「これやばいやつだ」「ビームライフルだろこれ」「どう見ても武器。スプラトゥーンに出てくる」「やべえ掃除してえ」
箱から出した途端、編集部の男子たちが大騒ぎになった。
パナソニックが5月30日に発表したスティック掃除機「MC-BU500J」、シリーズ名「iT」(イット)だ。想定価格は8万6400円前後、6月20日発売予定。
構えるだけで中学2年生になれる。なんというアイテムか!
※掃除機です。人や生き物には向けないでください
ひねると狭い隙間にも入る
新開発の小型モーターを採用し、本体サイズは幅7.2cmとコンパクト。収納の場所をとらない。おなじく新開発の「くるっとパワーノズル」を搭載する。
くるっとパワーノズルはふだん普通の「T字型」だが、ひねるとノズルが立ちあがって「I字型」になり、隙間を掃除しやすくなる。ノズルの先端はガバッとひらいて壁際のゴミも吸いこめるようになり、吸引力も前のモデルより上がっている。
I字型にすると洗面所の脇、棚と棚の間といった場所が掃除しやすくなる。本当に、かなり狭い隙間にも入る。
ハンディクリーナーとして使うときは手元がセパレート。付属のすき間用ノズル、ペタすき間用ノズルにつけかえることで棚やテーブルの上が掃除できる。
収納時は壁に立てかけておける。カッコいい。ハンドルの裏側に立てかけるためのすべりどめがついていて便利。壁に穴を開ける形だが、壁にひっかける収納部品もついてくる。取り換えノズルも収納可能だ。
編集部の中学2年生は「ライフルみたいにさ、横に寝かせた状態で壁にひっかけておきたいよな!」と言っていた。中学2年生の言うことなので許してほしい。
最長運転時間は、ゴミの量に応じてパワーを制御する「自動モード」で約30分。充電時間は約3時間。集じん方式はサイクロン式、集じん容積は0.2リットル。カラーはシルバーブラック、ブロンズブラウン、レッドブラック。
コンセプトは「職人の道具」
性能はまず、集じん力が合格点。とくに強いのはカーペットについたペットの毛など。ローラー方式のちがいなのだが、ふわふわしたソフトなローラーを使っている他社製品では吸えないようなゴミがしっかり吸える。
もっとも感動的なのはやはり隙間掃除だ。ソファの下のように覗きこみづらい場所では、ゴミの有無を検知する「ハウスダスト発見センサー」が役立つ。きれいになったかどうか手元のライトでわかるしくみだ。
難点としては、I字型にするときコツがいる。手首ごとひねるためやや姿勢が不自然になる。ジグザグ掃除の手ごたえが重い。ハンディクリーナーにしたときも約1.6kgでわりと重い(本体重量は約2.2kg)。ハンディクリーナーとして使うとき指先にボタンがないためオン・オフが押しづらいがここは慣れか。
細かいことをいろいろ書いたが、なによりデザインがウヘヘだ。
フロントパネルは1本の線のようにすっきりストレート。前モデルの未来的な流線形デザインとはガラッと印象を変えた。三菱電機のスティック掃除機「iNSTICK」に近い。握りやすく男前なハンドルは少年の心をくすぐってくる。
デザイン担当の山本侑樹さんによれば、コンセプトは「職人の道具」だ。
山本さんはもともとパナソニックで電動ドリルのような工具を担当した後、ドライヤーやスチーマーのようなビューティー製品の担当に移ったデザイナー。過剰な装飾を削ぎ落とす機能美の世界、精緻な加工で素材の質感を高める技巧美の世界。好対照なデザインの経験をつめこんだのが「iT」だったそうだ。
「見た目を美しくしつつ、使いやすさも大事にする。実際に使用する家電なので使いやすさを犠牲にしては良いデザインとは言えません」(山本さん)
こだわったのは道具としての美しさ。参考にしたのは“金づち”。金属製の円柱が木製の棒にささっているだけの機能美だ。よけいなアールをつけず、必要な要素をつなげていくことで全体を成立させたいと考えたという。
情報をそぎ、質感を高める
まずはパネル部分、よけいな情報をそぎ落とした。
運転ボタンは背面、LEDライトは脇、ノズルを取りはずすボタン(尾錠)は裏側にそれぞれ回し、Panasonicロゴは中央のモーター部分に入れた。
徹底的に形をシンプルにまとめた上、高級感を演出する加工を施した。パネルはヘアライン加工、モーター部分にはシボ加工を入れている。スティック掃除機でシボを入れるのは技術的に難しいために珍しいという。
「シボって金型が大変なんです。光沢面であればつるっと金型を抜けるんですが、シボを入れると表面がガリガリしているため、金型に3度くらい傾斜をつけないといけない。シボのために全体の角度が3度変わってしまうんです」(同)
使い勝手を左右するのがハンドル。苦労したのは骨格だった。
キャニスター掃除機を踏襲して作ってみたが、サイズが大きすぎた。グリップを1つにして、45度の角度でつけてみたが、「I」の字にねじったとき重心がずれて手元に重みがかかる。重心を改良してみたものの、今度はハンディクリーナーとして使いづらくなった。それならと思いきりハンドルを長くとって──
あれやこれやの試行錯誤をくりかえし、いまの骨格ができあがったそうだ。
形そのものも「道具型」「流線形」「ライフルスタイル」などさまざまなアイデアを経て現状の形に落ち着いた。ちなみにグリップ部分には、メンズ用のバリカンで使っていたテクスチャーピッチをすべり止めとして採用している。
「見えなくても握ったときにわかる感じ。主張しない道具感というものがあって初めて細やかにつくられていると感じるはず」(同)
iTは子供心をくすぐる魔法の道具
手にとりやすい道具なら、気づいたときに掃除ができる。ほうき、ふきんなどはもともとそうした気楽な道具だった。それが家電になったことで、いつしか便利さとひきかえに新しい面倒くささが生まれてしまっていた。
iTは家電にありがちな複雑さをそぎ落として生まれた現代の道具だ。そして子供心をくすぐる魔法の道具でもある。きっと性能を超えた満足度があるはずだ。とくに男子のみなさんにおすすめしたい。これはいいものだ。
盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、記者自由型。戦う人が好き。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中。
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