脳波で意思を伝えるブレインコンピューターインターフェース 大阪大学発「JiMED」
事故や病気などで体がまったく動かせなくなった場合、ネックとなるのが意思疎通。脳は機能しているのに意思が伝わらない――というのは患者自身にとっても大きなストレスになり、家族もどうしていいのかわからない状態になる。こうした「脳は活動しているけど体が動かないという患者」の意思疎通を実現するソリューションを研究開発しているのが大阪大学発の医療機器ベンチャーの株式会社JiMED(ジーメド)だ。
脳波で機器を操作するインターフェースを開発
JiMEDは2020年に設立された大阪大学発のベンチャー。大阪大学大学院医学系研究科の平田雅之教授らが研究する「ワイヤレス植込み型ブレインコンピューターインターフェース」(Brain Computer Interface:以降「BCI」)の医療分野での活用を目指している。
BCIは、いわゆる「脳波で機器を操作するインターフェース」だ。脳に装着することで脳波を計測し、その脳波から患者の意思を読み取ったり、機器の操作を行なったりすることが可能。JiMEDでは、このBCIを活用し、「閉じ込めの状態」の患者との意思疎通を実現しようとしている。
「閉じ込めの状態」というのは、神経系の疾患や頸椎損傷、脳卒中といった病気や事故により、見聞きや感覚はあるものの、体が動かせなくなった状態のことを指す。この場合、自発呼吸もできないため、人工呼吸器の装着が必要になり、声を発することもできなくなる。そうなると家族や介護士と意思疎通ができないため、多くの患者が精神的に苦しむことになる。しかし、「BCI」でタブレットを操作して文字を入力するということができれば、これまで難しかった意思疎通が可能になる。
世界初となる小型植込み脳波計を実現
「閉じ込めの状態」の患者に非常に有効なBCIは、海外では複数の企業が開発を行なっているが、脳に針のような電極を突きさす形であったり、血管内に電極を通す形であったりなど、人体への負担やリスクが懸念される仕組みが採用されている。そのため、脳表に設置することで、人体の影響が少ない「シート型電極」の研究も行なわれているが、後発ということもあり実用化までには時間を要している状況。そんな中、「JiMED」は先述の平田雅之教授らの研究内容を活用することで、世界初となる、シート型電極を用いた小型の「ワイヤレス植込み型脳波計」を実現した。
株式会社JiMED代表取締役の中村仁氏によると、「2025年にはすでに研究開発が完了しており、2026年には治験を開始予定。海外の競合と比較しても、時間的、技術的にひけを取らない」という。JiMEDのwiBCIは腕時計ほどの大きさで、シート型電極とワイヤレス給電・通信が可能な機器、および信号処理を行なう筐体が一体となっている。電極は硬膜下に設置し、筐体は頭蓋骨の代わりにはめ込まれ、縫合して皮膚で隠すため装着していても目立たない。また、3時間程度と短い時間での脳外科手術で埋植できるのも特徴だ。計測された脳波はBluetoothを介して外部の脳波解読装置に発信することが可能となっている。
脳波でコミュニケーションが可能になる
多くの人が疑問に思うのが「脳波を取得することで何ができるのか」という点だろう。実際に脳波そのもので言語が読み取れるわけではないが、例えば「右手を動かそうとする脳波」「痛みを感じたときに出る脳波」など、体の動きに関する脳波の解析は進んでいる。こうした特定の行動を起こそうとする脳波から、意志や感情を読み取ることが可能だ。
中村氏によると、「現行の開発製品はスイッチ入力によって文字入力を行なうものになっています。任意のタイミングでスイッチ入力を行なうことで文字入力ができるようになります」とのこと。また、先述のように脳波で文字を選択するインターフェースを利用して意思を伝える、さらには音声を発信するといった一歩進んだコミュニケーションもできるようになる。
「意思疎通ができない状態は、患者さんご本人にとって精神的に大きな苦痛を伴います。中には生きるのを諦める人もいます。そんな中、少しでも意思疎通ができる形を生み出し、それでも生きようと思ってもらえる、諦めることのない社会を実現したい」と話す。「はい」、「いいえ」が伝わるだけでも家族や介護士はもちろん、「意思が伝わらないのがつらい」という患者自身の悩みや不安の解消につながる。また、単に意思疎通が可能になるだけでなく、介護の負担軽減やコストの削減など、従来の「閉じ込め状態」の患者のケア自体が従来の形から大きく変わる可能性もあるだろう。
医療を超えた活用も期待されている
中村氏は「『意思疎通』から一歩進んだ展開として、閉じ込め状態の患者さんでも自身の身体をある程度動かせるようになる、あるいは遠隔のロボットやアバター等を操作できるようアプリケーションを拡張し、患者さんご自身のQOL(Quality of Life:生活の質)改善はもちろん、ゆくゆくは雇用機会の創出などにもつなげていければ」という。例えば、脳波を使って遠隔でロボットを操作したり、アバターを操作したりが可能になれば、閉じ込め状態であっても働くことができる。
実際に、コンビニで遠方にいる人がアバターを操作して接客をするという実証実験が行なわれているが、閉じ込め状態の人が脳波でアバターを操作して接客する未来も訪れるかもしれない。その他にも、頭蓋内の脳波データは、例えば創薬時のバイオマーカーとして生かすことができたり、現在は睡眠状態などを計測する等の用途で用いられている「頭皮型の脳波計」の高度化にもつながることが期待される。
頭蓋内に装着することなく使用できるため、これまでよりも多くの情報が取得でき、医療やヘルスケアへの活用が広がるだろう。ゆくゆくは「体に装着するPC」という形で、いわゆるスマホの機能を脳波で操作する――といったSFの世界でのアクションが現実のものになる可能性もある。wiBCIに対しては、患者サイドからの注目度は高く、治験への参加を希望する声も寄せられている。また医療業界からも、従来のケアを大きく変えるソリューションとして期待する声が寄せられているとのこと。JiMEDでは2026年での治験を予定しており、そこで得たデータを基にさらに発展することだろう。
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