NFC(Near Field Communication)を使った決済が普及するには、インフラ整備が行なわれていることが前提となる。そして、インフラ整備から実際に一般に広く利用されるまでには長い期間を要する。前回まで紹介したフランスとリトアニアの場合、インフラは非常に限定的であり、ロケットスタートが望めなかった原因でもある。日本でもFeliCaを使った電子マネーインフラが一般化するまでに5~10年の月日がかかったと筆者は考えている。
だが今回紹介するポーランドは、ことNFC普及に関してはかなりのレアケースに該当するといえるかもしれない。比較的早い時期に「ライアビリティ・シフト」が実施されたことで、国全体でICチップ付きカードの「EMV」が普及した西欧諸国に比べ、インフラ投資が1~2テンポ遅れることとなった東欧地域では、逆にこれらを追い越す形でEMVとNFCがインフラとして整備されることになった。そして、人々がこれを急激に利用するようになり、欧州でもトップクラスのNFC普及地域として踊り出たのがポーランドだ。その実態を探るべく、2013年に首都ワルシャワと古都クラクフを訪れる機会を得たので、ここでレポートしてみたい。
なぜポーランドはNFC大国になったのか
世界のNFC事情を調査する者として、ポーランドはこの分野での取材をスタートしたかなり早期から興味を持っていた国だ。NFC対応への足踏みが続く欧州地域で、なぜかNFC利用トップの国として紹介されている資料を何度も見ていたからだ。写真のスライドは2013年4月にモナコで開催されたWIMA MONACO 2013でのVisaが公開したものだが、欧州各国でのNFC展開状況と“NFC対応”のカード発行枚数が記されている。
ポーランドの人口は4000万人弱程度なので、ドイツの約半分、英国とフランスの3分の2程度でしかない。欧州ではフランスをはじめ、デビットカードやクレジットカードにNFCによる決済機能が標準で付帯する国がいくつかあるのだが、人口でみれば負けているはずのフランスよりも多くのNFC対応カードが発行されている。英国の発行枚数が飛び抜けて多いのは、2012年のロンドン五輪に向けたインフラ整備で、五輪のスポンサーでもあるVisaが大量にカードを発行した影響が大きいと考えられる。
これだけでもポーランドの躍進はすごいのだが、さらに同国を際立たせているのはNFCを使った決済件数だ。カード発行枚数で3倍近い差があるにもかかわらず、決済件数では英国の倍だ。棒グラフで比較するとその差は圧倒的で、「これだけすごいのだから、ぜひ直に見てみたいものだ」となるのを理解してもらえるだろうか。
実際にワルシャワとクラクフの2都市を訪問してわかったのは、街の至るところでNFCに対応した決済端末に遭遇する機会が多いことだ。
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