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リニアを鉄道だけで終わらせない。核融合も支える超電導マグネットの産業基盤

Starlight Engineの超電導技術責任者に聞く、巨大インフラと次世代エネルギーの接点

特集
日本で核融合は産業になるのか。商用化の条件とは

 リニア中央新幹線の静岡工区をめぐり、静岡県が着工を容認した。長く停滞していた巨大プロジェクトが再び動き出そうとしている。

 リニアには、期待と同時に根強い批判もある。人口減少が進む日本で、巨額の投資をしてまで高速鉄道を整備する意義はあるのか。交通インフラとしての採算性や、公的資金の使い方を問う声もある。

 ただ、リニアにはもうひとつの見方がある。鉄道事業であると同時に、超電導マグネットを社会実装する巨大プロジェクトでもあるという視点だ。

 この技術は、核融合エネルギーの実現にも深く関わっている。リニアと核融合は、どのような技術基盤を共有しているのか。京都フュージョニアリング株式会社の子会社で、国内での核融合発電実証を目指すスタートアップであるStarlight Engine株式会社のトカマク統合部門長 岩井貞憲氏に聞いた。

リニアと核融合は、超電導マグネットを必要とする巨大システム

 リニア中央新幹線で注目される超電導マグネット技術は、核融合産業から見ても重要な意味を持つ。岩井氏は、リニア中央新幹線とフュージョンプラントを、いずれも「超電導マグネット技術がなくては成立しないアプリケーション」と位置づける。

 リニアでは、超電導マグネットによって車両を浮上・走行させる。核融合では、超高温プラズマを磁場で閉じ込める。高速鉄道と次世代エネルギーという用途の違いはあるものの、どちらも強い磁場を安定して作り出す技術を前提にしている。

 こうした超電導マグネットの開発は、1960年代からリニアモーターカーと核融合の双方で進められてきた。長期にわたる研究開発の中で、設計、製造技術、人材、サプライチェーンが蓄積されてきた。

 交通インフラとして議論されることが多いリニア中央新幹線は、同時に超電導マグネットを実社会で使い続ける巨大プロジェクトでもある。

超電導マグネットのイメージ

核融合炉では、超電導マグネットがプラズマを閉じ込める

 トカマク型など現在の主流となる核融合炉における超電導マグネットの最も重要な役割は、超高温プラズマを強力な磁場で閉じ込めることだ。

 核融合反応を起こすには、燃料となる原子核を超高温のプラズマ状態にし、一定時間閉じ込める必要がある。プラズマは非常に高温のため、通常の材料でできた壁に直接触れさせることはできない。そこで、磁場によってプラズマを制御し、装置内に保持する。

 高い磁場を実現できれば、炉をコンパクトにしやすくなる。装置の小型化は、建設コストや開発期間の低減にもつながる。超電導状態では電気抵抗がほぼゼロになるため、大規模な磁場を高効率で維持できる点も大きい。核融合炉のように長時間、大きな磁場を安定して作り続ける装置では、この効率の差が重要になる。

 さらに、超電導マグネットは、プラズマを閉じ込めるためだけでなく、プラズマ加熱装置であるジャイロトロンにも活用されている。ジャイロトロンは、強力なマイクロ波を発生させ、プラズマを加熱する装置だ。

京都フュージョニアリングが開発する核融合炉用のプラズマ加熱システム「ジャイロトロン」

 超電導技術は核融合炉の「閉じ込め」と「加熱」の両面を支えている。核融合の商用化を考えるうえで、超電導マグネットは周辺部品というより、性能、経済性、実現性を左右する中核技術のひとつといえる。

リニアと核融合を支える、共通の超電導技術

 リニア向けの超電導技術と、核融合向けの超電導マグネットには、多くの共通点がある。基盤となるのは、超電導線材、極低温冷却、コイル設計・製造、クエンチ保護といった技術だ。

 クエンチとは、何らかの要因で超電導状態が崩れ、過熱や破損につながるような電気抵抗が発生する現象を指す。大きな電流を扱う超電導マグネットでは、異常時にエネルギーを安全に逃がす設計が欠かせない。

 人材面でも、超電導や低温工学の技術者は、リニアと核融合の両分野で活躍できる可能性がある。線材、冷却、コイル製造、試験評価、運用保守といった領域では、用途を越えて知見が生かされる。

 リニアと核融合は同じ超電導産業の基盤を共有しながら、それぞれ異なる条件のもとで技術を発展させている。

 ただし、核融合の場合は用途に応じた厳しい設計要件がさらに加ってくる。核融合炉に求められる中性子照射環境や長期間運転への対応はもちろん、より高い磁場と巨大な電磁力への対応が求められるため、線材を束ね、強固な構造材に収納した複合集合導体が必要になる。

産業化の競争は、サプライチェーンの競争になる

 フュージョンエネルギープラントを支える技術のひとつが、超電導マグネットと低温技術である。岩井氏は、日本が強みを持つ領域として、超電導線材、特殊材料、低温機器、精密製造を挙げる。

 目下進む将来をにらんだ国際競争を左右するのは、上述した機能を国内で維持できるかどうかだ。核融合の商用化が進めば、個別の要素技術だけでなく、それらを組み合わせて安定した装置として作り上げる力が問われる。

 必要になる人材も、物理研究者だけではない。機械、電気、材料、プラント、品質保証など、幅広い専門性が求められる。研究成果を装置に落とし込み、繰り返し作り、運用し、保守する体制が整って、ようやく核融合は産業として成立する。

 産業化の競争は、サプライチェーンの競争でもある。リニアで蓄積される超電導機器の設計・製造・運用・保守の知見は、核融合を含む次世代産業にとっても重要な資産になり得る。

 その動きは、Starlight Engineの資金調達にも表れている。同社は2026年7月15日、第三者割当増資により総額60.6億円の外部資金を初めて調達した(参照)。調達資金は、FASTプロジェクトの工学設計、研究開発、サイト・規制対応、サプライチェーン構築、人材・組織体制の強化などに充てられる。

 投資家には、金融機関やベンチャーキャピタルに加え、不動産、通信、建設、電力、素材メーカーなど幅広い業種が名を連ねる。超電導線材を手がける株式会社フジクラや、超電導線材などでフュージョン分野に関わってきた古河電気工業株式会社も参加した。核融合の実証は、研究開発だけでなく、資金、人材、サプライチェーンを含む産業プロジェクトとして動き始めている。

巨大インフラは、次世代産業技術を育てる場にもなる

 大規模プロジェクトは、技術開発だけでなく、人材育成やサプライヤー育成の場にもなり得る。

 「リニア中央新幹線によって蓄積される超電導機器の設計・製造・運用・保守の知見は、フュージョンエネルギーに限らず、量子技術、医療機器など幅広い分野へ波及する可能性があります」と岩井氏は述べる。

 先端産業は、研究成果だけで育つものではない。実社会で使われ、保守や運用、品質保証、コストと向き合うことで、技術の競争力が磨かれていく。

 もちろん、リニアをめぐる論点は多い。人口減少下の需要、建設費、地域環境への影響、事業としての妥当性は、引き続き検証されるべきテーマだ。

 そのうえで、巨大インフラの価値を乗車券収入だけで測ると、技術や人材、サプライチェーンが次の産業へ波及する側面は見えにくくなる。核融合エネルギーの実現にも、超電導マグネット、低温機器、電源、計測、保守まで含めた産業基盤が必要になる。

 リニアをめぐる議論は、交通インフラとしての妥当性に加えて、日本が超電導技術をどのように次の産業へ接続していくのかを考えるきっかけにもなりそうだ。

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