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マクロン大統領「AI・量子とスタートアップでの連携強化へ」 Mistral AIのCEO、日仏の協業に期待

「日仏経済フォーラム2026」レポート

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 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月1日、フランス政府が東京・有楽町のTokyo Innovation Base(TIB)で開催した日仏経済フォーラムで演説した。大統領は、米中対立や多発する危機を背景に「独立を望む有志国の連合」の創設を提唱したほか、人工知能(AI)や量子技術といった先端分野に加え、スタートアップ支援において日仏の協力を加速させる意向を示した。

量子・AI分野でのスタートアップ連携

 マクロン大統領はAI、量子技術、半導体の3分野を日仏が連携できる具体的な協力分野として挙げ、「両国間の協力は絶対に不可欠だ」と述べた。特にAI分野では、フランスの豊富な脱炭素電力を生かしてデータセンターの誘致を進めるとし、「データセンターを開設し、既存のシステムに接続することができる」と優位性を語った。脱炭素化された電力を多く発電し「昨年は90テラワット時(TWh)以上の電力を輸出した」と実績を強調した。

 また、次世代技術の覇権争いを見据え、スタートアップ企業の連携強化を急務とした。マクロン氏は「量子技術に関しても、近年発展した多くの(フランスの)スタートアップが、日本企業や投資家とのパートナーシップを加速させたいと望んでいる」と明言した。仏有力AIスタートアップであるミストラルAI(Mistral AI)とNTTデータグループが進めている提携について、大統領は「単なる人工知能(の枠組み)をはるかに超えるものだ」と高く評価した。

 さらに、大統領はこうした強力な結びつきが「産業界だけでなく、研究分野にも当てはまる」と指摘した。欧州最大の基礎研究機関であるフランス国立科学研究センター(CNRS)の国際的な活動に触れ、「CNRSにとって、日本以上に多くのパートナーシップを結んでいる海外の国はない」と説明。日本との類まれな親和性を土台とし、「私たちは(日仏間で)もっと多くのことを、さらに強力に進めなければならない」と述べ、最先端の研究分野における連携を一層深める意欲を示した。

 このほか、激化する宇宙開発競争において「宇宙開発は日仏協力の原動力となるべきだ」とし、防衛や民間原子力分野での協力拡大も求めた。

日仏スタートアップの「共創」、Mistral AIとExotrailが示す米中対抗への道筋

 マクロン大統領の演説に先立ち、セッション「革新的で持続可能なTechエコシステムの構築」では、フランスの有力スタートアップであるMistral AI(ミストラルAI)のアーサー・メンシュ共同創業者CEOと、Exotrail(エグゾトレイル)のジャン=リュック・マリア共同創業者CEOが登壇した。AIやサイバーセキュリティ、宇宙開発(ニュースペース)といった先端分野において、日仏の企業がいかに連携し、競争力と主権を確保していくかが議論された。

Mistral AI(ミストラルAI)のアーサー・メンシュ共同創業者CEO(右から2番目)と、Exotrail(エグゾトレイル)のジャン=リュック・マリア共同創業者CEO(同4番目)

「宇宙空間のインフラ化」を見据え、日仏連合で米中に対抗:Exotrail

 人工衛星の電気推進システムや軌道上サービスを手掛けるExotrailのマリアCEOは、20年以上前に日本の小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトに携わった自身の原体験に触れ、日仏間の長期的な協力関係を高く評価した。現在も同社のモーターには日本製の部品が使用されているほか、次なる宇宙開発の革命とされる「軌道上サービス」の分野においては、株式会社アストロスケールとの連携を開始していると明かした。

 マリアCEOは、激化する宇宙開発競争において、日仏が手を結ぶことは不可欠であるとし、次のように強調した。「フランスと日本は技術的に進んだ2つの国家であり、歴史的な宇宙戦略を持っています。しかし、米国や中国といった世界的超大国に対抗して存在感を示すには、自国市場だけでは不十分です。だからこそ共に取り組むべきなのです」

 さらに、今後整備が進む宇宙空間の法規制に関しても「日本とフランスは共同で準備すべき要素を多く共有している」と指摘し、技術とルールの両面で連携を深める意欲を示した。

研究力という共通の基盤でAIの独立性を担保:Mistral AI

 一方、生成AIの基盤モデル開発で欧州を牽引するMistral AIのメンシュCEOは、NTTデータグループとのパートナーシップの重要性を説明した。データを顧客の自社インフラから外に出すことなく、セキュアな環境でAIモデルを展開・統合していくうえで、強力なシナジーが生まれていると述べた。

 自身も10年前に日本で機械学習の研究に携わった経験を持つメンシュCEOは、日仏両国が「研究国家」としての強みを共有していると指摘し、共同開発の意義を次のように語った。「フランスと日本はともに研究国家です。協力して共に技術を創出し、それを欧州や日本の市場に提供していくパートナーシップには、大きな可能性があります」

 そしてセッションの締めくくりとして、これまでの協業経験から得た「両国の親和性」について問われたメンシュCEOは、次のように力強く断言した。「最初の数カ月の相互理解の期間を過ぎれば、私たちは技術面でもビジネス面でも根本的に適合する2つの国家です。国際的な企業を構築していくうえで、根本的に補完し合う関係にあるのです」

 両者の発言からは、圧倒的な規模を誇る米国や中国のIT・宇宙覇権に対し、高度な技術力と研究基盤を持つ日仏のテック企業が深く結びつくことで、独自の持続可能なエコシステムを築こうとする明確な戦略が浮き彫りとなった。

Tokyo Innovation Baseで開催された意味

 本フォーラムの会場となったTokyo Innovation Base(TIB)は、東京都が世界のイノベーションの結節点を目指して開設したスタートアップ支援の一大拠点である。フランス・パリにあるステーションFをお手本にしたとされる。今回、フランス政府が伝統的な経済団体やホテルの宴会場ではなく、あえてこの最新のイノベーション拠点を選んで大統領の演説の場としたことには大きな戦略的意図がある。

フォーラム終了後の記念写真(主催者提供)

 マクロン大統領は自国の産業競争力強化計画「フランス2030」(2021年に発表された長期での産業競争力強化・投資計画)を主導し、「フレンチテック」と呼ばれるスタートアップ・エコシステムの育成に並々ならぬ力を注いできた。TIBでの開催は、日仏の経済協力がかつてのような大企業中心の重厚長大産業から、AI、量子技術、クリーンテックを牽引するスタートアップ企業間の国際的な連携へとフェーズを移行していることを強く印象付けるものだ。

 イノベーションの最前線で「共に革新し、共に産業化し、共に資金を出し合う」という大統領のメッセージを、象徴的な場所から両国の次世代を担う起業家や投資家に向けて直接発信した形である。

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