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FeliCaが生き残るとは限らない 日本のモバイル決済が変わる日 ― 第7回

イタリア・ミラノで見た「NFC決済の実情とインフラ」

2016年09月21日 17時00分更新

文● 鈴木淳也(Twitter:@j17sf

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 前回、2012年に開催されたロンドン五輪でのNFC(Near Field Communication)ビフォーアフターを紹介したが、もう1つ、最近この手の特別開催イベントにおける事例を見てきたので紹介したい。2015年にイタリアのミラノで開催された「Expo 2015」は、いわゆる万国博覧会の1つにあたるが、今回会期中の8月にミラノに寄る機会を得て、筆者としては初めて万博を直接体験することができた。Expo 2015のテーマの1つは「食」で、いかにも食の王国イタリアらしい万博ではあったが、一方で「最新テクノロジーを駆使した万博」という側面も持っている。

ミラノのシンボルになっている大聖堂(ドゥオーモ)とヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガレリア
イタリアといえば食。ミラノ名物のカツレツとポルチーニ茸のタリアテッレ。店員のホスピタリティも含めての食であり、これだけのためにイタリアに訪れる価値があるほど
イタリアに来れば、日本でも普通に食べられるようなカルボナーラやジェラートでさえひと味違う。とにもかくにも、Expo 2015は食に始まり食に終わった印象だ

 実は2012年10月に同地で開催された「NFC & Mobile Money Summit」というGSMA主催のカンファレンスにおいて、このExpo 2015におけるミラノ市や周辺企業の最新の取り組みが紹介され、情報端末を駆使した市やイベントの案内情報のほか、NFC技術を使った決済や公共交通利用の仕組みの提供など、野心的な計画のアピールが行なわれていた。NFCに興味を持つ筆者としては当然ながら「ぜひとも3年後に再訪してExpo 2015を取材したい」と考え、同時期にドイツのベルリンにIFA取材に向かう2人の同業者を誘ってミラノ行脚を行なうことにした。果たして、この当初の計画はどこまで実現できていたのだろうか?

スマホ1つで買い物、乗り物、観光案内まですべてお任せ

 Expo 2015がロンドン五輪と似ているのは、この世界イベントを機に一気にインフラ整備を進め、さらに世界に向けて技術的先端性をアピールする場として考えていた点だ。NFC & Mobile Money Summit 2012において、Expo 2015の最高技術責任者(CTO)を務めるValerio Zingarelli氏が講演で語ったところによれば、Expo 2015は「高度に情報化されたExpo会場内」「会場外のミラノ周辺でのサービス体験」「バーチャルツアーやWeb経由でのサイバーExpo」の3段構えで来場者をもてなし、将来の国内外のインフラ整備の礎にしたいという意図があったようだ。

Expo 2015最高技術責任者(CTO)のValerio Zingarelli氏

 この時点ではExpo会場の準備はできていなかったので、主に「会場外のミラノ周辺でのサービス体験」が話の中心となるが、例えばNFC機能を搭載したスマートフォンに情報案内アプリを導入したり、あるいは決済が可能なカード情報やモバイルチケットをセキュアエレメント(SE)内に格納して、NFCを使ってスマートフォンのみでサービスを利用可能にするという。今日ある「モバイルウォレット(Mobile Wallet)」機能をイベントに組み合わせて一般提供してしまうというものだが、このサービス提供にあたってはTelecom Italia傘下の携帯キャリア「TIM」が専用SIMを用意し、これをNFC機能搭載スマートフォンに挿入することで上記サービスが一通り体験できるようになっている。同カンファレンス参加者全員にTIMの専用SIMを同梱したSamsungのGalaxy mini 2が配られ、筆者も実際にExpo 2015が提案するミラノのNFC体験をすることができた。

買い物から公共交通利用まで、NFCでの体験を拡充するのが狙い
サービスにあたってはTelecom Italia(TIM)が専用SIMを提供。GSMA主催のイベントというのもあるが、SIMカード至上主義が見え隠れするプレゼンテーションは2012年の世相をよく反映している
配布されたSamsungのGalaxy mini 2。貸し出し期間が短すぎたせいでほとんど体験できなかったのが残念だった

 端末貸し出し期間の関係で半日ほどしか触ることができなかったが、端末内には20ユーロ程度のクレジットと乗車券が含まれており、NFC決済可能な店舗をスマートフォン内に搭載されたアプリで参照しつつ、少しだけ市内をまわってみた。まず感じたのは「NFC決済できる場所が非常に限られている」ことで、やはり狙って対応店舗を事前に調べて移動しない限りは無駄足になってしまう。また公共交通については、ミラノ市内は乗車料金は一定になっており、1日券などを券売機で買わない限りは、街のタバコ屋や売店でバラ売りの紙のチケットを購入するのが一般的だ。NFCのモバイルチケットはこれを置き換えるもので、基本的には電車やバスの改札で端末を一度タッチするだけで通過できる。非常にシンプルな仕組みではあるが、治安の悪いミラノで浮浪者に囲まれながら券売機を操作したり、売店でいちいち財布を外に出す必要もないので便利だ。

Expo 2015を経てミラノはどう変わったか

 2012年から3年、Expo 2015取材で再びミラノの地に足を踏み入れることができた。パリで乗り換えたアリタリア航空の機材には「Expo 2015」のロゴがみられ、さらにミラノに到着すると空港から街中までExpo 2015一色といった印象で、非常に賑やかになっていた。8月の訪問だったので、会期終了まであと1ヶ月程度といった時期だったものの、人気パビリオンの1つだった「日本館」は早朝から4時間待ちの掲示が出るなど、イベントも当初の熱気を失っていなかったようだ。

ミラノへ向かう飛行機の搭乗口で見かけたExpo 2015ロゴ。街もExpo一色で期待が高まる
Expo 2015の日本館とイタリア館。ともに長蛇の列でなかなか中に入れない

 ただ実際にExpo 2015、そしてミラノの地に足を踏み入れて残念だと感じたのは、当初主催者が喧伝していたほどNFCのインフラは整っていない印象だったことだ。

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