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知財活動を社内で推し進めるスタートアップの経営層が実践していること

「現役スタートアップのCxOが語る事業と知財のリアルな本音 ~経営層が真に知るべきメリットや利害関係者への説明方法とは~」

特集
STARTUP×知財戦略

提供: IP BASE/特許庁

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Q3 知財へ社内のリソースをかける際に、そのモチベーションの源泉はどこにある? なぜ知財に力を入れているのか?

 続いての質問は「知財へ社内のリソースをかける際に、そのモチベーションの源泉はどこにある? なぜ知財に力を入れているのか?」。

 村上氏は、「多くの大学発スタートアップにとって知的財産は重要な財産(経営資源)なので、その利活用が事業の成長に直結する。そのため、それなりのリソースをかけるべきと考えている。周りのスタートアップから知財を後回しにしたことによるトラブルや、大手企業とアライアンスを組む場合に辛い思いをしたケースをよく聞くので、そうならないためにも、知財を大切にする意識が必要だと思う。」と答えた。

株式会社メタジェン 取締役COO・CIPO 村上 慎之介氏

 楊氏は、「最初のうちは、コアのアルゴリズムを隠すために社内でアルゴリズムエンジンを持ち、ユーザーにはAPIのみを提示して使ってもらっていたが、コストがかかるうえに開発のスピードが遅くなってしまった。そこで、アルゴリズムを実装したコードもユーザーに提供して一緒に開発し、さらに、他社の研究者も巻き込んで研究開発するようにした」と、自社の権利を守りながら技術をオープンにして、他社との連携に活用していることを紹介した。

 閔氏は、「知財に力を入れる理由は、技術力を底上げしたいから。知財で見える化することで、開発者モチベーションが上がる。弊社では、発明に関わった人、アイデアを出したメンバーを評価する仕組みを構築している。ただ、発明提案書を自分で書くのはすごく大変なので、弁理士が一緒に具体化してくれる体制にした。すると、面倒くさくなくなり、技術開発にリソースを割けるようになる。先行研究を調べながら技術開発することが習慣化し、エンジニアの質がさらに高まり、社内の技術の底力も上がっているように思う」と話した。知財にリソースをかける目的は、防御、連携、社内の技術力向上のため、と三社三様のようだ。

LeapMind株式会社 弁理士 市川 茂氏

 ここで、市川氏から「知財で実際に効果があった例は?」と質問。閔氏は、「テック系は投資家から知財を押さえているのかは必ず指摘され、知財戦略の資料も求められる。知財対策をしっかりやっているとアピールポイントになる」と答えた。また、村上氏によると、共同研究や事業開発の連携先や、委託研究のクライアント企業からの信頼感につながっているとのこと。

 ちなみに、株式会社Liberaware、株式会社 QunaSys、株式会社メタジェンの3社とも知財部門は設置しておらず、定期的に開発部や事業部など各部門からメンバーが集まる評議会を開いて知財戦略を検討しているそうだ。

 髙栁氏は企業知財部員の立場から、「エンジニアに興味を持ってもらうためには、知財を出すといいことがある、というイメージを持ってもらうために地道に働きかけるしかない。3社は知財の専門部署こそない中で、各部署の担当者が集まって会議をするのは全社的な意識を上げるためにいい方法。どのスタートアップも参考になる」と評価した。

株式会社ビードットメディカル コーポレート本部 知的財産室 室長 髙栁 弘泰氏

 また、髙栁氏から、「知的財産はお金をかけようとすれば際限がない。迷ったことは?」と質問。

 村上氏は、「出願前にこの特許がどのようにビジネスで活用できるか考えてはいるが、出願後も定期的に検討を続け、出願したけれど権利化しないとか、PCT出願したけれど移行しないということはある。権利化しても十分なリターンがないと判断すれば潔くお金をかけるのをやめる決断も重要である。なお、権利化できなかったとしても、出願の記録は残るので、ブランディングとして価値があるとは思っている」と答えた。

 閔氏は、「技術者側と事業部側は考え方がまったく違う。特許は申請費用も維持費もかかり、メンバーとの意見のぶつかり合いは常にある。海外に出すかどうかも毎回もめる。さらに、特許として所有することに対して、外部に対する説明も必要になる。社内と社外で戦いがあるが、それだけ特許に対してみんなが気にしているともいえるので、議論になるのは悪いこととは考えていない」と話した。

 芝沼氏は、「スタートアップには、まず知財に興味を持ってもらうことのほうが難しい。CxOの立場で、どのように社内の意識を高めていったのか、きっかけがあれば教えてほしい」と質問。

 閔氏は、最初に出資を受けたドローンファンドからの知財支援を挙げた。「担当の弁理士さんが特許によるスタートアップの事例をたくさん共有してくれたことと、発明を文書化する面倒な作業をすべて引き受けてくれたのが大きい。これがきっかけで、徐々に特許出願の抵抗感がなくなり、特許は簡単に出せる、という感覚に変わっていった」と語った。QunaSysでは、弁理士に根気よく量子コンピューターのアルゴリズムについて説明したことで、徐々に弁理士側の理解が深まり、知財活動が楽になったという。

 専任の知財担当者がいない創業期のスタートアップにとって、伴走してくれる弁理士は頼もしい存在だ。スタートアップへの理解のある弁理士と接点を持つことが知財活動の第一歩となる。日本弁理士会は全国9地域に地域会があるので、まずは最寄りのセミナーや無料相談に参加して知財に取り組むきっかけとしてほしい。

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