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「注射の痛みと通院負担」を解消する自宅完結型ヘルスケアの可能性 東北大学発「bionto」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 株式会社biontoは2025年3月に設立された東北大学発のスタートアップ。東北大学大学院工学研究科 の西澤松彦教授の「生体イオントロニクス技術」の社会実装を目的に立ち上げられた。同社の技術は、医療や美容におけるセルフケア・セルフメディケーションの課題解決につながる可能性を秘めており注目を集めている。

体内のイオンと電子工学を組み合わせた技術

 biontoが目指しているのが、生体イオントロニクス技術を活用した生体デバイスの社会実装だ。生体イオントロニクス技術というのは、「イオン」と「エレクトロニクス(電子工学)」を組み合わせた新しい学際的技術分野。人は体の中には無数のイオンが絶え間なく活動しており、細胞機能の調節や筋肉や神経の働きなど、人に不可欠なものである。こうした人体で行われているイオンの働きや動きに着目し、イオンの挙動を電子技術と融合させたのが生体イオントロニクス技術となる。

 同技術のトップランナーである東北大学の西澤松彦教授は、基盤である生体イオントロニクス工学の学理構築や実践的な研究を行っており、さらにbiontoを通して同技術を用いた生体デバイスの実現にも取り組んでいる。

針を用いずに薬品が投与できるデバイスを開発

 biontoがまず社会実装を目指しているデバイスが、「PMN(ポーラスマイクロニードル)デバイス」という投与プラットフォームだ。従来の薬品投与は大きく注射と経口摂取の2種類に分けられる。注射は直接組織に届けることができるが、人体に針を刺すということから体や精神への負担が大きく、また注射を受けるために通院する必要がある。さらに医療専門技術が必要で処置できる人が限られるのも課題だ。

 一方で経口薬での投与は手軽ではあるものの、嚥下に障害のある人だと摂取が難しく、摂取後に薬剤が肝臓を通過するため内臓に負担が掛かるほか、副作用の問題もある。他にも製剤化が難しい薬もある――といった課題がある。しかし、PMNデバイスは「針を用いずに薬品が投与できる」という特徴があり、上記のような従来の薬品投与システムの課題をクリアすることが可能だ。

 PMNデバイスはデバイス本体と着脱式の薬剤カートリッジで構成されており、本体にある電極から出たイオンが薬剤タンクに伝わり、「刺さないニードル」を通して人の体に浸透する仕組み。この皮膚との接触部になる刺さないニードルは多孔質(数ミクロンの非常に小さく細かい穴が空いている)でできている。この部分を皮膚に押し付ける(押し込む)ことで、穴を通して電気浸透流(体内でイオンが動くと同じように体内の水も同じように動くという作用)を人工的に起こし、効果的に体内に薬剤を浸透させる。

セルフケア・セルフメディケーション新しい可能性を切り拓く

 PMNデバイスを活用することで、皮膚表面からは投与が不可能だった薬剤、注射でしか投与できなかった薬剤でも投与可能になる。薬品投与のハードルが下がることで、これまで病院でしか受けられなかった処置を、自宅で手軽に行なえるようになるなど、セルフケア・セルフメディケーションの幅が広がる。その結果、例えば「どうしても病院に行く必要がある」という症例以外は、自宅で処置する――という未来も予想される。

 例えば、現在は検査キットによる診断サービスなど、手軽に健康状態を調べるということが実現できているが、健康状態を調べたその先については、従来どおり医師の診察や指導を受けるという形。つまり、調べた健康状態への「対処」についてはケアできていない状態だ。その部分の「中間解決策」としてPMNデバイスを活用すれば、上記のような「自宅ですべて完結する医療」が実現できるかもしれない。

 また、病院のない地域、病院まで遠い地域では、現在オンライン診療でカバーする取り組みも進んでいるが、診察が行えても、例えば注射で薬を投与しないといけないなど、医療機関での処置が発生することが往々にしてある。しかし、PMNデバイスを活用することで、従来では対処が難しかった患者さんや症例を幅広くケアできるほか、患者さん負担を減らすことにもつながるだろう。

 同社の妹尾浩充CEOによると、「慢性的に注射での薬剤投与を行わないといけない場合、非侵襲で投与できる方法は肉体的だけでなく精神的にも負担軽減になる。実際にこうした患者さん目線での評価を得ています。また製薬企業からは、従来とは異なる方法、特に患者さんにとってもより良い形で投与できることは、薬に新しい価値を生み出すことができるほか、注射で投与しないといけないという従来の概念を覆すことで、製薬業界の課題解決にもつながるのではと期待されています」とのことで、従来の投与方法の課題解決のほか、製薬における新しい可能性を切り開くことにも期待が寄せられている。

まずはヘルス&ビューティー・ウエルネス分野での実装を目指す

 同社では最終的には薬剤の投与という形を目指しているが、やはり課題や超えなければならない壁は多い。そこで、まずは医薬品ではない成分の投与という形での一般化を目指した研究と市場検証を行っている。具体的にはヘルス&ビューティーやウエルネス分野での活用だ。例えば皮膚へのヒアルロン酸の注入や、医薬部外品に分類される発毛成分の投与といったエイジングケア製品への応用などが挙げられる。

 今後は、これまでの実証実験で得た課題や改良点を踏まえつつ、上記のようにヘルス&ビューティーやウエルネス分野での社会実装を目指すという。「針を刺すのが嫌で注射を受けたくない」という話はよく耳にするが、biontoのPMNデバイスが一般的になれば、こうした「注射嫌い」もなくなるだろう。

株式会社bionto 妹尾浩充CEO

 

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