フランス政府出資の下、携帯キャリアをはじめとする複数のメンバーが集まって「Cityzi(シティジィ)」プロジェクトがスタートし、2010年にパイロット都市としてニースが選定されて実際にサービスインとなったのは前回も伝えた通りだ。Cityziの推進母体は「Forum des services mobiles sans contact(以下、SMSC)」で、2008年にストラスブール(Strasbourg)とカーン(Caen)で計画されていたPegasus Projectを基にしている。同団体のPierre Metivier氏が2010年に説明したところによれば、当時のタイミングでニースを皮切りにフランス全土で14の展開プロジェクトが計画されていたようだ。
ニースでのプロジェクトでは、1400のバス停にCityziのマークを付与したRFIDタグとQRコードを設置し、観光案内としては16の史跡と12のアートに同様のCityziタグを設け、さらに1500の店舗で決済が可能になっていたという。ただ、すべての都市にニースとまったく同じNFC環境を展開するのではなく、場所によっては公共交通のみ、あるいはパーキングメーターの整備と、その都市の事情に合わせてアレンジが行なわれていたようだ。
2010年時点では直近の展開予定都市として「トゥール(Tours)」「マルセイユ(Marseille)」「トゥールーズ(Toulouse)」「パリ(Paris)」、そして元来の計画にあった「ストラスブール」と「カーン」が含まれていた。当初は2010年後半ないし2011年には第2弾都市としてストラスブールでのサービスが開始される見込みだったが、最終的に2012年後半へとずれ込んだようだ。2012年10~11月には市内でCityziのプロモーションイベントが複数回にわたって開催されており、おそらくこのタイミングが同市でのCityziローンチだったと考えている。
コンパクトな文化都市
筆者は同市でのCityziローンチから1年後の2013年11月に、実際に現地を訪れてみた。とはいえ、ニースでのCityziツアーのときとは違い、今回の訪問ではCityziサービスに対応した携帯端末を所持していなかったため、実際にどの程度Cityziがこの街で認知され、利用されているのかを把握するのがその主目的だ。フランスとドイツの間で頻繁に国境が変化したアルザス地方特有の文化事情を抱える都市と、南仏のバカンス客で賑わう都市という差こそあるものの、ともに街そのものはコンパクトで市民の足としての公共交通が発達しているという共通点もあり、2番目の都市としてストラスブールが選ばれたのも納得できる感じだった。
トラムとバスが中心という交通事情は両都市で共通だが、トラムの運行系統はニースが2つに対してストラスブールは7つであり、特に市の中心部の移動はほぼトラムで行なうことになる。停留所にはCityziのタグが配置され、運行情報の入手が容易になっていたのはニース同様だ。ただ、トラム自体はニース同様にNFCを使った乗車のほか、従来の紙のチケットを使った信用乗車システムが混在しており、その点で異なる。
NFCで乗車する場合は停留所に「タッチ」できる場所があり、これが検札システムとなっている。Cityziを提供するフランスの3大キャリア(Bouygues、Orange、SFR)の携帯電話を利用する場合は、「U'GO」というアプリを導入することでオンラインチケットを購入し、このNFCによる検札システムを利用できる。一方で、普通の観光客や旅行者はNFCのチケットを入手する方法はないため、紙のチケットを購入するしかない。ただ、ストラスブールで公共交通を運営するCTSでは「Carte Badgeo」という非接触ICカードの発行も行なっており、パスポートや必要書類を揃えて申請すれば一般旅行者でも再チャージ可能な特定個人向けにカスタマイズされた非接触ICカードを入手できる。このあたりのシステムはマルセイユなどフランスの他都市でもみられ、入手可能ではあるものの「旅行者には優しくない」というのが個人的な印象だ。
なお、このストラスブールの交通システムは市内だけでなく、同市に隣接するドイツ国内のケール(Kehl)も部分的にカバーしており、バスで2つの都市を簡単に移動できるようになっている。当然ながら、Cityziによる運行システムやバスの乗車システムもストラスブール準拠なので、フランス側で購入したチケットでそのままケールでも乗車が可能だ。
遅すぎたプロジェクトとその訳
問題は、このCityziがどの程度市民に認知され、利用されているのかという点だ。
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