ウィーン空港でビジネス交流。空港、AI、音響技術で広がる協業
ViennaUPサイドイベントで、日本スタートアップ4社が欧州市場へピッチ
ビジネス交流イベント「Vienna AirportCity Cherry Blossom Business & Culture Event」が5月18日、ウィーン空港隣接施設「Vienna AirportCity」で開催された。
オーストリア・ウィーンで開催中の都市分散型スタートアップフェス「ViennaUP 2026」の関連企画となる本イベントは、両国の企業・関係者が年に一度集まり、経済連携や相互協力について議論する場として実施された。会場では日本企業とオーストリア企業によるビジネス交流やパネルディスカッション、スタートアップピッチ、文化展示などが行われた。
日本企業とオーストリア企業の“文化差”を議論
オープニングパネルでは、「現実世界で直面している課題と、その解決方法」をテーマに議論が行われた。企業・専門家らが登壇し、ビジネス文化の違いや、市場参入時の課題について議論を交わした。
登壇したのは、株式会社日新のヤン・シフター(Jan Schitter)氏、医療AI関連企業Scarletred社の創業者兼CEO ハラルド・シュニーダ(Harald Schnidar)氏、日墺間のビジネス交流を支援するSeiConsultingのサビーネ・シュトゥマー (Sabine Stummer)氏。加えて、弁護士のアレクサンダー・タイヨウ・ショイビンマー(Alexander Taiyo Scheuwimmer)氏が、日本企業や日本人従業員がオーストリアへ進出する際の制度面について解説した。
セッションでは、日本企業が重視する「根回し」や慎重な意思決定プロセスと、オーストリア側の柔軟でダイレクトなコミュニケーション文化の違いが話題となった。物流やサプライチェーンの現場でも、日本側は事前準備や書類の正確性を重視する一方、欧州側は現場での柔軟対応を前提とする場面が多い。
日本企業がオーストリアや欧州へ進出する際には、会社設立や就労ビザ取得など、行政手続きの複雑さも課題として挙げられた。登壇者からは、両国間のビジネスでは、制度理解だけでなく、互いの文化や意思決定プロセスを理解すること自体が重要な競争力になる、との意見が共有された。
羽田空港「Terminal.0」とのライブセッション
会場では、羽田空港のイノベーション拠点「Terminal.0」と結んだライブ中継も実施された。Terminal.0は、実際の空港導入前に新技術を検証する実証施設で、保安検査場や案内表示、移動モビリティなどをテストしている。ウィーン空港側は今後、Terminal.0との連携強化を進める予定だ。
大阪・関西万博後の経済効果を議論
「EXPO OSAKA - conclusion」と題するセッションでは、100万人超が来場したオーストリア館の取り組みや、木製リボンの松本市への移築、音響・AI分野での継続プロジェクトなどを紹介。
「EXPO OSAKA - conclusion」に登壇したVienna Airport Airportcity Developmentのピーター・デ・レーウ(Peter de Leeuw)氏と、Advantage Austria Director Generalのミヒャエル・オッター(Michael Otter)氏
日本とオーストリアの経済連携を官民で議論
午後のハイレベルパネルでは、日本大使館、JETRO、ウィーン空港、オーストリア経済労働省の関係者らが登壇。両国の経済連携について議論し、ロボティクスやライフサイエンス、中東欧向けインフラ事業などが有望分野として挙げられた。
ウィーン国際空港のギュンター・オフナー(Günter Ofner)氏、JETROウィーン事務所長の村上義氏、駐オーストリア日本大使の岩間公典氏、オーストリア経済労働省のヴォルフガング・ハットマンスドルファー(Wolfgang Hattmannsdorfer)氏が登壇
日本スタートアップが欧州市場へ向けてピッチ
午後の「Startup pitches」では、日本のスタートアップ4社が登壇し、AIインフラ、量子暗号、ESG分析、製造業DXなどの分野で事業を紹介した。ピッチは、オーストリア政府系機関「Advantage Austria」とオーストリアのスタートアップ支援ネットワーク「Global Incubator Network Austria(GIN)」の協力により、日欧スタートアップ連携プログラムの一環として実施された。
AI計算資源を共有するJasmy Lab
ジャスミーラボ株式会社は、生成AIブームによるGPU不足を背景に、未使用GPUを共有利用する分散型プラットフォーム「JANCTION」を紹介した。生成AIの学習に必要な高性能GPUは、大手テック企業への集中により、スタートアップでは調達に長期間を要する状況が続いている。
同社は、企業や個人が保有する未使用GPUやゲーミングPCをネットワーク接続し、必要な企業へ貸し出す仕組みを構築。AWSなど既存クラウドと比較して大幅なコスト削減が可能だという。4Kアニメーション制作や自動運転シミュレーション向けの計算処理にも活用されており、東京大学やパナソニックとの共同研究も進めている。
量子コンピューター時代に備える次世代暗号
株式会社クォンタムデータは、量子コンピューター時代を見据えた量子ノイズ暗号技術を紹介した。量子コンピューターが普及すると、現在一般的に使われている暗号方式は将来的に解読される可能性が指摘されている。
同社は、量子ノイズを利用した独自暗号方式によって、理論上は解読不能とされる通信技術を開発。既存の通信インフラを利用しながら高速暗号通信を実現できる点を特徴としており、人工衛星、防衛、通信キャリア向け用途を想定している。現在は、JAXAの人工衛星データ通信、大手通信キャリアと連携するほか、台湾の研究機関とも共同実験を進めている。
「三方よし」をAIで可視化。次世代サステナビリティ分析
Valuufy株式会社は、次世代型サステナビリティ評価プラットフォーム「ValuuCompass」を紹介。同システムは、同志社大学での10年間に及ぶ学術研究を基盤に開発されたもの。日本の伝統的な経営哲学「三方よし」を、現代のグローバル基準に合わせて「七方よし」へと発展させ、従業員、顧客、投資家、社会など7つのステークホルダーに対する企業の価値や貢献度を多面的に測定する。
特徴は、世界の財務・非財務フレームワークから抽出した1200以上の指標をもとに、企業が掲げる「方針」と実際の「成果」のギャップをデータ化できる点だ。ハルシネーションを排除し、信頼性の高いサステナビリティ・インサイトの提供を目指している。毎日新聞社のイノベーションハブ「毎日みらい創造ラボ」との戦略的パートナーシップや、米国の大手グローバルテック企業からの環境影響評価業務の受託など、国内外で実績を広げている。
ベテランの技術を動画で残すAI技能伝承システム
株式会社UnityStep AIは、製造業の技能伝承を支援するAIシステムを紹介。日本や欧州の製造業では、熟練労働者の高齢化と引退が進み、長年培われた職人技や現場ノウハウが失われるリスクが課題となっている。同社は、認知発達ロボティクスや画像処理アルゴリズムなどのAI技術を活用し、ベテラン作業員の動作を動画で撮影するだけで、「動画付き標準作業手順書(SOP)」を自動生成。数カ月を要していた作業を2〜3週間程度まで短縮できるという。
また、若手作業員と熟練工の動作の比較では、「どの動作の速度や角度、順番が異なるのか」を可視化できる点を強調した。属人的だった指導を標準化し、製造現場の改善サイクルを高速化できる。同社には東京大学・松尾豊教授が技術顧問として参画しているほか、特種東海製紙など大手製造業との共同研究・業務提携も進められている。
音とデザインを通じた日墺連携も
イベント終盤には、「Sound-tech Excursion」と題したセッションも開催され、音響技術やデザイン分野における日本とオーストリアの協力可能性について議論が行われた。
オーストリアの音響文化と、日本のゲームサウンドや先端音響技術には、「音と品質」を重視する共通点がある。空港ターミナルなどの公共空間を、音や演出によって文化・体験空間へ変化させる可能性も議論された。
イベントの最後には、Austrian Jazz-prize 2025を受賞したケンジ・ハーバート(Kenji Herbert)氏によるジャズライブも開催された。ウィーン国際空港のターミナル空間をライブ会場として活用する試みは初めてといい、ビジネス交流だけでなく、文化や体験を含めた日墺連携を象徴する締めくくりとなった。
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