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次世代3Dフードプリンティングと食感解析AIで未来の食をデザイン 山形大学発「F-EAT」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 さまざまな分野で活用されている3Dプリンティング技術だが、「3Dフードプリント技術」という、食材や料理を3Dプリンターで生み出す技術があるのをご存じだろうか。例えば山形大学発のスタートアップ「F-EAT」は、同大学で研究されている3Dフードプリント技術を活用し、新しい食体験の創出に挑戦している企業だ。

低温凍結粉砕による「フードインク」を用いた3Dフードプリント

「F-EAT」は、山形大学の古川英光研究室で研究されているフードプリンティング技術の社会実装を目的に誕生したスタートアップ企業。

 同研究では、低温凍結粉砕という技術を用いて、「フードインク」という粉末食材の開発を行なうほか、食品の特徴や個性に合わせた材料や成型方法の開発に取り組んでいる。あまり聞きなじみのない「3Dフードプリンティング」という言葉だが、実は世界的に見ても新しい技術。3Dフードプリンター自体はスペインの企業が販売していることが知られているが、素材の研究や、どんな食品を作り、どのように活用すればいいのかといった部分はまだ進んでいないのが現状だ。

 特に食材や食品の成型については、現状の機器だと注射器のようにペースト状の材料を押し出して作る方法のみとなっており、作れるものが限定され、さらに食感なども大きく変化が付けられない。そこでF-EATおよび古川研究室では、従来型以外の成型方法の研究と開発、さらに扱える材料、作れる食品の拡大を目指している。

新しい食体験を生み出すデジタルレストランシステム

 F-EATでは、3Dフードプリンティング技術の研究・開発のほか、食感解析AI「GelBiter」とXRなどのデジタル技術を組み合わせた「新しい食体験の創出」を目指している。

 人間の口の形をしたロボットにさまざまな食品を噛ませることで「食感のデータ」を収集。食感解析AIがデータの収集・解析を行い、解析したデータを活用することで、作りたい食材・料理の「食感」を再現することが可能になる。食感も再現することで、より「おいしい」と感じることができる。また、料理の味を左右する要素として「環境」も挙げられる。例えば、熱い場所で飲む清涼飲料水のように、シチュエーションで味に対する感じ方は変わる。

 F-EATの伊藤直行代表によると、「食べ物の味を決める要素として料理の味に加え環境も影響しています。飲食店では、よりおいしく食べてもらうために、『食べる環境』も考慮してインテリアを設計することがありますが、我々も食体験そのものを設計できるようにしたいと考えています。そこで、食環境を設計して提示するXRシステム『デジタルレストランシステム』を生み出しました。食を『料理」だけではなく『体験」として設計できる唯一無二の強みを持つシステムで、どんなシチュエーションで誰と食べるかを自由に選べるようになります。例えば、病院など制約のある場所での食事でも、3Dフードプリンティング技術とXRを活用すれば、制約のない豊かな食体験が楽しめるようになります」とのことで、新しい食体験の創出が期待されている。

大きな反響のあった大阪・関西万博

 大きな話題となった大阪・関西万博では、最新鋭のフードテックマシンで江戸前寿司を3Dでプリントするデモを実施。来場者からは「面白い!」という声が多く寄せられたという。

 伊藤代表は、「これまで3Dフードプリントと聞くと、『どんなものを使って作っているのか不安』、『得体のしれないもの』というイメージがあったようですが、実際に体験してもらうことでポジティブな反応が寄せられるようになった。天然の素材を使っている、味にもこだわっているという点を地道にPRしてきた成果も出てきたと感じています。食品関係の業界からも期待する声が寄せられており、特に海外の企業の反響は大きいです」と話しており、特に2025年の大阪・関西万博でのデモ実施の影響は大きかったとのこと。

 他にも、福祉機器の展示会で行った「メタバース 月の駅」という体験会では、体の不自由な方や高齢の方にも試してもらったところ「こんな技術が開発されているのを初めて知った」「生きる希望が湧きました」など高い評価を得たという。

社会課題の解決にもつながる技術

 F-EATが研究している3Dフードプリント技術、またXRを用いたデジタルレストランシステムは、特に医療や介護現場での活躍が期待されている。例えば、3Dフードプリンティングにより、手間が掛かっていた調理過程を省くことができ、AIが日々の食事データから足りない栄養を分析、それぞれに「最適な料理」を生み出すことが可能になる。特にセントラルキッチンが一般的になっている病院食は、個別で作り分けが必要な患者さんも存在するものの、人員不足が原因で対応が難しいケースもある。

 しかし、F-EATが提供するシステムを活用すれば、「患者さんに合ったおいしい料理」が提供でき、さらには食べるシチュエーションを変えるなど、制約のある場所でも食事を楽しんでもらうことができる。介護士、看護師、管理栄養士や調理師のサポートになるだけでなく、患者さんにとってもプラスの効果を生み出すシステムといえるだろう。また、一般家庭でも、例えばいつもの食卓とは異なるシチュエーションで食事を楽しむことができるようになるだろう。3Dフードプリントによって調理の必要が省かれることで、余った時間をほかのことに回すなど、QOLの向上にも貢献する。その他、食材の廃棄問題の解決にもつながる可能性がある。

 例えば、倉庫に長い間保存されていて廃棄せざるを得なくなった、大量の規格外の野菜を捨てることになったといった話をよく聞く。そこで低温凍結粉砕技術を用いれば、乾燥粉末なら常温、そうでない場合も冷凍保存することで10年もの長期間にわたって保存可能となり、粉末にすることで、形が良くないという理由で市場に出すことができない野菜でも活用可能だ。

 今後の展望について伊藤代表は、「現在は大阪・関西万博での展示を皮切りに、社会実装を見据えた実証や対話が各所で動き始めています。今後はレストランの厨房など小さな現場で『料理をお客さまに提供する』という実際のプロセスを完成させることが短期での目標。実際に使ってもらいながら、食のプラットフォームとして育てていく予定です。将来的には、さまざまな制約を超え、どこでも豊かな食体験が楽しめるようなシステムにしたいです」と話している。

 F-EATの3Dフードプリンティング技術およびデジタルレストランシステムは、豊かな食体験の創出だけでなく、医療介護現場や廃棄問題など社会課題の解決にもつながる技術。技術研究や機器の価格などまだ課題は多いとのことだが、今後どのような展開を見せてくれるのか注目したい。

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