アップルの製品に乗り換えていた一時期を除いて、長く日本製のノートPCを使っている。
特定の製品のレビューがこの原稿の目的ではないため、具体名はあえて書かないが、新幹線に乗ると、多くのスーツ姿の人たちがキーボードを叩いていると言われる製品だ。このノートPCは、バッテリーを自分で交換できる。長く使い続けている理由はおそらく、この一点に尽きる。
ネットで調べてみると、ノートPCのバッテリーの寿命は、おおむね2年から3年と説明されている。アップルを含め、機体を預ければバッテリーを交換してくれるメーカーもあるが、仕事用のPCを数週間預けるのは、簡単なことではない。
先日、2年ほど使い続けたバッテリーが劣化してきたため、ネットで新しいバッテリーを注文すると、2日ほどで届いた。やはり自分でバッテリーを交換できる仕組みは、ありがたい。
アップルは現地時間9月9日、AirPods Pro 2に、「聴覚の健康をサポートする」新機能を搭載させると発表した。つまり、AirPods Pro 2には、音楽を聴いたり、通話したりする機能だけでなく、補聴器としても使える機能が追加された。この新機能は、バッテリーの交換を巡る規制とも深い関係があるようだ。
地味だが大きなイノベーションかもしれない
9月13日付のロイターは、米食品医薬品局(FDA)がアップルのAirPods Pro2などに搭載されるソフトウェアについて、補聴器としての機能を承認したと報じた。食品医薬品局は、医療機器の承認を担当している。今回の承認を受けAirPods Pro2は、医師の診断や処方を必要としない軽度から中程度の難聴の人が、補聴器として利用することができる。
日本補聴器工業会が2022年に実施した調査によれば、18歳以上の11.6%、全体の10.0%が、「難聴またはおそらく難聴だと思う」と回答している。日本の人口から単純計算すると、1千万人以上に難聴の可能性があることになる。
難聴だと思っている人の割合は、65歳以上の高齢者になると一気に跳ね上がる。65歳から74歳で14.9%、75歳以上になると34.4%となり、75歳以上の高齢者は、3人に1人に難聴者の可能性があることになる。しかし、難聴の可能性がある人たちのうち、実際に補聴器を使っている人は15.2%にとどまっている。
加齢に伴い、難聴になる人は少なくない。騒音の多い工場などの環境で長い間仕事をしていると、難聴の原因になりうるという。こうした人たちが、従来の補聴器には抵抗を感じるとしても、AirPodsなら気軽に、周囲の人たちとのコミュニケーションを補助してくれるデバイスとして使うことができるかもしれない。
「集音器」ではなく「補聴器」
ネット通販サイトで補聴器を検索してみると、たくさんの製品が表示される。一見すると、音響機器メーカーが製造しているワイヤレスイヤホンのようにも見え、低価格の製品では、2千円台のものもある。アップルは、こうした市場に参入することになる。規制の観点で重要なのは、ネット通販サイトで販売されている商品は「補聴器」ではなく、「集音器」として販売されている点だろう。
日本で「補聴器」を販売する場合、医療機器としての厚生労働省への申請が必要になる。厚生労働省の審査には時間も費用もかかることから、審査を経ずに市場に出しているのが「集音器」だ。集音器は医療機器ではなく、イヤホンに似た家電製品の一種だ。
こうした集音器に対して、アップルは少なくとも米国では「補聴器」として食品医薬品局の審査をクリアしている。アップルは、日本を含む各国でも、こうした審査の手続きに入っているかもしれない。
EUのバッテリー規制対策
AirPods Pro2の補聴器化にからんで、もう一つ指摘されている論点がある。EUの「バッテリー規則」の存在だ。EUのバッテリー規則には、次のような条文が含まれている。
「ポータブルバッテリーを組み込んだ製品を市場に出す自然人または法人は、その電池が製品の寿命期間中いつでもエンドユーザーによって容易に取り外し可能で交換可能であることを保証しなければならない」
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