苦労したのはグレーな部分 話がわかるクラウドサービス:Gozal
起業家・全士業支援バックオフィスに求められたのは地味な物作り作業
スタートアップや中小企業の経営者が、苦手で場当たり的に対処しているバックオフィス業務。社長が一人何役も兼任しなければならなかった負担もあり、その業務をクラウドを使って支援するサービスが近年増えている。サイバーエージェントのビジネスプランコンテストで優勝した高谷元悠氏が立ち上げた『Gozal』(ゴザル)もその1つだ。
2013年、サイバーエージェントが主催するアントレプレナーイノベーションキャンプで、士業に特化したクラウドソーシングサービス・Gozalが優勝を獲得。同時に、資金調達も実現し、高谷氏は2014年1月に株式会社BECを設立した。
当時若干22歳で、会計士でありながら、ビジネスプランコンテスト優勝翌日に退職届を出して起業した異色のルートを進む高谷氏に話を伺った。
「会計士の力を持った経営者が最強」だと思った中学生
「Gozal」はスタートアップや中小企業のバックオフィスを自動化・半自動化することで本業に集中できるようにしてくれるサービス。まずは、Gozalが生まれるまでの経緯を聞いてみた。代表の高谷氏は、大手監査法人で働いていた2013年に、サイバーエージェントが主催されていたビジネスプランコンテストでGozalを発表。見事優勝し、出資を獲得した。監査法人での経験は経営に生きそうだが、せっかく手に入れた会計士の立場を捨てて起業する人はいるのかと聞いたところ、まったく違うとの返答がきた。
「監査法人から起業する人はほとんどいない。会計士はそもそも保守的で、手に職を付けて安定を得たいという人が多い。CFOでベンチャーに入る人はいても、起業家はとても少ない」(高谷氏)
確かにそう言われればそうかもしれない。だとすると、なぜお堅い会計士から高谷氏はビジネスプランコンテストへのチャレンジ、さらには起業という道を選んだのか。
「もともと小学校の頃から起業したいという希望があって、漠然と経営者に憧れていた。中学生の時にOBが自分の職業を説明しに来てくれるというイベントがあり、会計士が来て『私は企業のお医者さんだ』と言っていた。それまでは経営者こそが企業でトップという印象だったが、そのトップに対してアドバイスしている存在がいるんだと。そこから、『会計士の力を持った経営者が最強なのでは』と思ったことが、そもそも会計士を目指したバックグラウンドにある」(高谷氏)
起業すること自体は小学生の頃から親に言っていた。中学生の時には、会計士経由の経営者というプランまでできているとは恐れ入る。とは言え、さすがにこの時代にビジネスプランがあるはずもない。「じつは結構安易」(高谷氏)だと謙遜するが、小さい頃からの計画通り、起業に向けて動いていた。
高谷氏がGozalを立ち上げようと思ったのは、大学卒業後の大手監査法人で働いていたときだ。その頃、六本木1丁目近くの起業志望者が集まるシェアハウスに住んでいたという。「周囲には、起業している人や起業準備をしている人が10人くらい生活しており、若い起業家が多かった。だが、法務・労務・税務などの、いわゆるバックオフィスでの知識を持っていないし、専門家とのつながりもない。簡単に悩みを解決するサービスもまだなかったので、専門家である自分がそういうモノを作ろうと考えたのがきっかけ」
売上高が大きくなったときに、消費税をどうするとか、どこに届け出をするとか、その時になって場当たり的に調べ始める経営者は多い。会計士などの専門家にとっては当たり前のことも、起業家にとっては本業とは関係ない煩雑なタスクになる。たとえ専門家と顧問契約をしていても、リアルタイムに全ての情報を渡しているわけではないので、手続きが漏れることはよくある話だ。そんな時、クラウドサービスが網羅的に支援してくれれば、これほど助かる話はない。
「ビジネスプランコンテストで優勝した翌日に、退職届を出した。当時、大手監査法人に入社して11ヶ月目。リクルーティング担当の重役に呼ばれて、なぜなのかと聞かれた。そもそも、起業して辞めるという社員が初めてだった。最終的には理解してもらい、現在は応援もしてもらっている。うちが上場準備をする際は、依頼する予定」だと高谷氏。
その後、準備を進めて翌年の2014年8月にサービスを開始する。当初は、クラウドソーシング機能のみのリリース。人=専門家が担当する部分とコンピュータで自動化する部分は分けて開発するつもりで、まずは手を付けやすい人の部分から手がけていった。そして2016年2月、ようやく本命となる自動化部分を搭載した「Gozal会社設立」サービスを実現した。
”人”か”自動”かをしっかり区切ることが重要
続いて、実際にGozalの画面を操作しながら、サービスの使い勝手や機能を確認してみよう。画面はブルーをアクセントにしたシンプルなデザインで、選択肢がカードのように表示されているのでわかりやすい。最初に表示されている「会社に関するタスク」を開くと、「会社を設立」や「設立時の税務関係の届け出」などが並んでいる。
「会社を設立」を選んでみると、「手順にそって自分で進める」に加えて、クラウドサービスなのに「専門家に丸投げする」という選択肢があることに笑ってしまった。しかし、実はここがGozalの大きなメリットでもある。多数の専門家と提携しているので、ユーザーがお金をかけてでもきちんとしたい部分にきっちり応えてくれるのだ。
「我々が注力しているのは、人がやるべきなのか自動でやるべきなのかをしっかり区切ること。自動でやるべきところは自動化ツールを作りこみ、人に任せるべきところはクラウドで専門家にアウトソーシングできるという、その二つが介在するサービスを目指している」と高谷氏。
試しに自分で会社を作ってみることにした。会社情報入力を選ぶと、必要な情報をヒアリングしてくる。指示に従って、会社名や住所、事業目的などを入力していく。進めていくと会社印の注文ができるのもユニークだ。単に、会社の実印や銀行印を作成しましょう、だけでなくメーカーと提携し、直接購入することもできる。
続いては、「資本金の払い込み」手続きだ。ここは起業家が行うしかないのだが、振り込みや通帳コピーの注意点などを教えてくれる。払込証明書もダウンロードできるので手間もかからない。続く「電子定款の作成」は専門家とチャットをしながら行い、1万5000円で済む。通常は8万円ほどする行程なので助かるところだ。
「司法書士のタスクは、時間をかけてヒアリングして、状況に合わせて対応する。Gozalでは専門家がやらなければならないタスクの6~7割をシステムでやっているので、その分コストが下げられる。これは、司法書士や行政書士がうちの社員として活動してくれているので実現できているところ」
専門家の思考プロセスをテキストにして、それをGozalのシステムに学習させているという仕組みになっている。前出の会社設立だけでなく、税務署や社会保険の届け出、従業員雇用手続き、利用規約の作成、といったいろいろなタスクを学習させているという。
「たとえば企業がよく使う利用規約の作成もオンラインでできる。サービスの情報を入力すると、そのカテゴリーに合う利用規約はこんな形では、というのを生成する。これは弁護士と共同開発した。法律や契約書は体系的なので、とてもプログラムと相性がいい」