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FeliCaが生き残るとは限らない 日本のモバイル決済が変わる日 ― 第6回

5つのフェイズで進化するロンドン公共交通のNFC事情

2016年09月15日 20時00分更新

文● 鈴木淳也(Twitter:@j17sf

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 欧州でNFC(Near Field Communication)利用が進んでいる国の筆頭としてよく名前に挙げられるのが「英国」だ。前回紹介したポーランドを例外とすれば、そこでの資料にもあるように、間違いなく英国は欧州でもNFC先進地域だといえるだろう。

タワーブリッジとウェストミンスター宮殿の塔(ビッグベン)。いわずと知れたロンドンのお馴染みの顔

 主にロンドンのような大都市が中心となるが、英国がNFC先進国として抜きんでたきかっけの1つが2012年のロンドン五輪だ。五輪のスポンサーである韓国Samsung Electronicsが選手や関係者にNFC決済可能な「Galaxy S III」を配布して大々的なプロモーションを行なったほか、同じくスポンサーである「VISA」が決済インフラ整備、地元銀行らと組んで決済に必要な非接触ICカードの普及に尽力していたなど、NFCが普及する素地を作り上げていたことが大きい。五輪終了後、これらインフラはスマートフォン向けの「モバイルウォレット(Mobile Wallet)」アプリとともに一般にすぐに開放される予定だったが、セキュリティ上の懸念から当初予定していた2012年には公開されず、結局2年近い月日が経過することになってしまったのは残念なところだ。

夕焼けに沈むロンドン五輪のオリンピック公園。ストラトフォード(Stratford)駅が最寄りだが、周辺エリアは封鎖されていて近寄れないようになっている

 筆者は直近のタイミングでは、五輪終了直後の2012年11月、そして2014年の6月と10月の計3回ほどロンドンを訪問している。いま話題の交通系サービスで世界標準的な位置付けとなっているロンドン交通局(Transport for London:TfL)の関係者の話も含め、今回はこのロンドン周辺事情を中心にまとめたい。

ロンドン五輪ビフォーアフター

 ロンドン五輪直後ということで現地訪問で期待していたのは、どれだけNFC決済が可能な非接触対応読み取り機が普及していたかという部分だった。ただ残念なことに、2012年秋の時点では一部の軽食やカフェ(「Pret A Manger」など)、スーパーのチェーン(「Marks & Spencer」など)、そして五輪会場にもなっている「Westfield Stratford City」の一部店舗など、意図的に探しに行かないと見つからないレベルであり、正直いうと翌年2013年に訪問したポーランドのほうが普及度の面では先に進んでいるという印象だった。

2012年にロンドンの街中で見かけたNFC対応決済端末。左がMarks & Spencer(M&S)、右がPret A Manger

 多くが知るようにロンドン周辺の物価は異常に高く、筆者は滞在中はTesco Expressなどコンビニの軽食コーナーをよく利用している。ただ、英国で最大のスーパーやコンビニ経営の小売チェーンとして知られるTescoが非対応では、本当に使う場面が少ないという状態だった。しかし、2年後の2014年の訪問ではNFCが使える小売店がかなり増えていた印象であり、おそらく今後2016年、2017年といった形で訪問する機会があれば、より便利に利用できるようになっているだろう。実際、NFC関連の取材で頻繁にフランスを訪問するようになって、ここ1~2年ほどは「Apple Payで決済を行なう」場面も徐々に増えてきており、さらに先行している英国であればインフラ面での拡充はよりいっそう期待できるはずだ。

 さて、ロンドンといえば地下鉄だ。世界最古として知られるロンドンの地下鉄だが、同市では有名な2階建てバスも合わせ、市内の主要公共交通を「Oyster(オイスター)」という共通の非接触ICカードで乗り降りできることが知られている。1ゾーンの移動が4ポンド(原稿執筆時点の為替レートで約550円)と、世界最古であると同時に世界でも最も初乗り運賃が高いことで知られるロンドンの公共交通だが、このOysterカードを使えば4ポンドが2ポンドへと半額になる特典がある。これは市交通を運営するロンドン交通局(Transport for London:TfL)の方針で、非接触ICカード普及を優先するための施策だ。そのため、Oysterには付帯サービスのある市民向けのものと、海外からの旅行者でも問題なく利用できる通常のプリペイド方式のものと複数が用意されており、後者についてはユーロスター(Eurostar)の発着駅であるセントパンクラス(St Pancras)駅や空港などで観光案内所とOyster販売のための窓口を用意し、積極的に拡販を行なっている。これはインバウンド向けのプロモーションとしてみれば非常に興味深い。

非常に車内が狭いことで知られるロンドン地下鉄のチューブ(Tube)と地下鉄の改札にOysterをかざして通過するところ。日本の改札とは違い、しばらくカードを読み取り機に“あて続ける”感じで利用する必要がある

TfLが目指すロンドン公共交通の次

 公共交通のNFC対応で取材を続けていると、改札処理で必ず名前が挙がるのがTfLだ。TfLでは改札処理のレスポンスタイムを“クローズドループ”時に「250ミリ秒」、“オープンループ”時に「500ミリ秒」と定めている。クローズドループとは一般的なOysterの処理のことで、オープンループはクレジットカード決済など別の乗車手段を用いる場合のことを指す。通常、Oysterでは乗車時間(“オフピーク”か“そうでない”か)と移動ゾーンを基に出札時にトータルの乗車料金が決定され、事前にチャージした金額からその分が差し引かれるようになっている。この仕組みはNFCに対応したクレジットカードでも利用可能で、改札の読み取り機にクレジットカードを“タッチ”することで、差額分が請求されるようになっている。処理がOyster内で完結せず、ワンクッション入るためにレスポンス時間が2倍に設定されている。

 この「250ミリ秒」という数字はよく引き合いに出され、レスポンス時間について質問を受けた各都市の交通局の担当者が「TfLと同じ」と答える場面によく出くわす。

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