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AIとデータで「捨てる」を「価値」に変える次世代サーキュラーエコノミー 静岡大学発「S-Bridges」

連載
社会実装に向けた研究、技術 大学発スタートアップがつくる未来を知る

 昨今、日本を始め世界各国が「ネイチャーポジティブ」の達成に向けて取り組んでいる。ネイチャーポジティブは「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」を指す言葉。現在、さまざまな企業がネイチャーポジティブの実現に向けた取り組みを行っており、例えば静岡大学発スタートアップ「S-Bridges」もその中の一社だ。

食物資源を効果的に活用するためのシステムを構築

 ネイチャーポジティブの実現に向けて「S-Bridges」が取り組んでいるのが「サーキュラーエコノミー」の実現だ。サーキュラーエコノミーは、これまでの大量生産・消費・廃棄から脱却し、限りある資源を循環させながら活用していく経済システム。

「S-Bridges」が展開するサーキュラーエコノミーが、「Bio Material Transformation(BMT)」という、食物資源を効果的に活用するためのシステムだ。従来の食品加工システムでは、原材料を加工する際、目的の商品に使わない部分(加工残渣など)は廃棄されていた。トマトジュースの場合、トマトの実は使用するが、葉や茎は廃棄する――という形だ。

 しかし、「BMT」では、加工段階で生じる副生成物や使われない素材に新しい価値を見出し、余すことなく活用する。例えば食品加工の際に出る副生成物を別の食品や素材に変えれば、植物素材を100%活用することを可能にする。

未活用となっていた素材に新しい価値を見いだす

「BMT」は大きく「Input(原料)」と「Transform(変換)」「Output(価値)」の3つの要素で構築されている。「Input(原料)」は文字どおりトマトの茎や葉、茶葉、コーヒーなどの原料となるもの。「Transform(変換)」は原料からの成分抽出、「Output(価値)」は抽出した素材を必要とする企業などにマッチングする工程となる。

 これらの3つの要素のうち、特に注目なのが「Transform(変換)」の工程で利用されている独自の全抽出技術だ。「S-Bridges」では、酵素処理と湿式粉砕という方法を用い、植物成分を全抽出可能にする「Cell Breaker」、分解した素材を用途別に変換する「BMT Suites」、成分の分析結果を学習して素材に応じた最適な市場を調べる「Data Lake」の3つの要素で構築されており、スムーズかつ効果的な植物素材の利活用を実現している。

 S-Bridgesの循環は、装置や化学だけでなく「情報で回る」のが特徴。鍵になるのが上述の「Data Lake」だ。植物由来の未利用資源は、産地や品種、季節、加工条件で中身が変わるため、同社では、原料の来歴(いつ・どこで・何から)、処理条件(温度・時間・酵素・粉砕)、分析結果(成分バランス)、得られた分画(繊維・可溶成分など)をまとめて蓄積。素材ごとの“最適レシピ”を作っていく。

「Data Lake」を活用することで、原料の来歴から処理条件・分析結果までを紐づけ、品質と安全性を説明できる「トレーサビリティ」や、成功した条件を「レシピ化」し、別の工場や地域でも展開しやすくなるといった「再現性の向上」につながる。さらには、「AIによる用途提案」「ムダの削減」など、成分と物性から、食品、飼料、素材、エネルギー、液肥など最適な出口の探索や、必要な加工を必要最小限にし、副産物も含めて使い切る設計へのアプローチにつながる。

 同社の取締役CBOである一家崇志氏によると、「データが増えるほどAIが学習し、『この繊維はバイオマス素材に向く』、『この可溶成分はバイオスティミュラントの候補になる』、『この副産物なら、食品・飼料・素材・エネルギー・液肥のどこに展開するのが最適か』などの次の一手が提案できるようになります。結果として、未利用資源を『捨てる』、『燃やす』から『用途を選んで価値に変える』へ。資源のムダを減らし、自然への負荷を下げることが、ネイチャーポジティブへの近道になります」とのことで、例えばこれまで捨てるしかなかった葉や茎に新たな使い道ができるなど、意外な素材に思わぬ価値が生まれる可能性もある。

 生産者側としては、新しい収益を生み出すことになり、企業側も新たな製品の開発や展開につながる。新素材が見つかるなど、ブレイクスルーのきっかけになる可能性もあるだろう。

大切な地球を守るために必要不可欠な取り組み

「S-Bridges」の取り組みが私たちの生活にもたらす影響としては、やはり「サーキュラーエコノミーの実現における地球環境の改善」が大きい。例えば、自然環境の改善は、一見すると私たちの普段の生活にすぐには直結しないように思えるかもしれない。しかし、広い目線では私たちの生活に必要不可欠なこと。自然環境が改善され自然が豊かになれば、おのずと生活環境も豊かになるだろう。

 すでにS-Bridgesではさまざまな企業と共同で新素材の利活用に取り組んでおり、例えば2025年12月には、コスモエネルギーホールディングスと業務提携契約を締結し、「無消費の植物由来バイオエタノール製造」に取り組んでいる。これは食品加工残渣など、無消費素材から有用成分を抽出した際に発生するセルロース系繊維を、非可食由来のバイオエタノールの原料として活用する――というもの。原料コストの低減やエタノール製造プロセスの効率化が期待できるとして注目を集めている。

 このようにBMTを事業として市場に展開するべく、さまざまな業種からなるBMTチームを結成し、このプロジェクトに取り組んでいる。地球環境の改善と聞くと「脱炭素」に注目がいきがちだが、ネイチャーポジティブの実現も必要不可欠。S-Bridgesの取り組みがどのように広がっていくのか、今後の展開に注目だ。

S-Bridges 取締役CBO 一家崇志氏

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