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チェスブロウらが著したオープンイノベーションの新著を読み解いてみる

「The Oxford Handbook of Open Innovation」の紹介①

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

 2023年の7月3日から9月11日にかけて、「オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド」と題する連載記事を書いた(連載一覧はこちら)。またその内容に追記して、2024年3月1日に「オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド」(以下、「OI担当者本」)を上梓した。どちらもオープンイノベーションに関する”共通言語”を作ることを意図していた。

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 タイトルは初級者向けとなっているが、応用から発展的な内容もそれなりに含めていた。主な想定読者は大企業のオープンイノベーション担当者であるものの、新規事業開発やデジタルトランスフォーメーション(DX)のような広い意味でイノベーションに関わる方々にも、さらにはベンチャー・スタートアップ企業や、中小企業、大学、政府/自治体でオープンイノベーションに興味があるすべての人々も対象としている。

 これまでの関連書籍との大きな違いは、アカデミアの研究を参考にしながら実務家に役立つ知見やノウハウをまとめるというスタイルを採用していたことにある。それらに続く本連載では、読者が疑問に思ったり掘り下げてほしいと考えたりしたかもしれない内容や、研究者の世界で話題になっているオープンイノベーションに関する最新のトピックをいくつか紹介したい。

「The Oxford Handbook of Open Innovation」

 2024年5月8日、「The Oxford Handbook of Open Innovation」(以下、「OIハンドブック」)という書籍が出版された。全57章で981ページに及び、オープンイノベーションを提唱したChesbroughを含む4人の編集者に75人の査読者、合計で136人の寄稿者によって作成されている。また日本円にして約30,000円という価格が付けられている辞書のような大著である。
*Chesbrough, Henry, Agnieszka Radziwon, Wim Vanhaverbeke and Joel West (eds.) [2024], The Oxford Handbook of Open Innovation,Oxford University Press.

 背表紙の紹介文には、「本書は大きく成長しつつあるオープンイノベーションの分野における決定的な文献となることを目指しており、広範囲なトピックにおける重要な研究を要約している」とある。Chesbroughが最初の書籍を出した2003年以降の研究が包括的にまとめられていることから、オープンイノベーションを深く学びたいと考える実務家にとって、格好の題材となるのか、内容とともに検証してみたい。

 本書の構成と扱われているテーマは以下の通り。

パート1:Open Innovation Past, Present, and Future
オープンイノベーションの定義の振り返り、テーマの紹介、イノベーションマネジメントに対する影響、イノベーションに対するオープン/クローズドなアプローチのコスト-ベネフィット、オープンイノベーションであるもの/ないものの区別と4つのモード

パート2:Open Innovation Within Firms
個人の役割とネットワークの実践、プロジェクト、中小企業、ベンチャー企業、大企業、技術とIPに関するオープン性の設計

パート3:Open Innovation Among Firms
倫理、信頼、アライアンス、コーペティション、加速因子、コーポレートベンチャリング

パート4:Networked Forms of Open Innovation
エコシステム、業界、クラウドソーシング、コミュニティ、仲介業者、プラットフォーム

パート5:Implications for Public Policy
スマートシティ、クラスターとアントレプレナーエコシステム、産学連携、科学、ディープテック、政策

パート6:New Developments in Open Innovation
デジタル技術とインフラ、人工知能、デジタルヘルス、エネルギー転換と脱炭素、グランドチャレンジ

パート7:Open Innovation and Theory
協業のダイナミクス、ミクロ的基礎、認知、デザイン、オープン戦略、ビジネスモデルイノベーション、エフェクチュエーション、地政学

パート8:Open Innovation in Practice
オープンR&D、オープンソースイノベーション、オープンソースの価値測定、データモデル、データ交換標準、5G、月面基地へのエネルギー配給、オープンイノベーションの成熟度モデル

パート9:Open Innovation and Teaching
ビジネススクールにおける教育、技術者の教育

パート10:Challenges, Critiques, and Suggestions
限界、評価指標、失敗、専有可能性、将来

「OIハンドブック」と「OI担当者本」の違い

 あまりにも違いが大きすぎるため不適切かもしれないが、あえて両者を比較してみると、「OIハンドブック」は研究者向け、「OI担当者本」は実務家向けといえる。「OIハンドブック」の大部分は研究者によって書かれており、概念的な内容が多い。一部存在する実務家の手による章は、取り組みの大枠や特殊すぎる個別事例を扱うにとどまり、実務に関する汎用的なノウハウには触れられていない。

 ところどころに、私(や恐らく読者の大半)のような実務家の役に立つ箇所もあるものの、1,000ページ弱もあるということで、目を通すだけでもかなりの労力がかかってしまう。現実的に考えて、目の前の業務に忙しい人々にはコストパフォーマンスが悪いと思われるのではないだろうか。そこで本連載では今回から数回にわたって、「OIハンドブック」で実務家が読むべきパートについて、「OI担当者本」の内容との関連性に触れながら、役立つ内容を取り上げていきたい。

次回以降のトピックの紹介

●オープンイノベーション活動の分類(第2回)
従来のアウトサイドイン・インサイドアウト・カップルドの3分類に加えて、インサイドイン・アウトサイドアウトの概念を紹介する

●オープンイノベーション活動の実践ノウハウ(第3回)
オープンイノベーション活動のプロセスであるWFGMモデルのグローバル標準としての位置付けを検討する

●オープンイノベーションの成功事例(第4回)
取り上げられているオープンイノベーションの成功事例や情報源について触れる

●オープンイノベーションの失敗事例(第5回)
これまでにほとんど触れられることのなかった失敗事例に関して、Chesbroughによる考察を紹介する

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

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