給水を必要としない在宅人工血液透析装置を実現 北里大学発「フィジオロガス・テクノロジーズ」
末期腎不全の場合、血液をろ過することができないため人工透析を受ける必要がある。基本的にはクリニックなどで受けることになるが、在宅医療が進んでいる昨今は、自宅での人工透析にも注目が集まっている。しかし、現行のシステムでは課題が多く、自宅での人工透析の一般化には至っていない状況だ。そんな中、北里大学発のスタートアップ「フィジオロガス・テクノロジーズ」が、画期的な人工透析装置を開発し、注目を集めている。
画期的な「水を必要としない在宅用の血液透析装置」を実現
「フィジオロガス・テクノロジーズ」は、在宅用の血液透析装置を作っている北里大学発のスタートアップだ。
同社が手掛けている在宅用の血液透析装置の特徴が「水を必要としない」という点。そもそも従来の血液透析装置は、治療コンソールと透析液の基となる精製水を作る「精製装置」で構成されている。そのため、自宅に設置する場合は、精製装置用の給排水管を新設する必要があり、さらに機器自体も大きく設置場所も必要。
しかし、「フィジオロガス・テクノロジーズ」の血液透析装置は、「透析液再循環ユニット」という、透析液の不純物を取り除き、再び装置の中に戻すという独自の装置を搭載しており、従来のように透析液を入れ替えることなく、システムを動かすことが可能。
現在のシステムでは300リットル以上、フィルターの質によっては1トン近い水を必要とする。しかし、「フィジオロガス・テクノロジーズ」の血液透析装置は、大量の水を使わずに済み、さらに給排水用配管が必要ないなど、自宅に設置しやすいのが大きな特徴だ。また、「管理のしやすさ」もポイントとなる。昨今は遠隔モニタリング機能を有した医療器具もあるが、一般的な透析装置はクリニックで医療従事者が扱うことを前提としているためモニタリング機能がない。つまり、何らかのエラーが出た場合は患者自身や家族が管理しないといけないのだ。
こうした課題に対し、「フィジオロガス・テクノロジーズ」はリアルタイム分析機能やバイタルデータを含めモニタリングできる装置を搭載し、在宅治療であっても医療従事者が監視して安全に治療ができる仕組みを構築した。さらにUIも使いやすいように工夫されている。海外でも在宅用の人工透析装置が登場しているが、いずれも施設で使用しているものの小型版という形で、ほとんどが水の精製を必要とする。「フィジオロガス・テクノロジーズ」の「給水が不要の透析装置」は世界的に見ても画期的な装置――ということだ。
人工透析にかかる時間や手間を大幅に低減
自宅への設置ハードルが下がり、在宅での血液透析が手軽になった場合の大きなメリットが「患者のQOLの向上」だ。現在、治療を受けている人のほとんどが施設で人工透析を受けているが、施設での人工透析には自宅を出て施設に向かい、治療を受けて帰るまで約6時間が必要。これを週に3回行うため、体力的に非常に苦しいと感じている患者が多い。
しかし、在宅の場合、ベッドの空きなどを気にする必要がなく、自由な時間、例えば寝ているときなどにも利用できる。体力、時間のロスを気にすることもなく、より健康状態が維持できる。加えて、在宅での人工透析はクリニックの経営視点では、診療報酬(売上)を維持しながら、管理や治療の業務が減らせるというメリットがある。業務効率が上がれば空いたリソースを他に回せる。先述の設置ハードルの高さ故に、実際に在宅人工透析を受けているのは全体のわずか0.2%、人数にすると約800人と少ないが、「給水が不要の血液透析装置」が一般化すれば利用者も増加するだろう。
人工透析を受けながら普段の生活スケジュールが保てる
在宅での血液透析が手軽になった場合のメリットとして、「生活環境の維持」も挙げられる。
週3回も、施設で6時間にわたる透析を受けていては満足に働けず、仕事が続けられなくなるケースも珍しくない。実際に約10万人いるとされる64歳以下の労働年齢層の透析患者のうち、5万人が就労していないと推定されており、フィジオロガス・テクノロジーズではこうした64歳以下の労働年齢層の社会生活の維持や復帰も目的としている。
フィジオロガス・テクノロジーズの宮脇一嘉代表は、「同じ医療費を使うのであれば、患者さんがこれまでどおりに働けるよう、より良い形で治療が受けられるといった、経済を回す仕組みを作った方がいいのではと考えています。在宅で透析を受けることで透析にかかる手間や時間を減らすことができれば、就労環境の維持や再就職につながる可能性が高まります。患者本人はもちろん、社会全体の経済効果を高めることにもつながり、実際に『これまでどおりの生活を続けたいから、自宅でも手軽に透析ができるよう早く開発してほしい』という声も寄せられています」と語っており、人材不足という社会課題の解決にもつながるだろう。
また、末期腎不全患者の中には「治療不可」と分類される、何らかの理由で人工透析を受けていない人も数多く存在する。宮脇代表は「治療不可に分類される人は、水道のインフラがないために血液透析治療を受けられない人です。全世界の末期腎不全の患者は約1000万人いるといわれており、透析を受けている患者は約500万人と言われています。残りの500万人は多くが透析を受けられておらず、その原因が水道インフラへのアクセスがないためと、我々は推定しております。当社のシステムは水道インフラが不要ですので、水のインフラがないために治療へのアクセスができない人々に対し、治療を提供することが可能になると考えております」と話しており、人工透析が自宅で手軽に受けられるようになれば、こうした「治療不可」にも対応ができ、これまで救えなかった命を救うことにもつながるはずだ。
現在はオーストラリアでプロトタイプの開発しながら、製造と非臨床試験の実施を計画している段階。在宅での人工透析は多くの患者が期待を寄せていることもあり、早期の実現を期待したい。
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