プロセスの基礎知識そのものはまだ山ほどあるのだが、前回までで最低限必要な要素は解説したので、今回から実際の半導体プロセスの説明に入っていく。

シリコンウェハー
半導体プロセスの基本
前回、デジタル半導体は基本的な組み合わせ回路のみで作りこめると説明した。では実際にデジタル半導体がどうやって製造されるか、というのが今回のテーマである。図1は前回も紹介したAND回路の構図である。これをシリコン上にどうやって構築するか解説していこう。

図1 AND回路の構図。作図の都合上、Tr4の向きを逆にしたが、動作そのものは変わらない
まず最初にシリコンウェハーの上に、トランジスタを構築する。図2はウェハーの上にトランジスタを構築した様子を示したもので、左側は上から、右側は横からこれを見たものと考えてほしい。

図2 ウェハーの上にトランジスタを構築した様子
ちなみに図2では断面図を綺麗に描いたが、実際は下の写真のような感じである。
さて、トランジスタができたら、次にそれをつなぐ必要がある。図1のケースでは、いくつか配線が交差している箇所があるので、これを平面配線にするのは非常に難しい。したがって配線は必然的に立体配線となる。
立体配線にも色々あるが、一般的なのは縦横方向の配線を重ねる方法である。まずトランジスタの端子部にVIA(貫通端子)を立て(図3の青い丸の部分)、次いでその上に配線(図3左側で水色の部分)を重ねる。空いている部分は絶縁体で埋める形だ。

図3 トランジスタ同士を配線でつなぐ。まずは横方向の配線(水色の横線)を行なう
これができたら、次に縦方向の配線を同じように行なう(図4)。これで配線が完了というわけだ。

図4 横方向の配線の上に縦方向の配線(緑色の縦線)を重ねる
実際には配線層が2層だけでは大規模回路では到底間に合わない。特にSoCなどでは、長距離の配線や内部バスも必要であって、局所的な配線のために2~4層、大きな配線にもやはり2~4層の配線を重ねることになる。
またここには入れていないが、実際には電源/GNDの配線にそれぞれ1層づつ、さらにクロック信号の分配に2層程度が必要になるため、最近のSoCは10層前後もの配線層が重なっている。ちなみに筆者が知ってる範囲で一番大きなものは13層にもおよぶ。
最近のものでは連載235回で示したインテル製SoCの断面写真(下の写真)を見てもらえればわかりやすい。この断面写真で一番下がトランジスタで、残りは全部配線層になる。
駆け足で解説してきたが、この最初の「トランジスタを構築する」だけで数十工程が必要である。まず最初にやることは、ベースとなるシリコンウェハーの製造だ。

この連載の記事
- 第721回 性能ではなく効率を上げる方向に舵を切ったTensilica AI Platform AIプロセッサーの昨今
- 第720回 Meteor Lakeには4次キャッシュが存在する インテル CPUロードマップ
- 第719回 EUV露光で堀った溝を削って広げる新技法Sculpta EUVによる露光プロセスの推移
- 第718回 引火性危険物で冷却しないといけない露光機 EUVによる露光プロセスの推移
- 第717回 要求にあわせて構成を変更できるSynopsysのARCシリーズ AIプロセッサーの昨今
- 第716回 Radeon Pro W7900/W7800が異様に安い価格で投入される理由 AMD GPUロードマップ
- 第715回 Emerald Rapidsは2023年第4四半期に量産開始 インテル CPUロードマップ
- 第714回 AMDのメディアアクセラレーター「Alveo MA35D」はナニがすごいのか?
- 第713回 Tenstorrentが日本支社を設立、自動運転の市場開拓が狙い AIプロセッサーの昨今
- 第712回 推論をわずか20mWで実行するエッジAIチップ「ERGO」 AIプロセッサーの昨今
- 第711回 Teslaの自動運転に欠かせない車載AI「FSD」 AIプロセッサーの昨今
- この連載の一覧へ