーションを現場が作れるノーコードツールでも解消できます。加えて、我々のkintoneはコミュニケーション基盤でもあるため、様々なデータを扱いつつ、日々の業務も回せます。自社環境の一部を切り出して、外部とやり取りすることもできますので、日本の商習慣的に必須となる取引先との連携もひとつの情報基盤で管理可能です。

セゾンテクノロジー 松ヶ谷氏:アドオンや周辺業務を切り出して、SaaSにオフロードする場合、2つのポイントがあります。ひとつは、各機能を再配置する際に、ERPに残すかSaaSに分散するかというバランスのとり方です。考慮事項には、商習慣に加えて、半角・全角かなの変換や和暦など日本固有の処理への対応もあり、その際の国産SaaSとの中間ソリューションとしてiPaaSが利用できます。

 もうひとつは、運用面になります。よく相談を受けるのがサポート周りで、海外SaaSでは問い合わせも大変です。国産SaaSで固めることで、業務ユーザーでも直接サポートを享受できます。

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