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オープンイノベーション活動の分類で知っておきたい「インサイドイン」と「アウトサイドアウト」

「The Oxford Handbook of Open Innovation」の紹介②

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

 オープンイノベーションの基本は、アウトサイドイン(外部シーズの導入)、インサイドアウト(内部シーズの導出)、カップルド(相互のやり取り)である。それに加えて本稿では、企業の境界線を越えない「インサイドイン」と「アウトサイドアウト」の2つの型を追加する。

 Chesbroughらが著した「The Oxford Handbook of Open Innovation」(以下、「OIハンドブック」)について、拙著「OI担当者本」(『オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド』)の内容との関連性に触れながら、役立つ内容を取り上げていく中で、まずは「オープンイノベーションの分類」について取り上げたい。

「The Oxford Handbook of Open Innovation」
The Oxford Handbook of Open Innovation (Oxford Handbooks)

*羽山友治 [2023], 『オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド』 https://ascii.jp/serialarticles/3001028/.
*羽山友治 [2024],『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』 ASCII STARTUP,角川アスキー総合研究所。

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オープンイノベーションの3分類

「OI担当者本」では、Gassmannによる知識の流れる方向に基づいたアウトサイドイン・インサイドアウト・カップルドの3分類を紹介した。クローズドイノベーションとの対比で言うと、いずれも知識が企業の境界線を越えているところに特徴がある。本分類は活動に投入するリソース配分に役立つことから、実務家も知っておくべき基本的な知識であるため、それぞれについて今一度整理しておく。

知識の流れる方向に基づいた分類

『オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド』p. 47

「アウトサイドイン」は、社外のシーズを社内に取り込む活動である。新製品やサービスを開発する際に足りないシーズを外部に求める場合に相当する。外部のシーズを活用したビジネスプロセスの効率化にも有効で、DXの文脈でも頻繁に活用されている。大企業の多くがアウトサイドイン型のオープンイノベーション活動に注力しており、アカデミアの研究でも主な対象となっている。

 逆向きの「インサイドアウト」は、社内のシーズを社外に導出する活動を指す。オープンイノベーションの初期の研究においては、社内で用いられていないシーズを売却して金銭的な利益を得る取り組みとして言及されていた。本文脈では、研究開発に費やしたコストを回収するという話でしかなく、戦略的な意図に欠けることから重要度が低い取り組みと認識されていた。

 一方で、さまざまな用途があり得る素材を開発している化学メーカーやAIのような汎用技術の開発から研究開発の取り組みを開始する電機メーカーの場合、シーズを開発した後で本格的な用途探索を行うことがあり、位置付けが変わってくる。シーズ起点での活動は難易度が高いが、最近では国内でも技術マーケティングに使えるサービスが出てきているため、工夫次第では成果につなげられるようになってきた。

 最後の「カップルド」はアウトサイドインとインサイドアウトの組み合わせで、協業パートナーと相互にシーズをやり取りしていく活動である。共通の目的に対して特定のパートナーと一定期間にわたって深いレベルで協業する際に発生する。ICT産業で一般的な、外部のシーズを取り入れつつ内部のシーズをライセンシングしながら製品やサービスを開発するようなビジネスモデルもこれに含まれる。

オープンイノベーションの拡張された分類

「OIハンドブック」の5章に、イノベーションの創造と商業化の2軸によるオープンイノベーションの拡張された分類が紹介されている。

以下を元に著者作成
*Bogers, Marcel and Joel West, “A Multi-level Framework for Selecting and Implementing Innovation Modes,” Chapter 5, The Oxford Handbook of Open Innovation.

 アウトサイドインとインサイドアウトは従来の定義そのままであるが、新たに「インサイドイン」と「アウトサイドアウト」の2つの型が追加されている。両者は企業の境界線をまたがない点で、従来のオープンイノベーションの議論から外れた活動ではあるものの、より広義のイノベーション活動全体を見直すきっかけを与えてくれる。よって実務家にとっても興味深い話題ではないだろうか。

「インサイドイン」はアイデアの創出や技術開発、商業化を自前で行う伝統的な垂直統合型の活動と考えるとよい。技術的な発明や特許の取得につながる研究開発力の高さに加えて、マーケティング面でも競争力が必要である。最近の研究では同じ言葉を使ってサイロ化している大企業内の異なる組織間における知識を共有させる試みも議論されており、オープンイノベーションチームの役割の拡大が期待できる。

 もう一方の「アウトサイドアウト」は、企業の外でイノベーションの創造と商業化が行われるにも関わらず、当該企業の利益となる活動である。そのため競合他社が特定のパートナーと協業するような自社の利益に無関係な試みは、当然のことながら該当しない。例えばサードバーティーがイノベーションを創造し、販売できるプラットフォームを提供することを通じて、コア製品の価値を高める場合が相当する。

 その他には戦略的な理由から特定のイノベーションを必要としているにも関わらず、自前で開発する能力がなく、所有権を確保することに対するインセンティブが存在しない状況にも適用できる。例としては、「OI担当者本」の14章で紹介したデンマークのビールメーカーであるCarlsbergがベンチャー企業と協業して生物分解性繊維を用いたボトルを開発した事例が挙げられる。

「OIハンドブック」の4章では、アウトサイドアウトの事例として、Carlsbergに加えてオランダの航空会社であるKLMの取り組みが紹介されている。
●KLMは、2050年の炭素排出量ゼロを目指すに当たってサステナブルな航空燃料(SAF)に大きな関心を持っていた
●KLMはSAFを開発・生産する意欲はないが、安定的かつ競争力のある価格で供給してくれる企業を欲していた
●SAF供給のエコシステムを展開するハブ企業としてのSkyNRGが、KLM・North Sea Group(石油市場に製品/サービスを提供)・Spring Associates(サステナブル分野の戦略コンサルティング会社)によって設立された
*Vanhaverbeke, Wim and Victor Gilsing, “Opening up Open Innovation: Drawing the Boundaries,” Chapter 4, The Oxford Handbook of Open Innovation.

 上記の例では、KLMはエコシステムを形成してイノベーションを創出するきっかけを作ったことから、扇動者(instigator)という役割が当てられている。SAFの技術開発自体も重要ではあるものの、その商業化には規制や基準の設定、運用面での対応など、業界全体を採用に向かわせる大きな力が必要となる。さらにはKLMが最初の顧客となることを保証することで、SkyNRGのようなスタートアップ企業がようやく資金を調達できるようになる。

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

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